第8話 知られる

※田島愛花視点


「じゃあ。今日は私が行くところがあるから。ここでお別れだね」


「ああ。今日は学校や放課後に一緒に『君との距離、秒速5センチ』の話が出来て良かった」


「うん! 私も最高だったよ!! テンション上がっちゃった」


 私は気分の高揚した口調で盛岡くんの言葉に共感する。


「ああ。俺もここまでハマるとは思わなかった。これも2巻以降を貸してくれた田島のおかげだな」


 森岡くんは、いつも通り私が喜ぶような嬉しい言葉を掛ける。


「えへへっ。そ、そんなことないよ〜。読んだ森岡くんの行動が大きかったと思うよ? 」


 私は照れ隠しをするように笑顔を溢す。


「話は変わるが。行くところがあるみたいだが。時間の方は大丈夫か? 」


 森岡君が私に配慮して時間のことを気にしてくれる。そういうところ優しい。気配りができるところも素敵。


「うん。そんなに急ぎの用事ではないから大丈夫。でもそろそろ行こうかな」


 私は次なる目的地の雰囲気を想像しながら森岡君を安心させるために言葉を選んで返答する。


「そうか。なら今日はここまでだな」


「うん! また明日ね! 明日も漫画の話できたらいっぱいしようね! 」


 私と森岡君は、この会話を最後に互いに手を振り合いながら別れる。


 私は先日と同様に名残惜しさや寂しさの感覚を味わいながら、目的地の近所のアニメイトに向かう。


 私どうしたんだろう? やっぱり変だな。それとも、この短期間で性格や価値観が変化したのかな?


 私は先ほど抱いた感覚に違和感を覚えながら、以前と同様に答えを探すために首を傾げる。


 しかし、今回も答えに辿り着けない。腕組みまでしたが時間の無駄であった。


 そうこうしている内に目的地のアニメイト前に到着する。


(まぁいいか。とにかく今日は私の好きな『君との距離、秒速5センチ』の漫画を買うことが今は最優先。早く買わないと。あ〜。続きが楽しみだな〜)


 私は心を切り替え、アニメイトの入り口を通過した。


 カシャッ。


「ふふっ。大スクープ。まさかあの田島愛花をこんな場所で発見できるなんて。これは利用できる。そうしたら、あのクラスの美少女で人気の高い田島を陥れることができるかもしれない。ふふっ。楽しみ」

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