第8話 2人の相手をする方法
「———生徒会長?」
俺はエレノアの言葉に今一度美女を眺める。
黒曜石のような漆黒の髪と瞳。
非常に整った綺麗といった感じの容姿。
170に届きそうな高身長。
明らかに他の生徒達とは別次元の気配。
確かにゲーム世界と言うだけあって、生徒会長の役に見合う容姿と纏う気配はしている……が。
「生徒会長が覗き魔ってどうなん?」
「覗き魔ではなく、視察と言って欲しいね。生徒会長が受験生を値踏みするのは当たり前だと思うが?」
「なら助けてくれても良かったじゃん。俺がマジで焦ってたの見てたろ」
そう俺が責めるような目を向ければ、呆れた様子でため息を吐いた。
「はぁ……そんなの少し下調べをしていれば分かることだよ。君の準備不足を人のせいにしてはいけないんじゃないかな?」
ぐうの音も出ないド正論じゃないですか。
どうしてそんな辛辣なんですか。
何て正論パンチによる大ダメージを受けて黙り込む俺に代わり、エレノアが相変わらず表情を硬くして突き放すように言った。
「……生徒会長、一体何の御用なのですか? 今から私達は入学手続きと荷物の受け取りをしないとならないのです」
「だが、この時間は勧誘もしていい決まりになっている。見た感じ、キョータ君は内容を聞きたそうだが?」
話の焦点が逸れたと油断していた俺へ、生徒会長の喜色混じりの視線が射抜いた。
まるで俺の思考を読んでいるかのようだった。
「そうなのですか……? 私と……」
だが、エレノアも負けじと俺へと少し潤んだ瞳を向けてくる。
彼女との身長差的に上目遣いになってしまうため、それが余計に破壊力を増幅させていた。
……さて、これはどうするのが正解だ?
生徒会長の提案は何となく予想できるが、予想通りなら、好待遇を期待できることに加え、ちやほやだってしてくれるかもしれない。
逆にエレノアと一緒に行けば、きっと癒やしの時間が待っているだろう。
そんな美少女、美女2人からの熱烈な視線を浴びるという人生初の快挙を成し遂げた俺は、必死に頭をこねくり回した結果……。
「「———これで良し」」
「「「「「「「!?!?」」」」」」」
勇者時代に諜報や敵が多い時に使っていた魔法———【分身】を発動させ、自身を2人に分けた。
これには2人とも完全に予想外だったらしく、驚くのはもちろん、エレノアに限っては驚き過ぎて何歩か後退っている。
ついでに言えば、ただでさえ生徒会長の御登場と言うことで俺達を注目していた他の新入生や在園生も同じ様に驚愕を全面に出していた。
「きょ、キョータさん……?」
「「どうしました?」」
「ど、どうやって……御二人に?」
そう恐る恐る尋ねてくるエレノアに、俺と俺を元に創られたもう1人の俺は顔を見合わせ……。
「「———あと数十人は増やせるけど、見てみます?」」
「遠慮しておきます! 生徒会長、私は此方のショータさんと向かいますので、貴女は此方のショータさんをお願いします!」
「そ、そうだね、混乱も広がっているからね……! ほら、こっちのショータ君は私に付いて来て!」
物凄い速度で大焦りする2人に連れて行かれた。
「———い、今見たか……? あの受験生、2人に分かれたぞ……!?」
「み、見た……あ、あんな魔法ってこの世にあったか……!?」
「し、知らない……少なくともこの学園では習ったこと無い……!」
よほど目の前の出来事が衝撃的だったのか、キョータ・ヤソラ一行が消えた後も様々な憶測や驚愕の声が飛び交う。
そんな中、私———サーラこと夢原沙羅も、他の見ていた者と同様に驚きを隠せないでいた。
「う、嘘ぉ……大分中盤で出てくるサブクエストの敵の能力、モロにパクってるよあの人ぉ……」
ただ、驚いている所は他の人と違い、このゲームのサブクエスト———『錬金術師の禁忌』に登場する敵の錬金術師に正しくそっくりな魔法を使ったからであるが。
しかも錬金術師のように何十年も掛けたわけでもなく、さも日常かのように創り出したのだから、これに驚かない者は居ない。
多分今の光景をサブクエの錬金術師が見たら卒倒しそう。
「本当にあの人誰なのよもぉ……」
あまりにも知っている物語と違い過ぎて、ガクッとしゃがみ込んでしまう
原作知識? ネットの攻略サイト? なにそれ美味しいの?
昨日の夜パソコンの前で何時間も攻略サイトを漁った私の時間を返して欲しいんですけど。
もう原作崩壊なんて話じゃない事態が巻き起こっている。私のゲームだけ。
運営に問い合わせてみたけど『そんな事例は初めてです。ですので、私共の後学のため、絶対に辞めずにクリアしてください。クリアした暁には、私共から報酬金を差し上げます』なんて意味の分からない回答を貰った。
金欠と言えばの大学生のため、お金は欲しいからやるけれど……。
「———く、クリア出来るのかなあ……不安だよぉ……」
私は思わず頭を抱えるのだった。
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