第9話 黙っていられない

「ねぇねぇ。森岡君。今日もお話ししようよ! 」


 次の日の1時間目終了後の休み時間。


 田島が俺の席に足を運び、声を掛ける。


「ああ。構わないよ」


 俺はいつも通り田島の要望を受け入れる。


「ねぇねぇ! 聞いてよ!! 」


 俺と田島が会話を交わそうとした直後、1人の女子のクラスメイトが教室内に響き渡る大きな声を上げる。


 俺と田島の視線は自然と声のした方向に走る。


「昨日、知ったんだけど。うちのクラスの田島さん、どうやらアニメや漫画のオタクらしいの! 」


 クラスメイトの女子の時岡が、なぜか上機嫌なトーンで田島に対する情報をクラスメイトに対して暴露する。


「そ・れ・で。これが証拠! 」


 時岡が女子の友人達に情報を拡散するために自身のスマホを見せる。


「本当だ!! これは決定的な証拠だわ」


「実は隠れオタクとか引くわ〜〜」


 時岡の友人達はスマホの画面を覗き込み、田島を貶めるように同意を示す。


「うっ。あぅっ」


 一方、田島は時岡の自身に関する暴露に動揺を隠せない。おそらくクラスメイト達に知られたくない内容だったのだろう。


「さあ! クラスメイトのみんなはどう思う? やっぱり少なからず引くよね? イメージ悪くなるよね? 」


 時岡はクラスメイト達を煽るように共感を求める。


 どうやら言葉の内容から高岡の目的はクラスで人気のある田島のイメージを悪くすることのように見える。


 やれやれ。つまらないことして。


 一方、田島の好意の寄せる難波は異論を唱える準備をしているのか。タイミングを見計らっている様子だ。俺にはそう見えた。


 おっと先を越させれる訳には行かないな。


 先手必勝だな。


「他のクラスメイト達のことは分からないが。俺は、お前の言う田島の一面を知っても全く悪いイメージを持たないな」


 誰も返答しないので、代表で俺が1番初めにアンサーする。


 俺に先を越された難波はビクッと分かりやすく肩を上下させる。その上、情けなく口を半分開く。


「へっ…」


 予想外の返答だったのだろう。時岡が間抜けな声を漏らす。


「逆に何で引くんだ? 悪いイメージを持つんだ? 理由を教えて言語化して欲しいな。もちろん俺が納得できるようにな」


 俺は率直な疑問を述べながら、時岡に要求する。


「えっと。それは…。オタクには…マイナスイメージがあるから」


 時岡は俺に理由を求められ、歯切れの悪い即興で考えた内容を口にする。


「何で? オタクにマイナスなイメージを持つ理由が分からないんだけど。それじゃあ俺は納得できないな。それに、オタクって言うが。漫画やアニメが好きなのは嗜好的であり、俺は個性だと思うけどな。それとも君達は田島の個性を否定するのかい? 」


「えっと。そ、それは…」


 時岡は俺の責めるような言葉に上手く対応できず、下を向きながら黙り込んでしまう。


 そんな時岡を目にし、友人達も同じように俯く。


「理由を説明できないなんて。情けないね。それと個性を侮辱することは差別的なことだから。最低な行為だから」


 俺は呆れながら最後の部分を強調するように力を込めて口にする。

 

「そ、そうだそうだ! 森岡の言う通りだ!! 」


「人の好きな趣味をバカにするなんて最低!! 」


「確かに個性を侮辱するのは差別的だ!! 」


 俺の言葉に納得したのか。他のクラスメイト達が時岡達を敵視し、俺の意見に同意するように声を上げました。


「「「ううっ。な、なんで。なんでこうなるの」


 時岡達はクラスメイト達の異論に萎縮し、消え入りそうな声で弱気を呟く。


 最終的に異論や暴言は加速し、時岡達は逃げるように教室から姿を消した。

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