例えば親が再婚していきなり可愛い双子義妹ができたとしたら
チドリ正明
第1話 双子の義妹ができた
「……そっか、母さん、再婚するんだな」
母さんからその知らせを受けたのは、いつものビデオ通話中のことだった。
週に一度あるかないかのこの時間は、いつもは世間話をして終わるだけなのだが、今日はそれだけでは終わらなかった。
「うん。十年前に離婚してからはずっと仕事ばかりだったし、やっと落ち着けそうな人に出会えたの」
画面越しの母さんの笑顔は、どこか申し訳なさそうでもあり、でも明らかに嬉しそうでもあった。
仕事人間かと思ってたけど、きっと一人息子の俺を気遣って遠慮してただけなんだろうなってわかる。
俺は思わず笑みを浮かべた。
「そりゃよかったな。俺だって、母さんが幸せになれるなら嬉しいよ」
「本当に? 誠がそう言ってくれるなんて……ありがとう」
「お礼なんていらないよ。母さんにはもっと自由に生きてほしいって思ってるからさ。それより、今度はいつ帰ってくるの?」
「……ごめんね、あと二、三年は帰れないかもしれないの」
母さんは照れたように笑ってから、少しだけ声を落として言った。
残念だけど仕方ない。めちゃくちゃ忙しいのは知ってるし、俺のために働いてくれてるから文句は言えない。
「そっか」
「うん……それと、実はね、再婚相手の人には娘さんがいるの。双子ちゃんで高校一年生なのよ」
「双子……?」
その言葉に、少しだけ驚いた。新しい家族が増えることになるのか。
「そう。とてもいい子たちなんだけど、やっぱり突然のことだから少し戸惑ってるみたい。誠、優しくしてあげてね」
「大丈夫だよ。仲良くなれるよう頑張る」
俺はそう答えながら、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
一人っ子だった俺はずっと兄妹が欲しいって思ってたし、むしろどんな子たちなんだろうという好奇心すら湧いてくる。
「それで、いつから来るの?」
「明日から……あ、時差があるから日本時間で言えば今日からよ。多分、もう着く頃じゃないかしら?」
「え?」
俺が驚くのとほぼ同時だった。
——ピンポーン
インターホンが鳴る。
今日は日曜日で学校は休みだし、出前を頼んだ記憶もなければ来客の予定もない。
「あら、ちょうど到着したのかしら? 誠、いきなりでごめんね。なにかあったら相談に乗るから、よろしくね、お兄ちゃん」
母さんはそれだけ言い残すと通話を切った。
「……お兄ちゃんか」
俺は思わずにやけてしまった。新鮮な響きを口にしただけで嬉しくなる。
大きい一軒家で一人暮らしするのは結構寂しかったし、二人の義妹とはぜひ仲良くなりたい。
もちろん家族的な意味合いで。他意はない。
「いくか」
俺は玄関モニターを素通りし、そのまま玄関ドアへと向かった。
少し覚悟を決めてからゆっくりとドアを開ける。
すると、そこには制服姿の二人の女子が立っていた。
本物の双子だ。髪型や雰囲気は違うけど、顔がそっくりだ。
「……あの、
ドアが開いて早々に、俺が喋るよりも前に二人のうちの一人が問いかけてきた。
真っ直ぐこちらを見つめているのは、黒髪をすとんと下ろした物静かそうな子だった。
「もしかして——」
「——マジ最悪。なんでこんなダサい男と暮らさないといけないの? パパは何考えてるの?」
隣に立つ茶髪の方が腕を組みながら答えた。声には棘しかない。俺への嫌悪感が剥き出しだ。
こりゃあ大変だなぁ……でも、この年で血の繋がってない義兄妹ができるのって抵抗あるから仕方ないか。
「……お姉ちゃん、そんなこと言わないで」
「なんで?
黒髪の子、多分双子の妹の方が止めに入ったが、茶髪の子は依然として不機嫌丸出しだった。
「い、いいとか悪いじゃなくて、そんな言い方をしたら誠さんが可哀想だよ……」
「ふんっ! そんなの知らないわよ。っていうか、あんたはあたしたちに関わらないでよね。同じ家に住んであげるのはパパからお願いされたからだし、本当は知らない男と一緒の空気すら吸いたくないんだから! それと、あたしたちの洗濯物はあたしたちがやるから別にすること! いい? 楓、行くわよ」
「う、うん……ごめんなさい」
茶髪の子は最後まで俺のことを睨みつけ距離を取り、黒髪の子は謝りながらも目を合わせてくれなかった。
「いや、気にしないでいい」
少し遅れてそう言ったが、既に二人は二階へと続く階段を上っており、俺の声は届かなかった。
開口一番にこんな感じになるとは思わなかった。
前途多難とはこのことを指すのかもしれない。
本物の兄妹の距離感なんて全くわからないし、俺は俺なりに二人と仲良くなるために頑張ってみるしかなさそうだ。
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