第7話 合格発表って目立つじゃんね?

 ———1週間後。


「……人多いなぁ……」


 俺は、正門を通り抜ける私服姿と制服姿が入り混じった大勢の子供達を眺めながら呟いた。

 入学試験の時と違って見るからに人が多い。

 だが、これにはこの学園の制度が原因として上げられる。


 どうやらこの王立アルティマス魔法学園では、合格発表の後、自分で色々と物を受け取りに行かないといけないという、何とも面倒な制度を取り入れている様で……合格発表を見るために受験生が集まる。

 しかもそれだけに留まらず、この制度を決めた人達は何を思ったのか、在園生達から新入生達への部の勧誘が今日から解禁されるため、数十ある部に所属している在園生達もこぞって学園に訪れるのだ。


 ……この制度考えた奴、やっぱり馬鹿だよな。

 この人の濁流の中だったら物を取って帰るだけでも一苦労だろ。


 何て常識的な部分を司る俺がそう思う一方で、欲望的な部分を司る俺の考えは全くの真反対だった。


 ヒャッホウ! 最高の制度じゃねーかっっ!!

 これなら絶対俺の周りには勧誘の嵐が出来るだろ!

 目立つなんてどころじゃなく、ちやほやだってされるかも……うへ、うへへへへへへへ……!!


 何とも気持ちの悪い心の声だ。

 是非とも彼にはご退場願いたいが……俺の思考は完全に後者寄りなので。



「———ちやほやされに、いざレッツゴーっ!!」



 俺は喜んで、人混みの中に飛び込み———。



「———あ、キョータさん!」



 後ろから掛けられる声。

 この声には聞き覚えがある。


「1週間振りですね、キョータさん」

「そうですね、エレノアさん」


 そう、我らが心優しき美少女エレノアーレさんである。

 相変わらず染めたでは絶対に出せない、美しくサラサラで光り輝いている金色の髪と澄んだ碧眼だが、それに加えて……。


「……物凄い車ですね」

「私はいいと言ったのですが、お父様がどうしてもと……」


 苦笑と共に頬をかきいているエレノアの後ろには、日本で言うスポーツカーっぽい車が停めてあった。

 色は白銀と金色を混ぜ合わせたような……とにかく派手な色だった。


「……まぁ、良いんじゃないですか?」

「絶対に私をおかしい人認定してませんか……!? この車を選んだのは、私ではなくお父様ですからね!?」

「分かってますよ、分かってますから」


 俺がニヤニヤと笑みを浮かべて言えば、むっと僅かに頬を膨らませた。


「分かったようにはとても見えないのですが……まぁ良いです。ところで、合格発表はもう見られましたか?」

「いや……」


 俺が首を横に振れば、ぱぁぁぁっと顔を明るくするエレノア。ちょっと、そんな顔されたら勘違いしちゃうじゃんか。


 何てドギマギしていると……エレノアが少し伏し目がちにチラチラと此方に視線を送りながら、遠慮がちに言った。



「もしキョータさんがよろしければなのですが、一緒に見に行きま」

「行きます」

「せんか…………え?」



 言い終わる前にオーケーを出す俺に、少し驚いた様子で見つめるエレノアだったが、直ぐに嬉しそうに顔を綻ばせた。


 凄いだろ? これって俺を自分の陣営に入れるための演技なんだぜ? 

 絶対エレノアって良い所のお嬢様だからな、大方お父様にでも俺を落としてこいって言われてんだよ。

 まぁエレノアにこき使われるなら落ちても良い気がするけど……まだ俺はちやほやされてたい。


「では、行きましょうかっ!」

「いぇーい!」


 こうして、テンションマックスコンビで合格発表がされている校舎の玄関口へと向かった。










 ———結果で言えば、俺は10位合格だった。もちろん理由は分かっている。


「くっ……筆記試験が無かったら……!!」

「し、仕方ないですよ……。キョータさんは異国の方なのですから、この国の歴史などは詳しくないでしょうし……」


 そう、筆記試験が思いっ切り足を引っ張っていた。

 エレノアは必死にフォローしてくれるが、残念ながら全体的に点数が悪いのでフォローになってない。


 いやー異世界だからって完全に舐めてたなー。

 数学とかめっちゃムズいやんけ。魔法理論も基本ズタボロだったし。

 あとエレノアには悪いんだけど、1番点数高いのが歴史なんだよなぁ。


「それでは、もう合格発表も見ましたし……荷物を取りに行きましょうか」

「……ですね」


 露骨にテンションの下がっている俺だが、隣のエレノアも別の意味でテンションが下がっていた。


 何故かと言えば、勧誘は一切来てないからです。

 横のエレノアはその見た目と美貌で直ぐにバレて勧誘祭りだけど、隣の俺はほぼほぼスルーされているからです。


「……俺、実技は満点なはずなんだけどなぁ……」

「え、えっと……勧誘されたいのですか……?」

「当たり前じゃないですか。何のためにあんなに力を見せびらかしたと思ってるんですか」


 そう俺がえっへんと胸を張って言えば、信じられない物を見るような、物珍しいものを見るかの如き目で俺を見てくるエレノア。俺は動物園の動物かな?

 

「あの……そんな珍獣を見る目で見ないでくださいよ」

「み、見てませんよ……?」

「なら何でそこで首を傾げるのか聞いてもいいですか?」

「……な、何となく……?」

「やっぱり見てるんじゃないですか」


 何て問答を繰り返していた時。




「———ねぇ君、ちょっと良いかな?」




 明らかに女性の声だと分かる透き通りつつも芯のある声色でそんな言葉と述べると共に、俺の肩にポンと手を置かれた。

 その瞬間に俺の中で『俺の時代が来た!』とファンファーレが鳴るのを聞きつつ、キリッとカッコつけて振り返り……あっ、と声を上げた。



「入学試験の時に困ってる俺を校舎内で傍観してたヤな人じゃん」

「間違ってないけど、その言い方はやめてもらえるかな……?」



 そう、俺が入学試験の時に睨みを効かせた人である。

 この世界の人にしては珍しい漆黒の髪を肩まで伸ばした美人は、俺の言葉に少し口角をヒクつかせた。

 しかし、次に口を開いたのは、俺でも、はたまた目の前の美人でもなく。




「———何の御用ですか、生徒会長?」




 俺の横で瞳に警戒色を灯したエレノアだった。


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