もろびと鎮(しず)めり
菜月 夕
第1話
『もろびと鎮(しず)めし』
街にクリスマスソングが流れ始めた頃、量子もつれを利用した通信を実験していた計測器に不自然な信号が入り始めた。
量子もつれ。それは十一次元と考えられるミクロの世界の量子世界での量子の我々三次元世界の視点では不可解な現象で、ひとつの量子が別の量子に時間経過なしに同期するものでこれを利用できたら時間と空間を考えずに通信できる訳だ。
これが地球外探査や開発にリアルタイム通信をもたらす事が期待されていた。
将来の火星開発に向けて研究されていた量子通信、その機器のチェックと外部要因を調べても判然としないその信号は俄然、地球外生命体の通信ではないかと信号の解読が始まった。
それは確かに何処かの惑星の情報であった。
そこでも人のような知的生物が惑星を支配し、繁栄した。しかし、その惑星の資源も有限でそれを奪い合いって戦争が始まりそれが更に惑星を疲弊させ、気付いた時にはその知的生命体もどうにもならなくなっていた。そして最後の希望を残された資源を使ってこの通信にかけたらしい。
この事実は瞬く間に世界を震撼させた。なんとなれば今の我々の世界がその未来に向けて突っ走っているさなかであったからだ。
クリスマス前夜。これらのニュースは世界に浸透し、世界は今までの悪夢を払拭する必要があった。
いつもなら楽しい夢を見るべきクリスマスイブの夜を世界は中々眠れない夜を過ごした。
二十五日。最後の通信が届いた。しかしそれは世界に公開されることは無かった。
それはその通信が我々の世界の未来から届いたものと判ったからだった。
何故、量子もつれの通信が我々に届いたか。それは時間的につながったひとつの繋がった量子だったからだ。
量子の世界では我々の世界と違う時間が走っている。
勿論、我々にそう見えるだけで一つの超立体の別の頂点をそれぞれ見ていただけかも知れない。
そしてそれは未来に多世界的解釈-いわゆるパラレルワールド的解釈が許される事だ。
そう、未来はきっと変えられる。いまこそ我々は本当の悪夢から覚める時がきたのだ。
悪夢の覚めたこの世界はその反省を活かして新たな未来を拓く事ができるだろうか。
もろびと鎮(しず)めり 菜月 夕 @kaicho_oba
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