第3話 初めての長い会話
「えっ。どうしてそれを? 」
田島は少し動揺した表情を浮かべる。まさか、この件について声を掛けるのは予想外だったのだろう。また俺に声を掛けられたこと自体が想定外だったのかもしれない。そのような感じが態度から透けて見えた。
「それは分かるよ。さっき難波が教室を出る前に呼び止めようと声を掛けようとしていたじゃないか」
俺は先ほどの田島の言動を思い返しながら、話し掛けた理由を説明する。
「う、うん。確かにそれはそうだけど…」
田島は何処か居心地が悪そうに俯く。
「今から話すことは竜也君には絶対に教えないでね」
確か難波と小学生の頃からの幼馴染である田島は真剣な顔で俺を見つめる。
どうやら真実を話してくれそうな雰囲気が漂う。
「うん。大丈夫だよ。言わないよ」
俺は田島を安心させるように微笑を浮かべながら即答する。
「絶対。絶対だよ」
田島は確かめるように繰り返し同じ言葉を発する。
「うん。約束は守るよ。それに俺が今から田島から聞いた話を難波に話したところで大したメリットは得られないよ。そう思わない? 」
俺は率直な気持ちを口にする。実際にその通りなわけだし。
「た、確かに。それはそうかも」
田島は俺の言い分に妙に納得した様子で近くの難波の席に腰を下ろす。
俺も田島に倣って向かうように他人の席に座る。
「それで何か難波に用事でもあったの? 」
俺は田島に対して話しやすい空気を作るために敢えて誘導するように疑問を投げ掛ける。
「う、うん。それなんだけどね。実はね。今日、難波君と一緒に帰って遊ぶ約束をしてたの。でも…」
田島の言葉が途中で途切れる。哀愁を漂わせ、俺から視線を逸らし俯く。
その反応を見て、難波が他の男子達と合流し、教室を後にする瞬間に、田島が取った行動に合点がいく。
おそらく田島は難波と一緒に帰るために呼び止めようと声を掛けようとしたのだろう。しかし、残念ながら田島の声は全く難波に届かなかったというわけだ。
何とも可哀想な田島。その上、何てひどい奴だな難波。
約束を交わしたのにも関わらず、あっさりと忘れた上、さらに他の同級生と約束をする。そんなの人として最低な行動の1つと言えるだろう。
やはり大嫌いだ難波竜也。こんなかわいい幼馴染をぞんざいに扱い、鈍感でいい加減な性格。最悪だ。本当に絶望に落ちて欲しい。
だが、難波の悪口を田島の前で口にするのは逆効果だ。なぜなら田島は難波に好意を寄せる。好意を寄せる相手の悪口を言った人物に対してマイナスな感情を抱くことは容易に想像できる。おそらく、俺は簡単に田島に嫌われてしまうだろう。
その事態は、この世界で難波からハーレムを奪うためには避けなければならない。
だから俺が取る行動は1つだ。
「そうなんだ。こんな俺に正直に話してくれてありがとう」
俺はマイナスな印象を与える言葉を使わずに、敢えて大して親交のない相手に対して言いにくい内容を話してくれた田島に感謝の言葉を伝える。
「いや。そんなことは。私もただ誰かに聞いてほしかったかも…」
田島は今まで俺に見せたことない少し緊張した態度で本音らしき気持ちを口にする。
よしよし。いい調子だ。少し俺という存在をアピールできたみたいだ。
「そうなんだ。もし、俺で良かったら他にも聞いて欲しいことがあれば全然聞くよ」
俺は、さらに田島を惹き付けるために溜まった不満を吐き出せるような状況を意図的に作る。
「そんな。それは悪いよ。森岡君も忙しいかもしれないし」
田島は俺のウェルカムな姿勢を遠慮した様子でやんわりと断る。
おぉ!! 俺の親切心を拒否されたが、初めて田島から名字で呼ばれた。それだけで。それだけで!! 気分が大きく上がるぜ!! このゲームのヒロイン。可愛すぎるぜ!! 尚更、難波の美少女3人に対する態度が理解できない。あいつはもしかして男じゃないのか?
「ああ。俺はいつも暇だから気にしなくていいよ。それか一緒に帰りながら話を聞いても良いけど。それなら俺が忙しいとか関係ないはずだぜ」
俺は余裕のある態度を田島に披露するために話を聞くことに対して自身に問題が無いことを伝えつつ、プラスで一緒に帰ることを提案する。
「え…。それなら。お言葉に甘えて。もう少し話を聞いて貰っていいかな? 」
田島は少し嬉しそうに頬を緩める。無意識かもしれないが、俺の目は確かにはっきりと認識した。
「いいよ。全然聞くよ」
俺は嫌な顔1つせずに田島の要望を受け入れる。
「ありがとう。それともちろん一緒に帰りながらだよ。でないと森岡君に迷惑かけちゃうかもしれないから」
まじで!! まじで!! ここまで上手くいくとは!!
まさかの夢の青春生活の難波の幼馴染ヒロインと一緒に帰れることが決まったぜ!! テンション上がるぜ!!
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