第4話


「……風馬ってば、相変わらずなんだから」

 私―――暁幽香は、双子の相方の変わらなさに思わず笑みを浮かべた。ちらりと後ろを見やれば、行くと言っていたはずのコンビニに寄らず、まっすぐ帰宅する彼の後姿が確認できた。……私を送るために、そんな嘘を吐いたのだろう。あまりにも分かりやすい。

「まあ、そういうところが好きなんだけども」

 呟きながら、一人家路に着く。……私が住んでいるのは、私たちの生家。お母さんが離婚の際に貰った家で、私と風馬が生まれ育った家。でも、風馬がいたのは小学校に上がる前までだ。親の離婚当時、私は風馬がいないことを受け入れられなかった。

 風馬とは双子だ。生まれたときからずっと一緒だった。そんな存在と無理矢理引き離されて、納得できるわけがない。どうせなら二人ともどちらかが引き取ってくれれば良かったのに、両親はお互いにその余裕がなかったらしく、私たちを引き離すしかなかったと言うのだ。あまりにもふざけている。

「そんなんだったら、最初から結婚しなければいいのに……」

 両親への文句を垂れ流しながら、私は歩く。風馬とは幸い、学校では会えた。クラスもずっと一緒だったし、放課後や休日は風馬の家に遊びに行けたので(彼は生家にはあまり来たがらない)、長い時間を共に過ごすこと自体は出来た。でも、夜には帰らないといけない。ずっとは一緒にいられない。それがあまりに理不尽だった。その思いは、今でも変わっていない。いや、父親がわざわざ部屋に余裕のあるアパートを借りてるのもあって、泊まり込もうと思えば出来なくはないが、そういうことではないのだ。

 双子は一心同体なんて言うけど、私も風馬のことは自分の半身のように思っている。そんな存在とずっと一緒にいられない。一緒に暮らせない。同じ名字を名乗ることも許されない。そんな状況に、不満がないわけがない。

「恋人の振り、ね……」

 学校では告白避けのために風馬と付き合っている振りをしているけど、これは案外悪くなかった。勿論、風馬に対して恋愛感情なんてないけれど、一緒にいる口実としてはとても便利だ。それに、そういうごっこ遊びだと思えば、これはこれで面白い。風馬と離れ離れになって、唯一良いと思えたことだ。

 そもそも、告白除けだけなら、適当な恋人を作るとか、もっとまともな方法はくらいでもある。でも、この方法を提案したのは、私が恋愛に興味がないからだ。あんな両親を見てきたら、いつか別れる赤の他人になんて執着する気になれない。風馬が提案に乗って来たのだって、多分彼も同じように考えているからだろう。適当に彼女を作るでもなく、双子の相方と恋人の振りをするなんて、合理的であってもなかなか承服できることじゃないはずだ。

「いっそ、このままずっと……ってのもありかも」

 今は付き合っている振りだけど、いっそのことこのまま本当に付き合うのも悪くないかもしれない。そんなことを思うことは多々あった。どうせ、他の男と付き合うつもりなんてないのだ。一応、この関係はどちらかに好きな人が出来たら解消するという取り決めをしているけど、私のほうはあり得ないから問題ない。とはいえ、風馬が渋りそうなので、実現させるのは困難を極めるだろうけども。なので、今のところは現状維持しか選択肢がないか。

「ま、風馬に欲情されてもそれはそれで困るけども……」

 わざとパンツが見える姿勢で座ったり、家では多少の挑発もしているのだけれど、風馬は家族としての距離感を保ち続けている。そこは安心できるところなのだけど、それ故に下手なことがしにくいのも事実だった。理想的なのは、肉体関係を伴わない、プラトニックな関係。恋愛感情はないけど、他の女と付き合うくらいなら私と一緒のほうがいいと、風馬に思ってもらえる関係を目指したい。けれども、それを実現させるのはなかなかに難しかった。

「その辺は追々考えるかな……今はまだ、焦るような時期じゃないし」

 今はまだ、この関係を楽しんでおこう。そう結論付けて、私は帰りたくもない家へ帰るのだった。




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双子の妹と恋人の振りをしています。今はまだ マウンテンゴリラのマオ(MTGのマオ) @maomtg

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