第2話 無視無視無視
あっという間に夜になった。
春先の静かな夜は嫌いじゃないが、せっかくこの家に三人もいるのにあまりにも静かすぎて違和感があった。
二人は一度も一階には来なかったし、やっぱり明らかに避けられている。
まあ、一階と二階にそれぞれトイレがあるから、問題ないっちゃ問題ないんだけど……
初めての家に来たら、色々と気になって見て回るのが普通だと思った。
俺が子供すぎるのか?
「でも、お腹空いてるだろうし、そろそろ呼んだほうがいいか。意外にも空腹に負けて簡単に仲良くなれるかもしれないし……」
俺はいつものように夕食を作り終えたので、できるだけ明るい声で階段の下から声をかける。
今日は会心の出来であるハンバーグだ。昔、母さんに教えてもらったジューシーなやつだ。本当にうまい。
二人にはぜひ食べてほしい。
「ご飯できたけど、どうする?」
……反応はない。
しばらく待ってみたが、部屋の扉が開く気配はない。わかっていた。
犬や猫じゃあるまいし、良い匂いに釣られるようなことはないのだと。
仕方ないなと思いながら、俺は静かに階段を上がる。
二階にはちょうど三つの部屋があり、階段上がって右から順に俺、姉の葵ちゃん、妹の楓ちゃんの部屋だ。
名前はさっき母さんから聞いておいた。
苗字は
というわけで、まずは葵ちゃんの部屋の前にきた。
軽くノックをして声をかけた。
「葵ちゃん、夕飯が——」
「——勝手にノックしないで!」
ぴしゃりとした声のあと、少し間が空いてさらに言葉が続く。
「っていうか、あんたの作ったご飯なんて何が入ってるかわかんないから怖くて食べられないわ! あとで自分で作るからいいわよ!」
俺は一瞬口を開いたが、結局何も言えず、空笑いだけが漏れた。
「分かった」
精一杯穏やかな声を作り、踵を返す。怒りが湧くことはないが、それなりにショックだった。
純粋に悲しい。
次は楓ちゃんの部屋の前に移動し、また軽くノックをした。
「楓ちゃんは夕飯どうする?」
声をかけたが返答はない。
おかしい。中で倒れてるなんてことはないよな?
「おーい、大丈夫か?」
少し間を開けてからまた声をかけた。
すると、扉越しに申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
「……ごめんなさい。あんまりお腹が空いてなくて……」
声だけ聞いていると、楓ちゃんの方は割と普通に話せそうな感じではある。
だが、それでも遠慮が滲み出ている。
葵ちゃんみたくあからさまな感じではないが、それでもかなり距離がありそうだ。
「そっか。無理はしなくていいけど、ラップしておくから食べたくなった時に好きに食べてね」
「……ありがとう、ございます」
楓ちゃんから返ってきた声は小さかったが、俺の耳にははっきり届いた。
俺は再び階段を下り、静かなリビングへ戻った。
作りたての料理をテーブルに並べ、椅子に座る。
もちろん俺一人分しかない。
二人の分はラップしてキッチンに置いていた。
これじゃあいつもと変わらない。
「いただきます」
手を合わせてから箸を握ったが、なんだか食べる気が失せそうだった。
「まあ、いきなり初日から賑やかに楽しめるなんて思ってなかったが……にしても仲良くなるのって難しいな」
箸を動かしながら、ふと呟く。
「義理とはいえ兄妹になるんだし、もうちょっと近づけたらいいんだけどな……」
ため息が漏れる。
時計の針はいつの間にか夜の十時を回ろうとしていた。
夜のリビングには、俺の吐息と静寂だけが残っていた。
例えば親が再婚していきなり可愛い双子義妹ができたとしたら チドリ正明 @cheweapon
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