第4話 山楂茶
「・・・案外上手。小児科の先生ってそんな特技もあるんだ」
乳児検診もあるからだろうか、と呑気に言う
「・・・人間の新生児にミルクあげた事があるのは
急にそう言われて、
「・・・そうなの?」
「そう。それで、何で俺が
ああ、となるほど、と
母と彼の母は友人同士で仲が良く、いつも酸欠になる程に喋っていた。
そんな二人だから、きっと自分の腹が減ったと言う訴えは二の次にされていたのだろう。
「わかるー」
目に浮かぶようだとウケていると、
小さなサクランボ程の実はほんのり甘酸っぱく、柑橘の香りが心地よい。
「
酒を飲んだ時に解毒作用がある。
同窓会だったのだと
「・・・それから。この猫達がきっかり二時間で騒ぎ出すって言うなら。それだけ
彼女が時計を見て、ちゃんと二時間ごときっかりに授乳をしていたからこそ、仔猫達は覚えたのだ。
だからそのくらいになると訴え始めるのだ。
「・・・俺がきっかり三時間毎にミルクやってたら、今までは寝てるばっかで腹が減ったら泣くからあげれば良かったのに、きっかり三時間で腹へったと騒ぐようになったと華子は文句言ったんだぞ」
華子というのが
華子はつまり「もう、今までは泣いたらあげれば良かったのに、三時間置きにあげなきゃいけなくなっちゃったわ。なんて面倒くさい事してくれたのよ」と言ったのだ。
とんでもない母親だ。こっちが心配して必死にやったのに。
「わあー、言いそうー」
「母さんに言ったらさ。アンタそれも一理あるんだって。パブロフの犬って言うのがあってさ、決まった時間にエサを上げると、それ覚えちゃうんだよねって。だからさ、良いことじゃん、知恵がついたって事なんだからって言ったらさ、じゃあ違う時間に腹減ったら?じゃあ何かがあって貰えなかったら?この子どうすんだってさ」
「・・・あー、それも言いそう・・・」
亡くなった彼の母親がまさに言いそうなセリフだ。
「で?
「・・・何も言わなかった」
彼の母親の、子供扱いしないで、容赦ない程に事実を突きつけてくるあの厳しさは、ドライな優しさでもあった事。
「・・・新しいお客さんが来てくれてねえ。ゾンビみたいな顔で朝フラフラしてたもんだから、朝ごはん食べて行ってって言ったの。その人がこの仔達見つけたのよ。お母さん猫は、角の薬局のおばちゃんが市役所に連絡したら、焼いてくれたんだって。で、お骨にしてくれたのを庭に埋めてくれたって」
ランチを食べに来た近所のコンビニの店長に仔猫を拾ったと言ったら、それが広まって、多分それ私が埋めた猫の子供だと言って、午後には薬局の奥方が慌てて飛び込んで来たのだ。
「
ミルクを飲んだ猫は、満腹になった様子で腹を見せてすっかりリラックスしていた。
しかし、これを二時間毎か。
もう少しすれば、三時間、四時間毎となるのだろうが、それでも1ヶ月半は目を離せない。
「・・・よしわかった」
「はあ、何が?」
パンケーキを平らげた
「夜は預かる」
「・・・・え・・・いいって・・・」
何を言い出すのか。
「だって、この店、今は、夜閉めてるんだろ」
個人経営の良し悪しで、あまり営業時間に拘っていないのだが、本来、早めのランチタイムから始まり、夜の十時までは営業していたのだが、最近は仔猫にかかりきりになるあまり、ディナータイム時間が終わるとさっさと
仕込みにも時間がかかる。
二時間毎の授乳なのだから、熟睡もままならず日々、睡眠を削っているわけだが。
「とりあえず1ヶ月半。つまりあと1ヶ月。人間の子供なんか1年くらい離乳しないんだから、それに比べたらまだ見通しが立つし」
「・・・でも、そしたら
しかし、
ペットショップに行って、見るだけと言っていたのに、試しに抱っこしてみませんかと言われて抱っこしてしまったらもう情が移って・・・と言うヤツだろうか。
しかし、正直、ありがたい申し出ではあった。
まるで焼き菓子のようなちんまりとした仔猫を再び見てから、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます