美人の雪女姉妹に好かれまくって同棲ハーレム状態だけど部屋の中が極寒すぎて凍死寸前なんだが?

片月いち

第1話 絶滅危惧種・雪女

 2XXX年。



 かねてより指摘されていた地球規模の温暖化により、世界から“冬”が消滅した。

 南極の氷が溶けて海水面が上昇して大量の難民が発生したり。食料不足によって戦争の危機が高まったり。人類は未曽有の大混乱に陥ることになる。


 だが、人類よりはるかに大きな危機に瀕している者がいた。

 古来より雪と共にあり、冬がなければ生きていけない者たち……。



 雪女である。





 ◆





 じりじりと、刺すような日差しが頭上から降り注いでいた。


 うだるような暑さ。いや、本気で生命の危機が懸念される暑さの中、通いなれたアスファルトの道をふらふら歩いていく。


 ぼくの名前は、夏目冬彦なつめふゆひこ。しがない大学生だ。


 今は買い物終わりの帰り道。晩ご飯の調達に近くのコンビニに寄っただけなのに、すでに瀕死だ。

 はやくクーラーの効いた部屋に逃げ込まなくては、ここで干からびてしまう。


 ぼくは、うのていでアパートの玄関を開ける。



「あらぁ? ふゆくん帰ったの? おかえりなさい」



 肌の白い、モデルみたいな長身の美女が出迎えてくれた。


 彼女は冷香れいかさん。

 ぼくの同居人のひとりである。



「うん。ただいま。というか部屋のなか冷やしすぎじゃない? ずっと冷房つけてるの?」

「仕方ないじゃない。クーラーなしじゃ溶けちゃうわ。なんですもの」



 そう。彼女は雪女だった。

 常夏になってしまったこの世界で、ぼくは雪女と同棲しているのだった。



 地球温暖化によって“冬”を奪われた雪女たち。

 彼女らは絶滅危惧種に指定され、世界的に保護が推奨されるようになった。


 そんな中できたのが、ぼくの通う大学にある“特待生制度とくたいせいせいど”。

 雪女を保護――家に住まわして生活を保障することで、学費の大幅免除などの特典を受けることができる、画期的な制度だ。

 ぼくのような貧乏学生には大変ありがたい制度で、このお陰で大学に通えているといっても差し支えない。


 なんで研究機関とかで保護しないのかって?

 それには雪女の持つ、ある特性がかかわってくる。



 彼女たちは……




 “若い男との同棲どうせい”じゃないと嫌と言うのだ。



 雪女の伝承に基づく、致し方ない理由である。

 しかも男にも好みがあり、イケメン過ぎるのは嫌だとか、純朴であまり女慣れしていないのが好みなどとのたまう。


 コアラ並みにめんどくさい生き物だが、そういう生態ならば仕方ない。

 よって大学側が希望者を精査して適正が認められた――雪女の好みに合致した者のみが、制度を利用できるのだった。



「……買い物ありがとうね。私たちは外に出ただけで溶けちゃうから」

「ううん。いいよ、これくらい。自分の用事もあったし」

「わあ、私が好きなアイス。これ、ネット通販じゃ買えないのよね……」



 ぼくから買い物袋を受け取った冷香さんは、嬉しそうに頬を緩める。

 彼女は特待生制度の利用を申請した際に、認可が下りてぼくのところにやってきた雪女だ。

 美人で、年上のお姉さんといった感じの、包容力抜群な女性だ。



「とにかくお疲れだったわね。さっそくお夕飯にする? お風呂にする? それとも……」



 艶めかしく身を寄せる冷香さん。

 そっとぼくの腕をとった。



「わ・た・し??」

ちゅめたいっっ!!?」



 冷香さんの手のひらが触れて、ぼくは悲鳴を上げてしまった。

 さすがは雪女。体温が冷たすぎるのだ。心臓が止まるかと思った。



ふゆにい? 帰ったんなら早くドア閉めてよ。熱気が入ってくるんですけどー?」



 さらに部屋の奥から誰かがやってきた。

 こちらは冷香さんとは打って変わってボーイッシュな雰囲気の女の子。


 彼女も雪女だ。名前は雪奈ゆきなという。


 冷香さんの妹だそうだ。姉妹の雪女はめずらしいと聞いたことがある。


 雪奈は、絡み合うぼくと冷香さんを見て眉を吊り上げた。



「ちょ、お姉ちゃん! なにイチャイチャしてんのよ! 離れて離れて!!」

「なによう、これからイイコトするんだから。お子様はゲームでもしてなさい」

「うっさい! 年中発情雪女! 冬にいもデレデレするなぁ!!」



 雪女二人は、ぼくを取り合ってあーだこーだと言い合う。

 いや。ちょっと腕取らないでほしいんですけど。握られたところが凍傷になりかけているんですけど。



「冬くんもこんなお子様じゃなくて、私みたいな大人のオンナの方がいいわよねー?」

「なっ!? 色ボケは引っ込んでなよ。この前あたしのことカワイイって言ってたもん。ねー? 冬にい」

「……ま、まあまあ。二人とも落ち着いて。とりあえずご飯にしようよ。ぼく、熱々のタコ焼きを買ってきたんだ」

「じゃあ、私が食べさせてあげる! ほら、ふーふー! あーん」

「な、待って! あたしが食べさせる! フーッフーッ!」



 二人は熱々のタコ焼きに息を吹きかけて、そのまま口元まで持ってくる。

 彼女たちの、凍てつく息吹を吹きかけられたタコ焼きが、ぼくの口に放り込まれた。



ちゅめたいっっ!!?」



 ……雪女との同棲生活は、ときに命がけなのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る