第9話 俺はあくまでレプリカですけど
ちょっと長くなっちゃった。
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「———ここが生徒会室だよ、好きに見学してくれて構わない」
「おー……結構金かけてんなぁ……」
分身した側の俺は、キョロキョロと生徒会室と呼ばれた部屋に視線を巡らせる。
王城のような豪華絢爛といった感じではないが、置かれているものや家具を見るに相当お金が掛かっていると思われる。イメージは社長室っぽい。
だが……と、俺は生徒会長と書かれた卓上名刺の横に積まれた大量の書類に目を向けて。
「これって俺に見せちゃあかんヤツでしょ」
「別に良いさ。どうせ見ても、学園の校舎すらロクに把握していなかった君には良く分からないだろう? あと、一応私は先輩だからね?」
「お構いなく」
「私が構うと言っているんだけどな……!?」
でも、俺を助けてくれなかった人に敬語を使うのって何か癪じゃない?
ごめんけど、俺の精神年齢はロクに成長してないから、大人な対応を期待されても困る。大人はあんな風にちやほやされたい何て思っても行動しないよ、多分。
「君はエレノアーレには敬語を使っているじゃないか」
「エレノアはアンタと違って
俺もどうせならエレノアと一緒が良かったな。
まぁどうせ後で
何て優しい笑顔のエレノアを思い浮かべていると、生徒会長が少し前屈みになって俺を下から覗き込むように近付いてきたかと思えば。
「…………どうしても、ダメか?」
「どうしたんですか生徒会長? 勧誘ですか? 俺の力で政敵をボッコボコにしたいんですか? そうなら言ってくださればいいのに」
又もや女の最強の武器、潤んだ瞳の上目遣い攻撃にあっさり屈する俺。勇者時代に人と関わら無さ過ぎてハニートラップを受けたことがないのがバレる。
一瞬で態度を軟化させた俺に、生徒会長は僅かに引いている御様子だ。
「い、幾らなんでもチョロすぎないか……? いや、まぁ別にそれは良い。政敵は一応エレノアーレの実家だけど大丈夫かな?」
「そんなこと言いましたっけ? きっと会長の聞き間違いでしょう、絶対そうです」
「君は大概調子が良いんだね……」
「まぁ病気には大分掛かってないですね。地味に誇れるポイントです」
「その調子が良いとは違うんだけど……これ以上話していたら一生終わりそうにないから、取り敢えずそこに座ってくれないか?」
遂にオリジナル顔負けの俺のトークスキルに匙を投げたらしく、何処か疲れた様子でため息を吐いた会長が対面のソファーに俺を促した。
もちろん一通り仕返しを終えた俺は、特に反抗することなく座ると。
「……どうしてこんな2人っきりの場所に連れてきたんですか、しかも異性の俺を。いや言わなくても分かります」
キリッと精一杯カッコいい表情で、なおかつ声も良くして告げた。
「———さては告白ですね?」
「そうだよ」
「ええっ!? マジですか!?」
おい
今日の夜は、どっかの高級焼肉店とか予約して『彼女出来たよパーティー』でもおっぱじめようぜ!
何て、内心では物凄く喜びつつ、外面は必死に平静を装う。
「いやまぁ俺ほどのイケメンで最強の力を持っていたら、そりゃ女性の1人や2人や3人は惚れますよね。因みにどんな所が好みだったのか聞いても良いですか?」
「…………」
「あの……会長? ごめんなさい、ちょっと調子に乗りすぎたし気持ち悪かったのは自覚してるんで、何か話してくれないですかね?」
テレビやネットでも中々お目に掛かれない美女にジーッと無言で見られた俺が、遂にその場の雰囲気や無言の圧に負けてそう言えば、会長が小さくため息を吐いて呆れの孕んだ視線を向けてくる。
「……君は、少し自制というのを覚えた方が良いかもね」
「仰るとおりです、オリジナルにも伝えておきます。大変申し訳ありませんでした」
確かに、言われなくてもちょっと暴走気味だった。
反省、何て自分を戒めつつ俺がしっかり頭を下げて謝ると。
「まぁ分かってくれたらそれで良いよ。私も、こうして気軽に話せて楽しかったからね」
「……聞いて良いのか分からないんですけど、もしかしてお友達が少———」
「違う! 私にだって友達はいる! 皆んな、私を尊敬してくれているんだ。一々話を脱線させないでくれないかな!?」
「ごめんなさい」
ただ、あの反応からして友達は少ないと見た。
まぁこういった生徒会の力が強そうが学園で生徒会長と対等の友達を作るのは難しいのかもしれない。
何て同情気味に思っている俺に、こほんっと咳払いをした会長がにこやかな笑みと共に言った。
「キョータ君には、是非とも生徒会に入って貰いたいんだ。この学園の生徒会は汎ゆる場面で優遇される。将来安泰とも言えるね。どうかな、決して悪い提案じゃないと思うんだけど」
「いや、めっちゃくちゃ良い条件ですね。じゃあ一応聞いておくんですけど……もし断ったらどうなります?」
そう言った途端、生徒会長の表情が僅かに動く。
「……それは、入りたくない、ということかな?」
「別にそうとは言ってませんよ。ただ、まぁ時期尚早かな、とは思いますけどね。知ってると思いますけど、俺はまだこの学園について何も知りませんし……もしかしたら良い部活なんかもあるかもしれませんからね」
もちろんここも良いとは思いますけど、と俺は苦笑交じりに肩を竦めた。
そもそもオリジナルが居ない時点で俺に決める権利はない。
結局仕事をするのは、あくまで
「あ、でも1つ分かったことがあります」
「……分かったこと?」
突然そんなことを宣った俺の言葉に、不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げる会長。
だが、その仮面の裏側に隠しているモノがあるのを……数々の者達と戦ってきた経験のある俺は見抜いていた。
「———会長は、俺が手元に居ないと怖いんでしょう?」
そう、彼女が俺をこの生徒会に欲しがる理由は多分それだ。
この学園には風紀委員という、生徒を武力で制圧する委員会があるらしい。
つまり、生徒会に俺のような戦闘特化の仕事出来ない系馬鹿は要らないのだ。
それにも関わらず、ここまで新入生である俺に無礼を働らかれておきながら俺を勧誘する理由など分かりきっている。
———プライドを上回る恐怖だ。彼女は、恐怖を何よりも嫌っている。
「多分会長って、盤面を支配したい人種でしょう? そういう人種って、自分のテリトリーに自らの支配を崩しかねないイレギュラーが現れたら、必ず首輪を嵌めたくなるですよ。今回は
何て俺のこれまで見てきた会長の言動から推理した考えを告げてみれば……会長は先程までのどの表情とも違う、酷く冷たい表情で俺を見てきた。
その瞳には、僅かな苛立ちが覗いている。
「……私が、新入生を恐れるとでも? 学園最強格の私が?」
「学園って……随分と狭い世界で王様気取ってるんですね。まぁそんな狭い世界でちやほやされたいとか言ってる俺達も大差ないですけど」
そう自嘲気味な笑みを浮かべた俺は、これ以上用はないと立ち上がり……扉に手を掛けた所で、会長が恐ろしいほど静かな気配を纏いつつ口を開いた。
「……あまり調子に乗っちゃダメだよ、キョータ君」
「肝に銘じておきます。それでは、俺達からも」
クルッと自然な動きで会長へと振り返り。
「———恐怖を断つのではなく、向き合うことをオススメしますよ、会長」
それでは、と笑顔で俺は扉を開けてゆっくりと閉めた。
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