第七章 観据える世界は見上げた先に

コハクの彼方


第七章 観据える世界は見上げた先に


ラドラ♂

高3

ローツの元パートナーの先輩

世界の全てを知ることが出来る


ローツ♀

高2

ラドラの元パートナーの後輩


ネル♀

高3

全てをまもりたかった


カイ♂

高2(一年前軸)

今はもういない






本編↓



ラドラ︰ここは、とある学園である。

ここは、皆が望む楽園である。

ここは、人々の理想郷である。


ネル:【友】とはお互いに助け合う仲間のことである。

助け合い、尊重し合い、時にはぶつかったって良い。



だって、それが掛け替えのない絆と信頼だから。



ラドラ:僕は……最初から友情なんて素敵なものは、僕達の間に無いことは知っていた。


だって、すべてを知っているから。

わかるから。



だからこそ、キミたちの作り上げた友情に騙されるフリをするのは簡単だった。

当たり前のように普通に振る舞えた。


でも、とても、虚しかったんだ。

こんな場所から逃げ出してしまいたかった。


逃げ出したかったのに、この日常を僕は手放したくは無かったんだ。

偽りの友情でも、壊れてしまうことが怖かったから。

だって、ひとりは嫌だから。


ね、臆病でしょ?


ローツ:例えそうだとしても、ワタシは……


臆病だなんて、そうは思いません。


でも、きっと。

ワタシのこの言葉が届くことはないのでしょう。


だって、アナタはそれをワタシには言わせてくれないから。


嗚呼、なんて、ズルい人。



カイ︰今日も始まりの鐘の音が、世界に鳴り響く。




…………


ラドラ︰ボクの能力は全知全能。

全てを知ることが出来る。

それは、 全ての現在の理(ことわり)、過去にあったこと、そこから導き出せる、これから起こりうる未来を推測することが出来る。

誰しもが羨み、妬むような力だ。


しかし、万能であるが故に、ボクは全てを無意識下で知ってしまう。


皆、ボクのこの能力を【終演】を嫌っていた。

怖がっていた。


それは、ボクも同様で...

でも、目覚めてしまった以上、ずっと付き合っていかないといけなくて...

切っても切り離せない。


こんな力なんてなければ良いのに...

何度も、何度も、星へと願った。


叶いっこないのにね。


カイ︰現在から二年前、学園都市入学式にて。


ネル「はじめまして、あなたがラドラくんよね?」


ラドラ「...そうだけど。誰?」


ネル「ふふ、そんなに警戒しなくて大丈夫。

怖がらなくていいよ。


改めて、こんにちは。私はネル。

丁度あなたの事、探してたんだ」


ラドラ:桜並木の下。

これがボクの、学園に来て、最初の分かれ道だった気がする。

キミと出会わなければ…

いや、キミの声に手を取らなければ...

ボクは友の温もりも、心地良さも、楽しさも……そして、裏切りも。


そして、この上ない虚しさも、

知る事は無かっただろう。


…………


ラドラ︰これは、一年前。

キミがいなくなる前のこと。


カイ「よぉ、ラドラ、午前授業お疲れさん。

調子はどうだ?

昼メシ行こうぜ」


ラドラ「あ、カイ。お疲れ様。勿論、食堂で良い?

そういえば、今日の能力応用学どうだった?

ボクは結構難しくて、中々付いていけなかったよ」


カイ「そうか?俺はまあ...優秀だし?

あれくらいの問題だったら、簡単だったぜ。

御茶の子さいさいよ〜」


ラドラ「わぁぁ、

すごいや!

さすが次期、生徒会長候補なだけあるねぇ。


ふふ、ボクの自慢の友達だよ」


カイ「だろ〜?もっと褒めろって」


ラドラ「えへへ、かっこいいよ」


カイ「はは、ありがとさん。


わかんなかったところ、どこだ?

俺でよけりゃ、後で教えるよ。


あ、ついでにムートンも呼ぶか?

アイツも昼メシ食ってねぇだろうし」


ラドラ「そうだね!ムートンも!

了解了解。

いつものメンバーでってことね。


...ふふ」


カイ「どうしたんだ、そんなに笑ってさ。

嬉しいことでもあったのか?」


ラドラ「こうやって、キミたちみたいな友達が出来て嬉しいなって思って」


カイ「ほう」


ラドラ「だってさ、

今までボクはこの力...全知全能の能力のせいで、皆ボクに近づかなくって。

だから、友達なんて言う素敵な存在はいなかったんだ。

でも、こうしてキミみたいな友達が出来てるんだから、嬉しいことだよ。


だから、この学園に来て、毎日が幸せだなって思って笑ったんだ」


カイ「ラドラ...」


ラドラ「そんな顔、すんなって〜。

  ほら、カイのマネ。


はは、大丈夫だよ。

ほら、昔誰もボクの周りに居なかったけどさ、今はカイやムートンがいるじゃない?

