第五章 夢追うは、成れの果て

コハクの彼方

第五章 夢追うは、成れの果て



アクア♂:

高2 異世界に連れてこられた少年 正義感が強く元気だった筈が、世界を救うという責任感に押しつぶされそうになり、進み方を迷っている


ムートン♂:

??? 夢の中で出会った、自称、ただの人でありたい創られた生き物

ルディのことをよく知っているようだ


ルディ♀:

高2 生徒会副会長 アクアの契約者

この世界のことをよく知っている




本編↓


ルディ︰ここは、とある学園である。

ここは、皆が望む楽園である。

ここは、人々の理想郷である。


アクア:願う事は悪いことでは無い。

誰かと関わって、

誰かを想って、

誰かを助けたいという強い気持ちは、

やがて、願いへと変わっていく。


ムートン:その願いは、

時に感情を大きく揺さぶるものへと変わっていく。


その感情の先は、

吉となるか

凶となるか

誰にも分からない。


ルディ:だからこそ、

吉にしたいと

人々は願うのだろう。


ムートン︰今日も始まりの鐘の音が、世界に鳴り響く。


……



ルディ「アクアは特別だから!

アクアはこの世界を救ってくれる希望だから、

だからね、そんなふうに、一丸に無能力者だって、

この世界の人達と同じだって突っぱねないで欲しい。

そんな事をするのは、私達がアイツらと同じだから…

ニスくんには、この学園の子達には、

あんなヤツらと同じになって欲しくはない」


アクア「ルディ……」


アクア:ニスと顔を合わせてから数日が経った。

あの日のルディの言葉。

あいつの顔が、言葉が、想いが…

今日あった出来事のように鮮明に覚えている。


アクア「あいつは、 一体どんなモノを抱えて生きてんのか、俺にはわからねぇ…

けど、俺は、あの時、あいつに…

もうあんな顔をさせたくねぇって思ったんだ…」


ルディ:天井へとアクアは手を伸ばした。

ゆっくりと手を握り締める。

掴んだのはそこに浮かんだ虚無だけ。


アクア「ルディ……

あいつ、ずっと世界を救いたいって言ってたな。

この世界を……救いたいって……

あいつの言う世界を救うって、意味が俺にはまだ分からねぇ…


教えて欲しいって思うのは、俺のわがままだろうか…?」


アクア「今日はもう寝て、明日ルディに聞くか」


ルディ:アクアはゆっくりと瞳を閉じた。


………


アクア︰目が覚めると…そこは一面の星空。

まるで宇宙空間にいるようだった。


アクア「前にも似たような展開があった気が……

これは、夢……?

夢……だよな……?」


ムートン「やあ、こんにちは、アクアくん。

待っていたよ」



アクア「っ!

なんで、俺の名前を……アンタ…誰だ?」



ムートン「はは、すまない。

急に君の夢に出てきてしまって。

オレはムートン。

今は深い眠りについてる、ただの人でありたい創られた生き物だ」


アクア「人で…ありたい……?創ら……れた?」


ムートン「難しいことを言ってしまったかな」


アクア「や…別に……」


ムートン「……」


アクア「……あの、すみません、めちゃくちゃわかりませんでした」(一息で)


