第4話
「売ってくれないか!いくらだ?」
男が興奮気味に声を上げた。
うーん、ただの木の枝から作ったいびつな箸なのに、どうしてそこまで目を輝かせているのでしょうね?
もしかして、箸が珍しいからかな?
「えーっと、差し上げます?」
いくらかと聞かれても、貨幣についての知識もないし、拾った木の枝……を売るなんて……。
「そういうわけにはいかない。随分珍しい品じゃないか」
いや、木の枝を少し削れば、ですね?
「いくらだ?」
ガサガサと腰に下げた巾着をあさり始めた男に、フードの人物が落ち着けとばかりに、男の肩をポンポンと叩いた。
「すまない、興奮してしまった。私のように大柄な男に売ってくれと言われたら断れないよな……。無理して売ってくれなくてもいいんだ……」
しょぼくれてしまった男に首を横に振ってみせた。
「いえ、だから、あの、差し上げます。えーっと、あ、そうだ、代わりに街までのせていってもらえますか?」
「え?そんなことでいいのか?」
「はい。もう歩き疲れてしまって……」
本当は12時間労働の後で疲れてるんだけど。
「ああ、もちろんだ。本当にそんなことでこれを……箸を譲ってくれるのか?」
めちゃくちゃ恐縮した姿に、こちらの方が申し訳なさすぎて困る。
「では、ここに、ここに乗ってくれ。ちょっと待って」
男が大きな体で素早く動いて、幌馬車の後ろにスペースを作ってくれた。
「ありがとうございます」
荷台に乗って、揺られ始めたら、あっという間に寝てしまった。
ああ、異世界か……目が覚めたら日本に戻ってないかな……。
戻ってなかったらここで生きてかなくちゃいけないのかな……どうしよう。
中途半端な錬金術師なんて職業で、レベル1で生きていけるかなぁ……。
「寝てしまったみたいだな」
フードの人物が森の出口で載せた人の気配の変化を感じて男に声をかけた。
「で、一体何を買った……いや、貰ったんだ?」
商人を装っている大柄な男、レックは佳利菜からもらった箸に干し肉を差してフードの人物に1本渡した。
「何?串?こんなものを欲しがるなんて……」
レックは、口うるさい魔導士を装っている相棒の言葉を無視して、一足先に箸にさした干し肉を口に運ぶ。
佳利菜が見ていたら「箸の使い方が全然伝わってない!」と愕然とするような使い方だ。
だが、レックは満足そうに、目を見開き小さく頷いた。
「これは、想像以上だ。鑑定結果にあった通りの効果だ」
「鑑定結果?なんて出てたんだよ」
魔導士のガディシスが、もうすぐ街に戻るんだからちゃんとした食事を食べられるのになんでこんなものをとぶつぶつ言いながら、干し肉を口に入れた。
「うんま!何これ?どこで買った干し肉?なんで旅の途中に出してくれなかったんだよ!」
レックは、干し肉を食べ終えた箸をゆらゆらと左右に揺らして人好きのしそうな笑顔をガディシスに向ける。
「鑑定結果は、【箸、料理がおいしく食べられる】……だ」
「え?これか?この木の棒にしか見えないこれが、魔道具なのか?これがあれば干し肉がこれほど美味しく食べられるなら、金貨1枚どころか10枚でも安いくらいだろう?」
「……だよなぁ。馬車に載せるだけじゃお礼にもならないだろうねぇ。さて、どうしたものか……」
なんて、御者台の二人が会話をしているのも知らずに、私は口からよだれを垂らして熟睡していた。
異世界生活1日目のことである。
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ご覧いただきありがとうございました。
始まりの物語なのでここでおしまいデス。以下蛇足。
短編コンテスト応募に付き完結設定にします。
その後の小話
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ガタンとひときわ大きく馬車が揺れ、目が覚めた。
むおうっ、寝てた。仕方がない。日本時間ではいま夜の12時とかだよ。
あ、そうだ。
「ステータス」
街の中にどうやら入ったらしい。馬車でどれくらい進んだんだろう?寝たての30分かそこらだよね?
HP31/50
……。たしか28だったから、30分寝てたと仮定して10分で1回復するの?遅すぎない?
50回復するには500分。つまり、8時間はかかる……って、あれ?8時間睡眠取れば回復する?なら問題ない?……日本と違ってきっと夜は早くて朝は早いというか太陽とともに生活だよね。娯楽もないだろうし。すると人は自然と8時間でも10時間でも寝れちゃうのでは?
問題なかった。遅すぎなかった。
……いや、まてよ?レベルが上がってHPが上がったらどうなのかな?
HP1000とかになってもこのペース?それとも、約8時間で全回復みたいなルールで、1000ある人は1分で2とかのペースで回復するとか?……全然分かんない。
あ、そうだ、あれだよ、あれ!
ポーションって怪我を直すとか病気を治すとかそういうのでよく見るけど、もともとゲームとかだとHP回復させるアイテムだよね?
ってことは……。
錬金術師の出番なのでは?薬師の分野?でも私のスキルに薬調合ってあったし?
疲れたら飲めば疲れが取れるなら、24時間働ける!……いや、働きたくない!
働くためじゃない!よく寝るために疲れを取りたいんだ!疲れすぎるとよく眠れなくて疲れが取れない無限ループになるんだよ!
称号:喪女(疲れ気味)
うるさいよ!ステータス!
ステータス画面を消すと馬車が止まった。荷台から降りようとしたら、手に何かがあたった。
「ん?これって……?」
大豆なのでは?
「【鑑定】」
……って、錬金術に使えなくちゃ結果は出な……、出た!
「薬調合に使える豆」
豆は知ってるよ!何の豆か知りたいんだってば!!
いや、でも薬調合に使えるのか。
豆で薬と言えば……、あれでしょ、あれ!
「【仙豆錬成】」
ふふっ。知らない人には教えてあげよう。某漫画に出てきた超回復アイテムの豆なのだ。
ワクワクして待ってたけど、うんともすんともぴかりともしない。
あれ?
鑑定結果も「薬調合に使える豆」から変わらない……。
失敗。というか、そっか、仙豆はつくれないのかぁ。当たり前かぁ。
っていうか、箸は、箸を作るのに適した木に変わっただけで、結局自分で箸作ることになったよね?
大豆っぽく見えるこの豆も、何かを作るのに適した豆に変化させることはできるのかな?
実は大豆じゃないけど、大豆を使った料理を口にしたら、この豆が大豆になるとか?
いや、まてまて、薬調合は料理じゃないか。
でも薬膳料理とかあるよね?たしか薬膳料理は「すべての食べ物には何らかの効果があり、それを体の状態に合わせて使った料理を薬膳料理と言う。特別な料理というわけではない」ってどっかで見た。
つまり、大豆なら女性ホルモンのバランスを整える目的で食べるときには薬膳料理、薬調合でイケちゃうはず!
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色々続きが思い浮かびますね!
中途半端な錬金術師は、異世界でのんびり生活はじめます とまと @ftoma
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