第4話 一緒に帰宅
「それでね。本当は今日の放課後に竜也君と一緒にカフェやカラオケに行きたかったの。それで私のおすすめの漫画も紹介するはずだったの」
俺と田島は教室を後にし、共に並びながら帰路に就く。たった今、正門を抜けたところだ。
「なるほど。それで田島がお勧めする予定だった漫画は何だったの? 」
俺は聞き手に徹しつつ、気になった漫画のタイトルを尋ねる。先ほどの話の内容から田島が漫画が好きなことが推測できる。
「うん。『君との距離、秒速5センチ』って漫画なんだけど。青春、恋愛、切なさが揃った凄く面白いストーリーだよ」
田島は饒舌な口調で力説するように俺に漫画の内容を説明する。どうやら『君との距離、秒速5センチ』という漫画が大好きなようだ。
「そうなんだ。知らなかったよ。もう完結はしてるの? 」
俺は会話を弾ませるために疑問を投げ掛ける。自分の好きな話題についての疑問を受けるほど嬉しいものも中々ない。
「ううん。まだ完結してないよ。5巻ほどしか続いてない漫画なの。竜也君も何度も読む読むって言ってたんだけど。中々、渡すタイミングがなくて。もしかして忘れているのかな? それか本当は興味ないとか…」
教室に身を置いていた時と同様に、田島から哀愁を纏うネガティブなオーラが漂う。
やれやれ。どうやら。中々気に変えられないみたいだな。まぁ、仕方ない。好きな人には振り向いて欲しいのは分かる。それに好きな人であり幼馴染に大事にされないことは想像するだけで心に来るものがあるだろう。
だが、いきなり距離を詰めて優しくしすぎると不信感を抱かれるかもしれない。そうすれば、俺の今日の行動は無駄になる。その上、俺が難波からハーレムを奪うチャンスを1つ失うことになる。その事態は出来るだけ避けたい。
「おっと。そろそろ。俺の自宅が近いんだ。ここら辺でお別れだな」
敢えて今日は絶妙な距離感を保つ。まだ友達にはなっていない一緒に長い時間一緒に帰るような間柄を演じない。ここは中途半端なタイミングで切り上げる。
「そ、そうなんだ。…それは仕方ないね」
俺の言葉を聞いた田島は僅かに名残惜しそうな顔を浮かべた。すぐに、その表情は消えたが、俺の目は見逃さなかった。
「ああ。悪いな。あまり力になれなくて」
俺は意図的に申し訳なさそうな顔を作る。
「ううん。そんなことない。今日は私の話を聞いてくれてありがとう。助かったよ」
田島は俺の言葉を否定するように大袈裟に首を左右に振る。
「そうか。少しでも田島のためになったなら良かった」
俺は我慢できない形で微笑を零す。田島に感謝を伝えられて嬉しくて思わず頬が緩んでしまった。
「まあ、そういうことだ。また明日」
「うん。また明日! 」
俺は田島に手を振り、田島もそれに応えた。そして、俺は帰宅するために田島と別れ、彼女とは違う道を進む。
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