第7話 不思議な感覚

※田島愛花視点


「森岡君……帰っちゃった」


 私は森岡君と一緒にいた時間を名残惜しく、寂しく思いながら、彼の後ろ姿が見えなくなるまで自宅の前で見送っていた。


「あれ? 私、竜也君以外にも別れる時に寂しさや名残惜しさを感じているんだろう?」


 私は無意識に呟き、自身の感情に疑問を抱く。


 普段、竜也君と別れるときや一緒に遊べなかったときに、先ほどのような感情を抱いていた。その理由は、おそらく私が竜也君のことを好きだからだろう。好きな人と長い間一緒にいたい。別れるのが苦痛で寂しいのは、誰でも理解できると思う。


 でも、そのような感情を好意を抱く竜也君以外にも抱いてしまった。その事実が私には引っ掛かった。


 確かに森岡君は優しい。その上、竜也君が興味を示さない私の好きな漫画にも興味を持ってくれた。それは私にとって非常に嬉しいことだった。私にとって初めて漫画の話を聞いてくれる同級生ができたから。


 でも、竜也君と別れる時と同じ感情を感じるなんて……。


 それとも、私が学校内で見せていない、本当の恥ずかしいクセのある性格を受け入れてくれたことが大きかったのかな。


 私はテンションが上がったときや何気ない時に、好きな漫画の言葉や名言を口にしてしまう。そのため、学校ではそのクセが出ないように必死に抑えていることが多々ある。実際に、時おり出てしまい変な空気になってしまうから。だから、そのクセは私にとってコンプレックスであり、できるだけ自宅でしか出さないようにしている。


 一方、自宅では好き放題、何もないところでも披露している。


 例えば、自宅で階段を降りているときや、リビングでテレビを見ているときなど。両親がいるにも関わらず、何も気にせずに好きなキャラの言葉を程よい声量で言語化する。


 おそらくクラスメイトがこのことを知れば、引かれること間違いなしだろう。だから絶対に学校では家でのような姿は見せない。


 そのため、学校での私の姿は偽りとも言える。本当の姿は竜也君の前でも見せていない。


 だから、その本当の姿の一部を受け入れてくれた森岡君に、少なからず特別な感情を抱いてしまったのかもしれない。自身の心で引っ掛かりを覚える不思議な感情を。でも、その感情を考えても答えにたどり着くことは、残念ながらできない。


「何なんだろうね? 考えても分からない」


 私は考えることをやめる。このまま思考に多大な労力を使う必要はないと思った。


「読破途中の漫画も読みたいし、好きなイラストも描きたいから。考えるのやーめた!」


 私は自宅の中に入るため、ドアノブに手を掛けた。

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