これ以上の幸せはないよ。

 


カイ、いつもありがとう。


ボクを友達だって、選んでくれてありがとう 」(哀愁漂う笑顔)



カイ「ふは。


おう、もちろんだ!

ほらほら、ムートン呼びに行くぞ!

昼メシはあいつの奢りだー!

何食おっかな〜」


ラドラ「わ、わ、急に背中押さないでよ〜

ははっ、

たしかに!何食べようかー?」


カイ「ごめんな、ラドラ(ボソッ)」


ラドラ「ん?なんか言った?」


カイ「いいや、なんでも?」


ラドラ「へんなやつー」


カイ「なんだとー!」


ラドラ「ははは」


ラドラ︰この時からちゃんと、ボクは知っていたんだ。

今のキミの事も、そして、これからの事も。

…………


ローツ︰そして、時は戻り、現在。


ラドラ「そんな日もあったなぁ...。

カイはボクを【何も知らないラドラ】だって思ってたかも、だけどさ。



  でも、ボクは全部知ってたんだよ。


ごめんね。【知ってる】って言えなかった弱虫で。


この通り、ボクはね、卑怯者なんだ」


ローツ「.........ラドラくん。それは、」


ラドラ「何も言わなくていいよ(遮るように)。

  全部分かるから。

心配しなくても大丈夫だよ。

もう過ぎたことだからさ」


ローツ「それでも...それでも、ラドラくんが傷ついて良い理由にはならないよ」


ラドラ「...それでも、これは、ボクが決断した事だから。

入学式の日にネルちゃんと約束したんだ。

学園都市を守る為に友達のフリをして、カイを監視するって」


ローツ「ネルさん...なんでそんなこと...」


ネル「...ごめんなさい。

私の心配性な性格のせいで..

.私がしたお願いでラドラくんを傷つけてしまった。

人の心を傷つけるだなんて、カウンセリング師、失格だわ...」


ラドラ「......大丈夫だよ。キミが謝る事じゃない。

ボクは、こうなることを【わかってて】引き受けたんだ。

誰のせいでもないよ。


だから、安心して?」


ネル「...ありがとう」


ローツ「それにしても...良かったんですか?」


ラドラ「ん?何がかな?」


ローツ「こんな大事そうな内容を私に話して...

大分内部秘密な内容そうだったけど...」


ネル「あぁ、そういうこと。

それは、ね。

ラドラくんから」


ラドラ「そうだね。

良いんだよ、ローツちゃん。

むしろ、キミには話さないといけない事だから」


ローツ「???」


ラドラ「簡単に言うと、今から、キミには、協力をしてもらわないといけないからね。

君の力がどうしても必要なんだ」


ローツ「協力...?私の力...?」


ラドラ「...今日、キミはサフィちゃんと食事会だろう」


ローツ「そうね。誘われてる。一緒に食堂でご飯食べるつもりよ。

それは関係があるのかしら?」


ラドラ「うんうん、そうだね。

関係大アリなんだ。

そして、そこで彼女はキミにお願いをする筈だ」


ローツ「お願い...?サフィちゃんが?」


ラドラ「そう、お願いだ。

しかも内容は、学園都市の危機について。


【これから起こる終焉】を止める為のお願いを、ね」


ローツ「...学園都市の危機...?......終焉...?」


ラドラ「そう!学園都市の危機で終演だ。

なぜ、彼女がそれをキミに話すか。


それは、キミの能力がここで活かされるからだ」


ローツ「私の能力が...?」


ラドラ「そう、キミ持つ能力。【時空移動】がね」


ローツ「.........

