第5話 再会

「...私、高校1年の時、朝柿先輩と付き合ってたんだよね。って、あんたはどこからかその話を聞いたんだっけ?」

「...まぁ、噂程度に」

「そっか。まぁ、それは事実ではあるんだけどさ、もうとっくに別れてるし、今は好きでもなんでもないんだよね」

「...ふーん」

「...でもさ、いまだにしつこく連絡してきて、なんか私のこと都合のいい女扱いしてきてさ...。まぁ、私も別にそれでいいかなとか思っちゃったせいで、別れてからもちょこちょこあったり、そういうこともしていたわけよ。けどさ、やっぱりもうそういうのは卒業したかったんだけど...。実は盗撮されてて、それで脅されて...」


 この時代では俺と由花にはなんの関係もない。

なのに、まるで親しい関係かのようにぶっちゃけた話をしてくる。


 これはきっと、そうだったという事実ではなく、そういう事実があればいいなという、俺の願望が生み出した時間だと、なんとなく察した。


「...そっか。それは...大変だな。けど、だからって...それを言い訳にすればなんでも許されるわけじゃないでしょ。もし、現時点でそのことを後悔しているなら、もう何を言われても従わないようにするしかない。反対に相手の弱みを握ったり、いくらでも方法はあるでしょ」


 同情しながらも俺はやっぱり、心の奥底では許せずにいた。


 どんな事情があって、どんな理由があろうと、俺を裏切ったことへの正当な理由にはなり得ない。


「...まぁ、そうだよね。これ以上要求に従っても、悪い方向に進むだけだもんね。...ありがとう。なんかさ、あんたと話せてよかった。今までまともに会話したことなかったし、地味で面白くないやつって思ってたけど、そんなことないかも」

「いや、別に俺は面白いやつではないよ」

「そう?私は嫌いじゃないかもって思ってるけどね」

「...俺は嫌いだ」

「嫌いな割にちゃんと相談乗ってくれるんだ。やっさしーねー」


 そのあとは特に何を話すわけでもなく、解散した。


 この世界で由花がどうなろうと俺の知ったことではない。

きっと、高校を卒業すれば関わることもないような関係性なのだ。


 ここで関係を断ち切ることができれば、俺は幸せになれるのだろうか。


 答えは分からない。

だからこそ、この世界では柚木さんと共に歩んで、幸せな道を見つける。


 それは現実ではなくてもそれでいいのだ。


 そうして、家に帰り、眠りにつくとまたしても現実に戻ってしまうのだった。



 ◇


 睡眠薬のせいで深く眠りすぎた俺は、気づくと12時間以上寝ていた。


「...余計に体が重い」なんて独り言を呟いていると、みたことのなない番号から着信が入っていることに気づく。


 すると、それとともに留守番電話サービスに何か残っていることに気づいた。


 それを押すと、懐かしくて少し大人びた声でこう言われた。


『お久しぶりです。覚えてるかな?柚木です。この前、同窓会したんですけど、その時に佐藤くんの話になって、緒方くんから聞いて今電話をかけたんですけど...。よければ今度お茶でもしませんか?お返事待ってます』


 そんな言葉に思わず驚いた。


 だって、最近夢に見ていた彼女から連絡が来たのだから。

しかし、今の俺のこの終わった姿を見せられるわけもなかった。


 鏡で自分の顔を改めてまじまじと見つめると、正気がなく、今にも死にそうな顔をしていた。


 面倒で嫌だったが、それでも彼女に会えるのなら最低限の身だしなみは必要である。


 そうして、久しぶりに家の片付けを始めて、髭も剃って、身なりを整える。


 やっぱり、嘘でも元気そうな顔はできなかった。


 俺は彼女に電話をかける勇気はなかったので、SMSにて連絡を取ることにした。


『お久しぶりです。同窓会やっていたんですね。すみません、家庭の事情で最近精神的に弱っていたため、陽一とも連絡とってなかったです。もしよければ自分も会いたいです』


 そう打ち込んでから送信するまで、時間をかける。


 本当に会う勇気が俺にあるのだろうか。


 それでも、前に進まなきゃと思って勢いで送信ボタンを押す。


 すると、ものの数秒で返信が来た。


『そうだったんですね...。私でよければ話聞きますよ。外で会うのがしんどかったりするのであれば、佐藤くんのお家でも大丈夫です。どっちが良いですか?』


 そうして、結果的に俺の家にくることになってしまった。


 しかも、連絡をくれたその日に彼女はきてくれることになった。


 それから1時間後、早速家に柚木さんがやってきた。


 久しぶりに会った彼女は大人になっていて、色っぽくて可愛くて、やっぱり俺は好きだった。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093091180051837


「...久しぶりだね」

「うん。久しぶり。ずっと...会いたかった」と、彼女はまっすぐ俺をみてそう言った。

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妻を高校の先輩にNTRられ絶望した俺は、10年前に叶わなかった初恋のあの子とピロートーク中のifな世界の夢をみる。 田中又雄 @tanakamatao01

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