第2話 準備

 行くと決まれば準備だ。出発は九月、今は五月なので四か月先となる。

 必要な準備は、旅程の決定、交通機関の予約、宿の予約、ビザの取得。それに加え、彼女からワクチン接種を勧められた。いかにも医学生らしい発想だ。打つべきワクチンはダニ媒介脳炎ワクチンと狂犬病ワクチンである。私は前者のみ、彼女は両方のワクチンを接種した。


 彼女と都合をすり合わせ、決定した旅程は以下のとおりだ。私たちはコスパ重視である。パック旅行や旅行会社の利用ははなから頭になかった。


九月十九日(木) ヴラジヴァストーク前泊

九月二十日(金) シベリア鉄道ロシア号乗車

九月二十一日(土) シベリア鉄道二日目

九月二十二日(日) シベリア鉄道三日目

九月二十三日(月) シベリア鉄道四日目、イルクーツクで下車

九月二十四日(火) イルクーツクからバイカル湖畔へ

九月二十五日(水) バイカル湖周辺観光後、イルクーツクへ

九月二十六日(木) 午後解散。佐藤は同日夜、Zさんは翌日帰国へ

九月二十七日(金) 羽田到着


 旅程が決まると、次は交通機関と宿の予約だ。交通機関のうち、日本―ロシア間の往復は各自都合よい便を手配し、現地、ヴラジヴァストークで落ち合うことにした。宿は交通の便に配慮したうえで安いところを選んだ。

 次はいよいよ、メインのシベリア鉄道の予約だ。シベリア鉄道はヴラジヴァストークからモスクワまでを七泊八日で結んでいるが、彼女も私もそのなかほどに位置するバイカル湖が見たい。バイカル湖観光とシベリア鉄道全線制覇の両立は時間的に困難だったので、シベリア鉄道はヴラジヴァストークからイルクーツクまでの三泊四日の乗車とした。

 車両には等級がある。一等車は定員二人の、二等車は四人のコンパートメントタイプ、三等車は二段ベッドがぎっしりと並ぶドミトリータイプである。さあ、どれにしよう?

 まず三等車はありえない。物理的な仕切りがなければ嫌でも交流が生まれる。しかし、無防備かつ若い女性である彼女を三等車に放り込むのはためらわれた。一等車か、二等車か。一等車なら私たち以外の旅客がコンパートメント内に出入りすることはない。荷物の管理が各段に楽だ。そのいっぽう、旅の醍醐味でもある旅人同士の交流のチャンスもなくなる。金額的な問題もある。迷った挙句、二等車を選んだ(19,124円)。

 シベリア鉄道の予約はネットで行える。サイトは英語表記もあり、無事、自力でe-チケットを得た。彼女と私の名前が入ったe-チケットのPDFを目にすると、一気にロシアが迫ってきた。

 ロシア旅行にはビザが必要だ。十分な時間および精神的余裕がなかったので、これについてはネットで見つけた代行業者にお願いした。

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