あー...」


ラドラ「あー、キミはまだその能力使ったことないんだっけ?」


ローツ「うん.........そうなんだよね。

私の能力は...一人じゃ、使えないから。

というか、使えないと、思う。

思ってる?が正しいのかな。


なんというか、誰かが...んー、ちゃんと観てくれる、見守ってくれる人が居ることによって、扉が開かれるみたいなの。

使おうとしたことはちゃんとあるの。

その時に能力が、私にそう、語りかけてくれた気がするんだ。


これは、ひとりで使う能力(モノ)ではないって。

【時空移動】は、私が移動できるんじゃなくて、【時空を移動させる対象の人を導く為の扉を作る】能力みたいなの。

だから、【扉の先に行く人】と【迷子にならないように観守る人】が居ることで成立するって、私は思ってる」


ラドラ「...ふむふむ」


ネル「だからこそ、ラドラくんが居るわ。

彼の能力は全知全能。

全てを見ることが出来、全てを観守ることができる。


だから、きっとサフィちゃんの能力と、ラドラくんの能力があれば、きっとローツちゃんの能力は使えるわ」


ローツ「ネルさん...。


アナタに頼って良いの?ラドラくん」


ラドラ「勿論、そのつもりだよ。

だから、キミに今話せる全てを話したんだ」


ローツ「そっか...そういう事だったんだね」


ラドラ「だから大丈夫。安心して?

サフィちゃんの事も、勿論、キミのことも。

ちゃんと、観てる。」


ローツ「ありがとう、ラドラくん」


.........


ネル︰そして、薔薇園にて。


ラドラ「安心して、ちゃんと観てる。

『知るという事は、罪深き事…

今、この瞬間だけは、

世界に背こう』

さあ、行っておいで、サフィちゃん」


ローツ︰こうして、終焉を阻止するという、私たちの計画の第一歩は幕を閉じた。


ラドラ「.........」


ローツ「.........」


ラドラ「...お疲れ様、ローツちゃん」


ローツ「ラドラくんこそ。お疲れ様。疲れてない?大丈夫?」


ラドラ「大丈夫だよ。ありがとう。


(間)


さて、とうとう、サフィちゃんの言う【アリス】がこの世界にやってきた。

...


もう、終焉への歯車は動いている。

それを止める為にボクたちが出来ることは、今の時点ではここまでだ」


ローツ「...そっか。

ラドラくんはさ、やっぱり全部知ってるの?」


ラドラ「...そうだね、知っている。


だからこそ、こうやって動くんだ。

それくらいしか、ボクには出来ないから。


これが分かっていたのに動けなかった、去年起きた出来事への、ボクなりの償いだから」


ローツ「...むぅ。

そんなに抱え込まなくていいのに」


ラドラ「...抱え込んでは無いよ。

ボクにとって当たり前の事をしてるだけなんだ」


ローツ「そんなことないよ...

私はラドラくんのことを皆ほど、沢山知ってる訳じゃない。

でも、アナタとパートナーになって、いっぱい沢山関わって、話を聞いて、今のラドラくんを見て来たのよ。

その上で、私はラドラくんに苦しんで欲しくないって思った。

アナタの手を掴みたいって思った。

そして、掴んだ手は離したくないって思ってる。


だから...」


ラドラ「ローツちゃん(遮るように)」


ローツ「.........」


ラドラ「この先は言わなくて良いよ。

ちゃんと『わかる』から」


ローツ「知ってる、じゃなくて、わかる、なんだ」


ラドラ「.........わかるよ、だってキミのことだから」


ローツ「.........そっか。


ふふ」


ラドラ「.........なんだい、笑って」


ローツ「ラドラくん、アタシだってちゃんと観てる、よ。

なんて、ね」(満面の笑顔)


ラドラ「.........


(間)


ありがとう」


ローツ「どういたしまして。

私の事、わかってる?」


ラドラ「.........


ボクの元パートナーは困った子だなぁ」


ローツ「ふふ、知ってる」


............


ラドラ︰ローツちゃんと別た後、学園都市の一角にて。

急にボクの脳裏に衝撃が走る。

ぐわん、と視界が揺れた。



ラドラ「っ......あれ、ボクはさっきまで何を......。


っ!また、だ。


どうして、どうして、忘れてしまうのだろう。

全て知っているのに...わかるのに。

全てなかった事にされている...


あーあ、ボクは...やっぱり弱いよ」


ラドラ︰そして、ボクは...出来事を【忘れない為に】 ノートに書き写す。

ボクの【終演】は全知全能。

能力なんて、生ぬるい言葉じゃ例えきれない。


これは、世界の全てを知ることが出来る。

ただ、その代償は大きい。


大きい、らしい。

なんで、【らしい】かって?

ボクが『全てを知っているから』だよ。


ラドラ「よし。これで、大丈夫だ。

後は頼んだよ、みんな」


ラドラ︰おはよう、そして、ようこそアリス。


ラドラ「ああ、空が青い...」


To Be Continued

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コハクの彼方【台本ver.】 あいる @airuuuamatsukaa

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