ショートタイムリーパー

ロックホッパー

 

ショートタイムリーパー

                       ー修.


 大学生の山本翔は、どうやら自分にタイムリープの能力があることに気付いた。心の中で「戻れ!」と念じるとタイムリープすることができた。しかし、それは現在の記憶を持ったまま、5分前の自分に戻れるというものであり、しかも1日に1回しか発動しないものだった。


 翔はこの能力で一儲けできないかと考え、競馬に挑戦した。しかし、レースの結果を見届けた後、5分前の過去に戻って万馬券を買ってみてもレースの結果は違うものとなっていた。他の掛け事でも株の取引きでも同じように5分前とは違う結果となってしまい、思ったように儲けることはできなかった。これらのことから、翔がタイムリープをすることで因果律が影響を受け、未来が変わると考える必要があるようだった。


 翔はこの能力は使い道について考えてみた。未来が変わるとは言え、例えば自動車事故に遭った際、5分前に戻れば事故を回避することはできる。もちろん、即死や気絶してしまうと過去には戻れないが・・・。しかし、もしその事故は回避できたとしても、その後一日は能力が使えないため未来が変わって別の事故が発生して死んでしまうかもしれない。そう考えると、この能力はできるだけ温存しておき、万一のリスクに備えるということがその使い道だと考えざるを得なかった。


 ある夏の日、翔はゼミで知り合った芽依を誘い、遊園地に初デートに来ていた。いくつか乗り物に乗った後、ベンチでソフトクリームを食べようということになり、翔がキッチンカーにソフトクリームを買いに行った。そして、まさにソフトクリームを芽衣に渡そうとした瞬間、翔は芽衣の笑顔を一瞬見つめてしまい、体勢を崩して、あろうことかソフトクリームの芽衣の胸に塗りつけてしまった。

 「翔君、何やってるのよ・・・、もう。」

 芽衣はやんわりとした口調だったが相当怒ったに違いない。少なくとも翔の評価は地に落ちたことだろう。翔は、これは自分の一生に関わる一大事と思い能力を使うことにした。

 「戻れ!」


 翔が時間を戻す少し前、地球から数百万光年離れた星系の惑星アルファと惑星ベータとの間の戦争が最後の局面を迎えようとしていた。惑星アルファの総裁は首都の地下に秘密裏に完成させた究極兵器の制御パネルの前で準備をしていた。

 「この究極兵器で惑星ベータの首都を直接攻撃することで、長かった戦争もようやく我々が勝利を収めることができる。」

 「総裁、惑星ベータの首都が射程に入りました。いつでも発射可能です。」

 「分かった。これが最後だ。」

 総裁は発射ボタンの安全カバーを開き、半ば叩きつけるように発射ボタンを押した。その瞬間、首都の地面はわずかに振動し、惑星ベータの首都に向けて究極兵器から光の柱が立った。

 「総裁、惑星ベータの首都に命中。大爆発を確認しました。」

 「よし、我々の勝利・・・。」

 その時時間が戻った。翔の時間を戻す能力は、全宇宙に及んでおり、この惑星の因果律にも影響を与えていたのだ。そして・・・。


 「総裁、惑星ベータの首都が射程に入りました。いつでも発射可能です。」

 「分かった。これが最後だ。」

 総裁は発射ボタンの安全カバーを開き、半ば叩きつけるように発射ボタンを押した。その瞬間、究極兵器は光の柱を発することなく、大爆発を起こした。この爆発により惑星アルファの首都は壊滅した。

 爆発の瞬間、惑星ベータの作戦司令官は惑星アルファの首都の映像を見ながらつぶやいた。

 「どうやら我々の破壊工作がぎりぎりで間に合ったようだな。かなり危ないところだった。これでようやく長かった戦争に勝利することができた。」


 そのころ、翔は芽衣の笑顔を見ないようにして慎重に歩き、無事にソフトクリームを渡すことができていた。


おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートタイムリーパー ロックホッパー @rockhopper

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画