第2話 大丈夫、ただの部長会議だ

「それでは、毎月恒例の部長会議を始めたいと思います」

一ヶ月に一度行われる学校全ての部の代表者が集まる部長会議。ここでは、各クラブが現在励んでいる活動であったり、学校の行事連絡などが伝えられる。本年度、生徒会長が牧野さんのアドバイスを受け、実施したのがきっかけであり、クラブ生からの評価もよく、会長の評価を良くした一つの理由とも言える。特別教室に長机が向かい合うように二つ並べられ、生徒会役員だけが端の別席に座っている形で、会議が行われる。

「ではまず最初に、生徒会長から一言をいただきます」

会長が席を立ち、一礼をする。こうやって見ると、確かに真面目な優等生に見えないこともない。

「皆、もう既に知っていることだと思うが、遂に本年度の文化祭まで一ヶ月を切った。部活によって各々、準備等は様々であると思うが、時には協力し、時には競い合いながら、素晴らしい結果を残してくれることを期待している」

生徒会長の演説に教室内が湧く。やっぱりこの人、カリスマ性に関しては化け物だな。

「会長、ありがとうございました。続いて、各クラブの活動報告に移ろうと思い—————」

「すみません」

隣の席に座っていた女子が手を挙げる。

「なんでしょう?」

「新聞部の件についてなんですが————」

新聞部……そんな部活あっただろうか。おそらく、周りの人間も僕と同じことを思ったらしく教室内がザワつき始める。司会を務める生徒会役員の牧野さんも手元の資料を必死に探しているがどうやら見つからなかったようだ。

「すみません。書類の提出は……」

「はい、確か一橋会長にお渡ししたと思うのですが」

全員の視線が生徒会長に集まる。

「ああ、もちろん把握している。活動報告の際に一緒に話してもらおうか」

だめだこいつ、絶対忘れてたやつだ。微かに眉がピクピク動くのは会長が動揺している時の証拠である。こんなんじゃ信頼なんてあったもんじゃ…

「流石、会長。やっぱり全部頭の中に入ってるんだな」

再び歓喜に湧く教室。ここにいるやつは全員催眠にでもかかっているのだろうか。

前を向くと一番慌てていた牧野さんも会長に敬服の視線を向けていた。

ここまできたらもはや宗教だろう。

「ありがとうございます」

そう言って、新聞部ガールは席に座り、会議が再開された。

この後、各クラブ代表者が一人一人、今月の活動内容を報告し、遂に新聞部の番が回ってくる。教室中の皆が期待の視線を向ける中、新聞部ガールは臆することなく話し始めた。

「皆さん、こんにちは。今回新聞部の部長に就任させていただきました荻野千恵おぎの ちえと申します。友人からはよく『チエちゃん』と呼ばれるので、そう呼んでいただけると幸いです」

彼女は、前髪を耳にかけ直して、周囲に笑顔を振り撒く。黒髪のポニーテール。よく見ると山伏が好きそうな顔立ちをしている。山伏は「女子は顔よりも中身」と言っていたので、彼のお眼鏡にかなうかは知らないが。

「さて、今回私達はその名の通り、校内掲示用の新聞作成を目標とする新聞部を結成しました。実際、各学年の廊下に掲示している新聞を読んだ方も多いのではないでしょうか」

教室内にいる何人かが首を縦に振る。そんなものが貼られていたのか。

「しかし、現時点では部室が存在せず、活動場所に困っているというのが現状です。現在は図書館内を借りて制作を行っているのですが、取材録音の再生の際だとどうしても場所が必要になりまして……」

なるほど、確かにこの学校には空いている教室がない。

「そこで、今回私達は、現在文芸部が使っている元新聞部室を、再び我々の活動場所にしたいと考えております」

なるほど、なるほど……

ん?気のせいだろうか、今文芸部が使っている部室と言わなかったか?

さすがにまさかな。うちには、会長のBL本があるんだ。部室がなくなるはずがない。

「以前、文芸部を訪問した際にも、文芸部の方が協力すると仰っていただき」

そんな記憶ないぞ……

「小説執筆は基本的にどこでもできる、とのことなので、文芸部の蔵書とともに図書館で活動していただくのが最適かと思います」

会長がこちらに冷たい視線を送っている。僕は小さく溜息をつき、恐る恐る手を挙げる。

「すみません、そんなことを言った覚えはないんですけど…」

勇気を振り絞って、声を出したものの上手く話せず、ボソボソとした声になってしまった。

「確か、部員の山伏さんが……」

はい、犯人確定。誰だよ、顔よりも中身とか言っていたやつは。

「あ、すみません……」

僕は、恥ずかしくなって、ボソッと謝って、下を俯く。

「他に何か意見がある方はいらっしゃいますか?」

牧野さんが問いかけるも、教室内は静寂に包まれたままだった。

正直その後の内容はほとんど頭の中に入ってこず、気づけば会議は終わっていた。

その後、あまりの突然のことに理解できないまま部室に戻ると会長がすごい眉をピクピクさせながら座っていた。

《続く》


おまけ

「山伏、お前こんな女性好きそうじゃん」

「どれどれ、あー、確かに顔は良いんだけど、なんか中身が俺と合わない気がする」

「なんだそれ」

「女性は顔じゃなくて中身なんだよ」

「ふーん」

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次の更新予定

2024年12月30日 08:00

文芸部には女子がいない! 名無し部長 @nanashibuchou

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