第六章 誰かの記憶、コハクの記憶

コハクの彼方


第六章 誰かの記憶、コハクの記憶


※10年前の物語と、学園都市の所は、現在軸から1年前の物語です。


カイ♂:

7歳→高2

華舞台の地方出身

何故か皇族の側近に


パーズ♂:

7歳→高2

華舞台の地方出身

何故か皇族の側近に


メジス♂:

5歳

華舞台の皇族

西訛りの発音


アネット♀:

6歳

華舞台の皇女




本編↓


カイ︰ここは、とある学園である。

ここは、皆が望む楽園である。

ここは、人々の理想郷である。


メジス(5)︰【終才】とは、【争いを終わらせる者】であり、【英雄】だと俺は思っている。


パーズ︰【英雄(えいゆう)】達は何を想ったのか。

何を願ったのか。

何を手にしたのか。


君たちにはそれが分かるかい?

俺には、わかる。


英雄達は、誰かを想ったんだ。


現に俺達は、誰かを想って動いている。


アネット(6)︰今日も始まりの鐘の音が、世界に響き…いや、この世界を震わせて欲しいと願っている。

らしい。


………


カイ「『おはよう、アリス。やっとお目覚めかい』」



カイ:己がその言葉を最初で最後に発したのはいつだっただろうか。

ゆっくりと意識が沈みゆく……


誰かが俺を呼んでる声が聞こえる。


温かい雨が顔へと降り注いだ。


嗚呼、うるさいな…少しは静かに寝かせてくれ…


……


パーズ(7):時は約十年前。

華舞台の地方部。

ここは草木が生い茂るただの田舎。

ごく平凡な辺境の地。

そんな自然豊かなこの町で、

現在七歳の俺たちは育った。




カイ(7)︰田舎なんて何も無い。

あるのは田んぼと畑だけ。

ゲームや漫画など、娯楽すらまともにない。

都会が羨まいと、何度も感じた。

田舎住みってだけで、全てを諦めていた。


もう、何もかも、こんな世界なんて壊してしまいたいくらいに退屈で退屈でたまらなかった。

こんな場所なんて、田舎なんて大嫌いだ。


そう思っていた幼少期。

昔から近所付き合いのある俺とパーズ。

親友の好(よしみ)で

俺達は国が出していた、とある募集に応募した。


パーズ(7):とある募集。

それは皇族の側近。お世話係。

募集要項は至って単純で、

年齢や性別、学び舎での成績……

そして、【終才】であること。


運が良く、俺達は【終才】だった。


カイ(7): まあ、所詮はこの田舎を脱したい為だけに、応募した俺達だ。

もし、仮にどちらかが受かっても恨みっこなし、なんて笑いあっていた日も懐かしい。

どうせ選ばれるわけなんてない。

淡い期待なんてするだけ無駄だ。


そう思っていた。


パーズ(7)「よぉ!カイ!げんきしてるぅ!

地方で育った俺たちが……

なんと!なんと!なんと!

都での、皇族の側近に選ばれたなんて!


まさかの、まさかの、まさかすぎるよな!


ン〜〜〜これはなんて運命!?

ラブ アンド ピース!


驚きだぜぇ!」


カイ(7)「あーはいはい、そうだな。

ラブ アンド ピースは関係ねぇだろ、

エデン野郎。

天国はお前の頭の中だけで十分だ。


まあ、数居る終才の中で、

地方で生きてきたオレたちが…王都に?

今でも信じられねぇよ」


パーズ(7)「そうだよな!そうだよなぁ!

夢か現実か分からねぇよなぁ!」


カイ(7)「それくらいわかるわ!目覚ませダァホ!

テメェの目はそら豆か?」


パーズ(7)「お!塩の入った水で茹でたら美味そうだな!」


カイ(7)「そうじゃねぇ…

本当に昔っから話聞かねぇな、コイツ……


それにしても、俺たちが選ばれるなんて…

こういうのは、よっぽどの何か功績を残したか、かなり優秀じゃないと側近には慣れないと思ってたわ……」


パーズ(7)「た、た、た、たしかにぃ!


選ばれたってことはさ、よっぽど優秀だったんだな、俺たち」


カイ(7)「………………そんな実感は、ないけどな。


優秀な終才なんて、この世にごまんといるだろうに。

ふは、政府も変わり者だな」


パーズ(7)「相変わらず、カイは卑屈(ひくつ)だなぁ。

もっと自分に素直になれよぉ〜〜〜!」


カイ(7)「うるせ、お前が呑気過ぎるんだよ。

毎回お前のそれに振り回されてる俺の身にもなれ」


パーズ(7)「え?なになに?

顔面国宝級のイケメンだって?

センキュ〜!わかってるぅ〜〜〜!」


カイ(7)「ハァ!?言ってねぇよ!?

どんな耳してンだお前!


お前の耳の中こじ開けてやろうか!?」


パーズ(7)「イヤン!えっち!

止めて!

そんなことされたら!

俺!俺!

