すぐに被害者面をする義妹が、旦那様は大好きなのですね

大舟

第1話

「ねぇアリッサ、私のお部屋にあった洋服がボロボロにされていたのだけれど…。なにか心当たりとかないかしら?」

「わ、私にはさっぱり…。ま、まさかおルナ姉様、私の事を疑っておられるのですか!?」

「疑っているというわけじゃないけど、なにか知らないかと思って…」

「心外です…。私たちはもう姉妹なんですよ?なのにそんなひどいことを私がするはずがないじゃありませんか…。私、悲しいです…」


義姉に当たるルナからの言葉を受け、義妹のアリッサは悲しそうな表情を浮かべながらそう言葉を発する。

しかしアリッサはその内心では、全く正反対の事を想っていた。


「(いきなり疑われるとか、本当に腹が立って仕方がないわ…。まぁ、やったのは私だから政界ではあるのだけれどね。でも一発で正解されるのもなんだかむかつくわ)」


そう、アリッサはルナの事を全く快く思っていなかったのだ。

表に出す雰囲気こそルナの事を慕っているような様子を見せてはいるものの、そこに感情は全く伴っていなかった。


「お姉様、私寂しいです…。お姉様がお兄様と婚約されることになって、私本当にうれしかったのですよ?これでお姉様とは家族になれるのだと思ったからです。なのに、家族になって私の事を疑う毎日なのですか?そんなの私は全然楽しくないのですけれど…」


ルナの婚約者であるユナイトは、アリッサの事を妹に持つ貴族男爵だ。

二人の馴れ初めは貴族食事会で、その場でルナの容姿を気に入ったユナイトが一方的にアプローチをかけ、半ば強引なやり方でルナの事を自身の婚約者とした。

ルナもいろいろと困惑の思いは心の中に抱いていたものの、最終的にはユナイトとの関係を受け入れて婚約者となることを決めた。

…しかしそんな二人の関係を全く良しとしていない人物が一人、いた。

それがアリッサだったのである。


「お姉様、私は酷くショックを受けてしまいました…。この事はお兄様にも相談させていただきますから、そのつもりでお願いしますね」

「……」


ルナの事を一方的に毛嫌いするアリッサは、ことあるごとにルナに対して嫌がらせを行ってはこうして自分の事を被害者のようにふるまっていた。

あくまで悪いのはルナの方であり、自分はただの被害者であるというスタンスを変えなかった。

そしてそれがうまくいかなくなったなら、彼女はすぐにユナイトに泣きついて味方をしてもらう。

ユナイトはアリッサの事を溺愛しているため、彼女に泣きつかれたならどんな状況でも彼女の味方をし、ルナの話など一切聞かずにどちらが悪いのかを決めつけてルナの事を叱責していた。

アリッサは、ユナイトが自分の事を溺愛している事をよくわかっており、それを自分の武器として利用していたのだ。


「私はこんなにもお姉様の事を想っているというのに、どうしてお姉様は私の事を悪者にするのですか…?それも、一度や二度だけでなく何度も何度も…。お姉様の中では私の存在なんて全く小さなものなのでしょうね…」

「アリッサ、それはあなたの方なんじゃ…。私がどれだけあなたと仲良くしようと思っても、あなたはいつも私に嫌がらせをしてきて、さらにその後で自分の事を被害者に仕立て上げているじゃない」

「仕立て上げているわけではありません。その証拠に、きちんと毎回お兄様が真実を見極めているではありませんか。お兄様の目に狂いはないのですから、お兄様が行ったことが真実なのです」

「…それは、彼の目にはあなたが悪者であるようになんて絶対に映らないからでしょう?あなたはその事もよくわかったうえで男爵様の気持ちに付け込んで…」

「あぁ、そこまで言われるのならもういいです。やっぱり今回もお兄様に相談することにします。お姉様からまたいじめられていますと」

「……」


結局これが、いつもの流れだった。

ルナがどれだけ丁寧にアリッサの事を諭そうと考えても、彼女の言葉など一切受け入れるつもりのないアリッサはルナの事を拒絶し続け、そして最後にはルナの方を悪者にして自分を被害者にする。


「…もうお兄様には、もっと違う決断をしてもらうことになるかもしれませんね。こんなことが続くのでは、私だって楽しく生活をしていくことができませんもの…。お姉様、今度という今度は私の事をいじめてきたこと、後悔することとなるかもしれませんよ」

「いじめてきたのはあなたの方でしょうに…。本当にどこまでも私の事を悪者にしたくて気が済まないのね…」


話し合いは平行線の一途をたどっているものの、その原因も、どちらに問題があるのかも誰の目にも明らかである。

しかし誰の目にも明らかなことであっても、男爵の目にはそれが明らかではなかった。

彼の中では溺愛するアリッサこそがすべての中心であり、最も大切な存在であり、真実なのだから。


「それじゃあお姉様、私はこれからお兄様と話をしてきますので。さようなら」

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2024年12月28日 14:03
2024年12月29日 14:03
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すぐに被害者面をする義妹が、旦那様は大好きなのですね 大舟 @Daisen0926

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