涙の温度
亥之子餅。
涙の温度
今日は雲が少なくて、星がたくさん見える。寒さで目を細めると、星々は
こんな日に、あなたが隣にいてくれたなら。ふと頭を
私に、価値なんてない。冷えていく指先を
先日、仲の良かった友人と喧嘩をして、縁が切れてしまった。
本当に些細なことだったのだ。一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に多くのことを乗り越えた仲間だったのだ。
もう二度と口を利かない――そんな
「どうして……こんなにも、生きるのって難しいのかな」
呆然として呟いた。
いつもそうだ。何を言っても、誰かを傷つける。何も言わなくても、誰かに辛い思いをさせてしまう。自分の心配りは、いつだって
「人生の主人公は自分だ」なんて、世渡り上手の
また
輝きのひとつひとつが、自分は自分なのだと、声高らかに
ああ、こんな私って――――。
光の粒が、じんわりとぼやけていく。広い紺色の空が、瞳に
その夜空を切り取るように、ゆっくりとひとつ
心の奥からせり上がった想いは、
そして、思いがけずはっとした。
――――ああ、あたたかい。
自分の内側から
分かっていたんだ。自分の臆病さも、自分のための人生なんだってことも、自分が一番よく知っていたんだ。
それでも、できなかった、変われなかった。だから生きていく自信が持てなかった。
私は、生きている証が欲しかったんだ。ここにいる実感が欲しかったんだ。
冷え切った頬を、優しい
疑いようもなく、それは生きている温もりだった。
その一粒を境に、ぽろぽろと止めどなく溢れ出した涙が、何度も顔を濡らして落ちていく。喉にこみ上げる想いは次第に
久しく泣いていなかったから分からなかった。分からないふりをしていた。
心配して
「――――私……ずっとずっと、苦しかったんだね」
誰かに認めてほしかったんだね。優しさが報われてほしかったんだね。
ずっと押し殺していた想いの波は、迷いと後悔で曇っていた心を、穏やかに洗い流していった。
***
どのくらい経っただろうか。頬を刺す風は一段と冷たく、失ったものの大きさを突き付けるように、涙を乾かして去っていく。しんと静まる公園には、時折鼻を
ベンチから立ち上がり、赤く
それからひとつ、胸いっぱいに深呼吸をする。
より良い生き方なんて、私には分からない。
これからもきっと、たくさん誰かを傷つけて、その度に自分も傷つくのだろう。こんな風に泣く夜だって、何度も訪れるのだろう。
自分のための人生だと思える日は、まだまだ先かもしれない。
それでも、ようやく認められた。
自分はここにいるのだと。ここで確かに、生きているのだと。
今はこの体温を、少しだけ抱いていたい。
頬に残る温もりの跡を、もう少しだけ信じていたい。
「――――生きるのって、難しいな」
もう一度、空を見上げる。
目に映った星たちは、さっきよりも
<了>
涙の温度 亥之子餅。 @ockeys_monologues
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