身体が右から左に貫通しちゃうぅ!」


カイ(7)「はぁぁぁ(大きな溜息)

勝手に貫通してろ、パイプ野郎」


パーズ(7)「え!

将来は、タバコが似合うめちゃくちゃダンディなイケメンになる、ってこと?!

やだ、既にかっこいいのに、罪ぃな男!」


カイ(7)「王都じゃなくて、下水管のパイプにお前の就任願い出すか…

そしたらお前ともオサラバだな」


パーズ(7)「え!カイと離れるの!?

やだやだ!絶対イヤン!

ごめんじゃん!テンメンジャン!!」


カイ(7)「ははは、少し黙ってような〜?


…はぁ、何度でも言っちまうが、夢見てぇだな、ほんと。

なんで選ばれたのが俺とパーズなんだか…」


カイ(7):まあ、こんなド田舎から出れるのはある意味ラッキーちゃ、ラッキーか。


………………


〜王都の宮殿にて〜


メジス(5)「……」


カイ(7)「……」


メジス(5)「……ぁ」


アネット(6)「…………」


カイ(7)「あ、ども……」


メジス(5)「あ、はい……」


アネット(6)「こ、こんにちは……

本日は、その……

私達のために……

えっと……

お時間ありがとうございます……」


カイ(7):目の前の皇族達がぺこり、と小さくお辞儀する。

いやいや、皇族が敬語な上に!頭下げんじゃねぇよ!

俺らよりも年下のくせに、子供らしくねぇな!?


俺はツッコミたい気持ちをグッと堪える。


皇族って言うんだから、偉そ〜な奴想像してたけど、想像と違いすぎっつーか、なよなよしすぎつーか……

ちょっと可愛いかも…?


メジス(5)「あ、メジス……です」


カイ(7)「はじめまして、今日からあなたの教育係のカイ、です。

よろしくお願いしますね、皇子様」


メジス(5)「……や」


カイ(7)「ん?」


メジス(5)「嫌や、その呼び方」


カイ(7)「はい?」


メジス(5)「その喋り方も嫌や、好きちゃう」


カイ(7)「は、はぁ」


カイ(7):前言撤回、なんだコイツ。

全然可愛くねぇな!


パーズ(7)「ふっふっふっ!

あゆれでぃ!はじめまして、レディ。

今日からアナタのナイトになります。

俺は、パーズ!

え?それだけかってぇ?

男は秘密が多い方がかっこいい〜だろ〜?

よろしくぅ!


はい、ファンサのウィンク♡パチン!」


カイ(7):……は?


(間)


いやいやいやいやいや!


カイ(7)「ダアホ!なぁに、皇族相手にそんな態度とってんだ!

同級生のアイツらにするノリしてんの!?

お前!まっじで頼むから余計なことすんな!?


首跳ねられるぞ!?

首チョンパになりたいのか!?

木っ端微塵で明日には鯉どころか、豚のエサだぞ!?」


アネット(6)「……あ、ぁ」(戸惑いながらオロオロする)


パーズ(7)「あれ!?

う、う、う、嘘だろ……

俺の渾身の挨拶がウケなかった……!


ガクッ!


俺クン!ショック〜〜〜!!!!」


アネット(6)「あ、あ、えっと……その……

大丈夫、面白いと思う。

私は、その…ちょっと、笑えないけど……

あ、えと、メジスは笑ってくれると思う……

多分…多分、なのです」


パーズ(7)「……」(じっとメジスの方を見る)


メジス(5)「な、なんなん、アンタ」


パーズ(7)「あゆれでぃ!俺は、パーズ!

え?それだけかってぇ?

男は秘密が多い方がかっこいい〜だろ〜?

よろし(く……)」


カイ(7)「(すかさず入る)何してんだ!バカ!

この!バカタレが!

同じ挨拶をした後に!

皇子様の前で!

同じことすんな!


ハッ!!!

すみません、皇女様、皇子様っ!!!!

コイツには!

このバカには!

よぉく言い聞かせるんで!


命だけは!どうか!

勘弁してください!!!!!」


パーズ(7)「い゛だっ!いだいって!!!

カイ!俺の頭割れる!割れる!

鷲掴むなよぉ!!!


いだだだだ!!!

身体が!痛い!お願い!

身体無理やり押さないで!

変な方向に曲がる!!!曲がる!!!

就任一日目で俺の身体ライフはゼロよ!

折れちゃうって〜〜〜!」


カイ(7)「寧ろ折れとけ!

頼むから!二度と還ってくるな!


悪霊退散〜!悪霊退散〜!

くわばらくわばら……」


メジス(5)「……


ふは、面白いな、兄さんたち」


アネット(6)「……ほんとね、クスクス。

面白くて、楽しいお兄様たち」


カイ(7)「っ!


……」(パーズの方をゆっくりと向く)


パーズ(7)「ワォ!


お兄さん!!!!

俺たち、兄ちゃんなの!!!???


兄さんだってさ、カイ!