ムートン「はは、別に分からないことが悪いことじゃない。

オレは、君が悩んでるのを感じ取ってね

だから、こうして夢に現れてきたんだ」


アクア「……お、おう。確かに悩んでっけど、なんでわざわざ……」


ムートン「それは……


オレがとある人と共に世界の始まりから、この世界を見てきたから、君に全てを伝えなければならないといけないんだ」


アクア「とある人……?」


ムートン「そう、とある人、だ」


アクア「……」


ムートン「まだ、オレを警戒しているようだね。


……


アクアくん。

キミはゲームをするときに何から見る?」


アクア「なんでまた、急だな」


ムートン「はは、良いじゃないか。オレもキミと一緒で、ゲームが好きなんだ。

わかりやすい話の方がキミも起きないだろ?」


アクア「まあ、それはそうかもしれねぇけど…

最初にかぁ、マップを見るかもなぁ…」


ムートン「なるほど。なら、世界の形から伝えた方がキミにはわかりやすいわけだ」


アクア「あぁ、まぁ、そうかも…」


ムートン「アクアくん。

ゲーム用語を使うなら、キミはこのマップについては、どのように把握しているんだい?」


アクア「マップについてか……

ここが学園都市で、能力者達が集う世界ってこと、とか……」


ムートン「ふむふむ」


アクア「俺みたいな無能力者が居ないし、

というか、なんつーか、嫌われてる?

が正しいのか?

そんな世界ってこと、しか…」


ムートン「そうか。

そういう風にキミは思って居るんだね。


君の知識は、ある程度はあってるけど、 ちょっと違う、が正しいかな」


アクア「え?違うところがあるのか…?」


ムートン「そうだね。


キミには、この世界について知る権利があると、オレは思う。」


アクア「お、おう…

この世界についてか……

一体、何が違って何があってたんだ……?」


ムートン「こほん、そうだね。

まずは、今の世界について話そう。

今、この世界は、【終才】…能力者の数は実は少ないんだ。

いや、能力者しか居なかったけど、狩られて少なくなってしまった。が正しいかな。

この学園都市は、言い方は悪いけど、言わば迫害された人……

能力者…先程俺がさりげなく言った言葉。

【終才】。

【争いを終わらせる者】と呼ばれた英雄達が築き上げた都市だ」


アクア「迫害……?

能力者が迫害されてたってことか……?

なんで……」


ムートン「それを知れば、きっと君の欲しい答え…

ルディちゃんの気持ちに辿り着くんじゃないかな?

とはオレは思うよ」


アクア「っ…!

ルディに……」


ムートン「聞きたいかい?」


アクア「嗚呼、聞かせてくれ。

いや、聞かせて欲しい。


ルディの為にも、俺の為にも」


ムートン「よくぞ言ってくれました。

では、話すとしようか。


少し、長くなるけど、寝ないで聞いてくれよ?

あ、夢の世界だから寝てるのか。

途中で起きてしまわないようにお願いするよ?

が、正解かな」


アクア「おう!よろしく頼む!」


……


ムートン「その昔、学園都市の下に大きな大陸があった。

まあ、今でもあるのだけれど」


アクア「学園都市の下に大陸が!?

そんな話聞いた事がねぇ…」


ムートン「まあ、みんな自分達の生まれた地の話はしたくない人が多いからね。

知らなくても当然だ。

つまり、ここは空中都市という事だ。

大陸についての資料は、図書館の一番奥の右の隅に少しだけあるから見てみると良い。

きっと、キミの為になる。」


アクア「空中都市……おう、サンキュ。

起きたら探してみるわ」


ムートン「そう、空中都市。

そして、何故、この空中都市が出来たか…… それを話そう」


アクア「よろしく頼む」



ムートン「この世界には【終才】と呼ばれる力を持つ者がいた。

【終才】は能力者のことを指すよ。

つまり学園都市にいる人々が【終才】と呼ばれる人々だ。

【終才】は差別用語だから、この学園都市ではくれぐれも使わないようにね?」


アクア「差別用語……今はなんて呼ばれてるんだ?」


ムートン「変わらず、【終才】だよ。意味が違うだけでね」


アクア「意味…」


ムートン「先程も言ったかもしれないけれど、【争いを終わらせる者】と言う意味だったんだ。

今では、【世界を終わらせる者】…つまりは脅威として見られているよ」


アクア「そんな意味が…いや、でも、それって、元々受け入れられてたってことだろ!?

