【一話完結】刑事総務課の羽田倫子は、安楽イス刑事でもある その三
久坂裕介
第一話
少し暑ささえ感じる、四月下旬の午前十一時。私、
するとそんな私の
私は思わず、ため息ついた。あのヤローは、私の仕事を邪魔する気か?! だが私は仕事を中断して、行くしかなかった。なぜなら新藤刑事は、私の秘密を知っているからだ。私が『
私は警視庁の職員なので、地方公務員だ。公務員の
だからもし秘密がバレて、警視庁にいられなくなったら非常に困る! だが今のところ、その秘密はバレていない。私は、推理小説を書いている。つまりそれだけ、事件に
そして私は隣の職員に、「ちょっと
そこは、鑑識課の
由真さんはいつも通りショートカットの髪が
でも私は彼を、信用していない。口が軽くて、いつも根も葉もないウワサ話をしているからだ。だから私は彼のことを、ムダなイケメンだと思っている。
それに、私だって
そしてこの一室には、グレーの机とイスがある。私はイスに
「で、今回は、どんな事件が解決できないんですか?」
すると新藤刑事は、低くよく通る声で答えた。
「今回は、スリだ。実は今、
「なるほど、スリですか」
それから私は、聞いてみた。
「もしそのスリを逮捕できたら、
すると新藤刑事は、
「今回の報酬は、捜査第一課長の
私はそれに、飛びついた。
「知りたいです! それを知れば、よりリアルな推理小説が書けます!」
私がやる気になったので、由真さんも応援してくれた。
「今回もがんばってね~、倫子ちゃん!」
私が
●
十年前、
とにかく被害者が多いため、警察は全力を
すると一人の刑事が、お
「何すんだい、アンタ?」
刑事は再び、直感が働いた。この男が、スリではないかと。だから刑事は、自分のサイフをお尻のポケットから取り出して現金を確認した。するとお
刑事はすぐに、男に
動かぬ証拠が出たので、健生は取り調べで全てを語った。確かに自分はスリだが、いつもスーツを着ていた。スーツを着ている男がスリをしようとは、考えずらいからだと語った。
またスリをする相手は、スーツを着て後ろのズボンのポケットにサイフを入れている男を
そして健生は多くの
それから十年が
刑事たちは再び、港区で捜査を始めた。すると両手に
すると今日、ついに刑事たちは健生を、任意の事情聴取をすることができた。刑事たちが健生のあとを
すると健生は、任意の事情聴取に応じた。だが持っていたお札は、千円札一枚だけだった。刑事たちは健生の前を歩いていた、サラリーマン風の男からも事情を聞いた。するとサイフから、約五万円が無くなっていた。
刑事たちは男から金をスッたのは、健生だと確信した。だが、証拠は無かった。健生は皮手袋を両手にはいていたため、被害者のサイフからは健生の指紋は出なかった。だから刑事たちには健生を逮捕するだけの、証拠が無かった。
●
由真さんが
「なるほど……」
すると新藤刑事は、必死の表情で聞いてきた。
「どうだ? 健生を逮捕できるだけの、証拠はありそうか?!」
「まあ、ありますね」
「よし、教えてくれ! 頼む!」
やれやれ。事件を解決させるとなると、必死ですね。新藤刑事のそこだけは、
「健生は、郵便局を過ぎたところで捕まったんですよね」
「ああ! そうだ!」
「それじゃあ今すぐ、その郵便局のポストの中を調べてみてください。
すると新藤刑事は、疑問の表情になった。
「は? ポストを? それは一体、どういうことだ?」
私は新藤刑事を、
「もう、早く調べて下さいよ! じゃないと証拠が、無くなるかもしれませんよ!」
それを聞いた新藤刑事は、
「わ、分かった! お前の言うとおりにする!」と言い残して。
私は、イラついた。
「だからアンタが私のことを、お前って呼ぶなー!」
すると由真さんが、聞いてきた。
「私にも分からないわ、倫子ちゃん。一体、どういうこと?」
「ポストに入れられるのは、手紙だけじゃないってことですよ」
そう言い残して、私もこの部屋を出た。
●
昼休み。ランチを食べた終えた私は、刑事総務課の自分の席でまったりとしていた。今日のマーボー
そうしてまったりしていると、推理小説のアイディアが浮かんだのでスマホにメモした。
私は今、推理小説のあらすじを考えている。今回、担当編集者から
それにしても、
と考えていると、スマホが鳴った。メッセージを確認すると、『新藤だ 報酬が欲しければ、すぐにいつものところにこい』だった。ほ、報酬! 報酬に目が
そこにはやはり、由真さんと新藤刑事がいた。そして新藤刑事は
「ポストを調べてみると何と、健生宛の封筒が見つかった。中を調べてみると、約五万円のお札が見つかった。それには、サラリーマン風の男の指紋が付いていた。つまり健生はサラリーマン風の男のサイフから紙幣を抜き出して、封筒に入れたことになる。健生の話だと、封筒はスーツの内側のポケットに入れていたそうだ。そしてこれが証拠となって、健生は逮捕された。だが、どうして分かった?」
「簡単なことですよ。サラリーマン風の男のサイフから、お札が無くなった。そして近くには、スリの常習犯の健生がいた。すると健生がスリをしたと考えるのが、
すると新藤刑事は、納得したようだ。
「うーむ、なるほど……」
そして私は、急かした。
「さあ、それじゃあ報酬をくださいよ! 警視庁の捜査第一課長の月給は、いくらなんですか?! それが分かれば警視庁の刑事を主人公にした推理小説が、よりリアルになるので!」
すると新藤刑事は、あっさりと答えた。
「あー、それか。課長に聞いたんだけど、それは個人情報だって言って教えてくれなかった。てへ」
それを聞いた私の怒りは、頂点に
「てへ、じゃないですよ! そもそも、本当に課長に聞いたんですかか?!」
すると新藤刑事は、この部屋から逃げ出した。
「ま、まあ、そこはいいじゃん。それじゃあ俺は、まだ仕事があるから」と言い残して。
私は、大きなショックを受けた。ま、まただ。また報酬に
「ま、まあ、今回も事件を解決できて良かったじゃない~。美味しいコーヒーを淹れてあげるから、飲んでよ~」
私は、ふと思い出した。以前にも、こういうことがあったな。結局、報酬は、由真さんが淹れてくれた美味しいコーヒーだったことを。そして私は、それでもいいかと思ってしまった。
【一話完結】刑事総務課の羽田倫子は、安楽イス刑事でもある その三 久坂裕介 @cbrate
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