確かに、言われてみれば、

一、二歳俺たちの方がお兄さんだもんな!

嬉しすぎるぜ〜!


へへ、弟欲しかったんだ、俺」


カイ(7)「呑気なヤツ…笑ってくれたから良かったものを……一歩間違えれば大変だったんだぞ」


パーズ(7)「まーまーまー結果オーライ?


コイツは俺の親友のカイ。

頭のお堅いシワシワ大豆みたいなやつだけど、良い奴なんだ。

決して、怖いお兄ちゃんじゃないぞ!」


カイ(7)「怖いは余計だ、怖いは」


パーズ(7)「まあまあ、そういうこともあるって。

笑ってくれたし、いーじゃん?


さてさて!改めて!

今日から、十年間、よろしくな!」


メジス(5)「お、おん……よろしゅう、パーズ兄さん、カイ兄さん」


アネット(6)「……よろしくお願いします。

パーズ兄様、カイ兄様……


あ!お、お兄ちゃん……?

の方が良かった…ですか?」


カイ(7)「ぐっ……す、好きに呼んでくれ。

嗚呼、好きに」


メジス(5)「そんなら……兄貴?」


カイ(7)「急に砕けたな、おい」


パーズ(7)「あ」


メジス(5)「?


どしたん?」



パーズ(7)「ところで、聞くの忘れてたんだけど。

君たちの名前、教えてくんない?」



…………

〜学園都市のとある一室にて〜


パーズ「なぁんて、こともあったなぁ〜懐かしい〜」


カイ:時は現在へと戻る。

十年後の、学園都市にて。

俺とパーズは国からの命を受けてこの学園都市へと入学した。

自国から、楽しいことも嬉しいことも、沢山の思い出を持って、この学園都市に来た。

勿論、素敵な思い出…

まあ、綺麗な思い出ばかりじゃない。

綺麗じゃない方が、少ない……と言えば嘘になる。



カイ「なんてことも、か。

嗚呼、そうだな。メジスとアネット…

そしてエルド。


三人と出会ってあれから、十年…か。

時が経つのは、早いもんだ。


ついに、俺達も二年生。

そして、俺は生徒会長に就任…

パーズだって裏で沢山動いてる。


(間)


アイツらは…大丈夫だろうか」


パーズ「だな〜


だからこそ、今の状態の三人を守る為には、

国を納得させないといけない。


(間)


つまり、交渉材料、【贄】が必要なんだよ。

わかるだろ?


俺達がアイツらを

あんな地獄みたいな所から救い出すには、


それしかないんだ。」


カイ:珍しく真面目なことを言うパーズ。

真っ直ぐ窓の外を見つめるパーズの手は、よく見ると小さく震えていた。


指先に力が入っているのかも、しれない。


カイ「……わかってる。

俺たちが動くしかないんだ。


だから、この一年。

俺達は身を潜めて来ただろう。


なんのために俺たちが、この学園での交流を絶ったと思う?

学園にバレないように動いたと思う?

上へと登りつめたと思う?


全部全部、全部……


(間)


アイツらのためだ。


俺たちの国を変えるために……

あの、残酷な歴史を繰り返さないようにする為に。

アイツらを護るために。


(間)


準備は万全だ。

全て、整った。


もう、時間が無いからな、やるしかない」


パーズ「カイ……変えような、一緒に。

そして、ここに戻ってこよう。


そうだなぁ……カイの友人達の件(けん)。

そして、空の姫の件(けん)は任せてくれよな!


もう、根は回してある。

俺が何とかしとくぜ!」


カイ「嗚呼、頼んだ。」


パーズ「……」


カイ「なんだよ、そんな辛気臭い顔して」


パーズ「いいのか?アイツらあくまでもカイの学友だろ?」


カイ「安心しろ。アイツらを友だなんて、俺は一度も思ったことは無い」


パーズ「ふぅん……

そっか〜〜〜!

仲良しだって思ってたんだけどなぁ!」


カイ「形だけ、だ。


……俺の親友はお前だけだよ」


パーズ「ぅえぇ!?」


カイ「なんだよ、そんな大きな声だして」


パーズ「だ、だっ、だって!

あの!

エクストリームツンツンなカイちゃんが!

俺にデレるだなんて!


明日は学園都市に槍でも降るのかしら!」


カイ「うるせぇな!

言いたくなったんだよ……」


パーズ「…………あのさ」


カイ「なんだ?」


パーズ「死なないでね」


カイ「あったりまえだろ、アイツら連れて生きて帰ってくる」


パーズ「そうか。

俺は後(あと)から向かうから、頼んだぜ、カイ」


カイ「任せてくれよ、パーズ」


カイ:そして俺達は拳を交わした。

コツン、と拳と拳が強くぶつかる。


パーズ「ねぇ、カイ」


カイ「どうした、パーズ」


パーズ「前から思ってたんだけど、青い空ってさ。

なんか、お前に似てるな」


カイ「ふは、うるせーよ、ばぁか」



To Be Continued

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