2.お手製のお弁当でございます♡

「はぁ……」


 今朝起こったことが頭から離れない。アラーム音で目覚めると泥棒が入ったと思ったら、泥棒ではなく俺の身の回りの世話をするメイドだったとか。しかもめちゃ可愛い。だけど、ちょっと意地悪というか、Sっけがある。可愛いからいいけど。


 そのせいで学校の授業も集中できず、気が付けばお昼休みの時間になっていた。

 こんな夢みたいな話があるのか。有栖はモデルやアイドル顔負けの美貌の持ち主。背も高いし、きっと教養も持ち合わせているはずだ。


 俺は大きなため息をついていると、ポンと肩を叩かれた。


「よっ~す!。朝からやけにため息が多いけど何かあったんか?」


 高井秀一。俺が邦昇高校に入学してすぐにできた友達。一年五組の中で目立つ存在。少しうるさいが悪い人ではない。女子にモテないことをよく愚痴っている。


「何もないよ。寝不足気味なだけだよ」


「なんだなんだ~? 夜中まで何をしていたんだね~?」


「ゲームだよ。熱中し過ぎて夜遅くまでやってたんだ」


「ほんとか~? なーんか怪しいな~」


 高井はにやにやと笑ってさらに追及しようとしたとき、


「ちょっと! 月城くんが困っているからやめなさいって、もう!!!」


 高井にチョップをお見舞いする女子生徒。

 結構痛かったのか頭を押さえてうずくまってしまう。


 彼女の名前は白石朱莉沙。俺と彼女は中学時代から同じ学校に通っている。お節介焼きで口うるさい子だ。特徴的な茶髪、ピアスに着崩した制服、短いスカートからギャルを彷彿とさせるが、中学時代は少し荒れていた過去を持っている。


「白石さんは相変わらず月城の味方だよな~。まったくさ、贔屓が過ぎるんじゃないのか?」


「いいえ。あなたが月城くんにダル絡みしているから私が助けてあげたの! 私の言っていることわかっているのかしら」


「でたでた~! まるで月城の前でだけいい人ぶろうするやつ~!!」


「なんですってー?!」


「まあまあ、二人ともそこまでにしてよ」


 二人の口喧嘩の仲裁もだいぶ慣れてきた。最初は止めるのに必死だったが、今では俺が間に入れば二人は喧嘩をやめてくれる。高井と白石はメンチを切ってふんとそっぽ向いてしまった。


 俺たちは近くの机をくっつけて昼食を食べることに。俺もメイドの有栖から受け取った弁当をカバンから取り出して机に置いた。


「はあっ!? 月城が弁当を持参!?! それも自作の!?!」


「え?」


 高井と白石がビックリした顔で弁当の入ったランチバックを見た。


「ま、まさかお前……彼女に作ってもらったのか!?!」


「そ、そんなことないよ。これは――」


 有栖花音のことを二人に話すべきか迷ってしまう。実は俺さ、専属のメイドさんに弁当作ってもらってさ~、なんて言ったらどうなることやら。

 変な噂が広まってしまうと面倒なことになる。俺は適当な嘘を脳内で練り上げていく。


「毎日コンビニ弁当は良くないって親に怒られちゃってさ、それで親戚の人に作ってもらうことになったんだ」


「本当なのか!?! なあ!?!」


「そ、そうだよ」


 高井は激しい剣幕で追及してきたが、彼女でないとわかってすぐにいつもの彼に戻った。一方、白石はまだまだ疑惑の目を向けている。


「月城くん。そのお弁当匂う。なんだろう……女の人の匂い。まるで所有権を主張しているかのようで――」


「そりゃあ親戚の女の人だからね! 確か結婚もしていて子供もいたはず」


「怪しい……」


「怪しくないよ。全然! ただの弁当に大袈裟すぎだって~」


「ふーん……それならいいんだけど」


 白石は女の勘が働いたのだろうか。でも、俺の嘘に納得してくれてホッと一息つけた。俺はランチバックから弁当箱を取り出した。ショッピングモールに売っているような一般的なもの。二層になっている弁当箱で箸とフォークの二つが付いている。


「お~! これは美味しそうだ」


 朝食を思い出すとお昼も期待できる。有栖に後でちゃんとお礼を言っておかないと。


 俺はワクワクしながら弁当箱の上段の蓋を外す。手の込んだおかずの数々に圧倒されてしまう。きっと冷凍食品ではなく彼女の自作なのだろう。

 これは残さず食べないといけない。そして下段の蓋を外して主食の白米が見えたところで俺は蓋を閉じてしまう。


「……」


 見間違いだ。うん、そうだ。もう一度、ちょっぴり開封してみる。


「……」


 うん。見間違いじゃない。白米の上に桜でんぷで『ナギサ♡』と描かれている。


「ん~? 月城~飯食わないのか?」


「え!? あ、ああ」


 こんな『ナギサ♡』の桜でんぷで書かれた弁当を見られるわけにいかない。

 俺は動揺しながらも蓋をして普段通り演じる。


「月城くん。どうしたの? 何かあったの?」


「あ、いや! は、初めての弁当だからちょっと嬉しくて。あはは……」


「先に食べちまうぜ」


「あ、ああ」


 どうしたもんか。俺はこの白米の処理をどうしようか必死に考えていると、ランチバックの中に一枚の紙が入っていることに気づいた。


「……」


 二人はお喋りをしていてこちらを見ていない隙に紙を取り、机の下で広げてみる。


『ご主人さま。私の愛を受け取ってください♡ 有栖花音より』


 有栖の直筆のメッセージ。達筆で書かれているが、なぜか主張が激しい。

 愛という名の悪戯。ああ、彼女はこうやって俺に意地悪するのが好きらしい。


「お~い。月城、どうしたんだよ。さっきから変だけどよ~」


「なんでもない!!!」


 俺はやけくそになっていた。白米をガツガツと口の中に詰め込んでお茶で流し込む。そのせいで喉が詰まって苦しくなるのだった。


 あのメイドめ……帰ったら問い詰めてやるからな!!!!!

 うぷ……急いで食べ過ぎた……。

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ちょっと意地悪するメイドは嫌いですか? さとうがし @satogashi

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