どうして、差別だなんて……」


ムートン「どうして、か。

気に入らなかったんだろうね。

能力がある事が、妬ましかったのかもしれない。

羨ましかったのかもしれない。

だけど何より、恐ろしかったんだろうね。

臆病者だったから。

己の地位でも脅かされるんじゃないかって思ったのかもね。


だからこそ、迫害した。

現に今のこの世界、オレたちの住む世界では、能力者の社会的地位が低いんだ。


大陸に住む人々は、【終才】と知られれば、怖がられる、迫害される、地域によっては祀(まつ)られるところもあるらしいね。

そんな感じで長い歴史の中、能力者達は迫害されてきたんだ」


アクア「そんな……」


ムートン「だから、だからこそ。

その迫害に、立ち向かった人が居た。


その人は革命を起こし、その後、空に国を作った。

それが、この学園都市さ」


アクア「革命……空に国を……」


ムートン「そうだよ。

そして、長年の時を経て、学園都市は今の形となったんだ。


だからこそ、学園都市の人間は無能力者に恐怖や恨み、負の感情を抱くものも少なくは無い」


アクア「だから、ニスは……そうか…」


ムートン「そうだ。

でも、だからこそ、

その歴史を経験してるからこそ、

目の前で見てきたからこそ、差別を嫌う者もいる」


アクア「見てきた……?差別を嫌う……?


っは、まさか」


ムートン「そう、そのまさか、さ。


【終才狩り】を経験し、

迫害を受け、

それでも尚、【無終才】に立ち向かった人物。


革命を起こし、学園都市を創り上げた張本人。

その人物こそ、

君の知ってる彼女、ルディだ」


アクア「……ルディが」


ムートン「嗚呼、そうだとも。


だからこそ、

彼女は誰よりも差別を嫌い、

学園都市を護りたいと願う人物だ」


アクア「……」


ムートン「きっと彼女の口からは話してくれないと思ってね。

ルディちゃんから遠い昔に、

『もし、いつかの日。

世界を、この学園都市を救ってくれる人が居るのなら…

私のことについては、必要ならあなたの口からその人に伝えて欲しい』、と」


アクア「……ルディが」


ムートン「まさか、夢の中で伝えることになるとは思ってなかったけどね。


でも、それだけキミを、というか、この世界を救ってくれる人物を、彼女は信用しているんだと思う。


いや、信用したいんだと思うよ」


アクア「……そうか」


ムートン「嗚呼、そうさ」


アクア「なあ、ムートン。

  俺は何をすればいいんだ。


一人で考えても、全く分からないんだ。

自分に何ができるのか、何度も考えてるが、先がないんだ。

無能力者の俺に何ができるのか、

何をすればいいのか…

どうしたら世界を、アイツを……ルディを救えるのか。


何も見えねぇんだ……」


ムートン「……



そうかい」


アクア「どう進めばいいのか、

俺には分からねぇよ……」


ムートン「んー、そうだねぇ。


オレもそんなに具体的なことは言えない。

けれど、

キミはキミのまま、

真っ直ぐ前を向いて、

色んな人と真正面から向き合って欲しい」


アクア「真っ直ぐ……向き合う……?」


ムートン「嗚呼、そうだ。

時には難しいこともあるかもしれない。

でも、折れずに真っ直ぐ。

相手の目を見て。

向き合って、

何度もぶつかったって、

俺は良いと思う。


  そうすれば、きっと

彼女の…

いや、彼女たちの世界を救うことが出来ると、オレは思う」


アクア「……」


ムートン「どうかな?

抽象的になってしまったが、参考になっただろうか……?」


アクア「お、おう。

何となく、なんとなぁく、わかった気がする。


っすぅぅぅぅう!はぁぁぁ!

(深呼吸の後、思い切り頬を叩く)


うっし!

ありがとな、ムートン!

俺は折れねぇ!

負けねぇし、めげねぇよ!」


ムートン「ふふ、その調子だ。

どういたしまして。

キミが前を向いてくれて良かった」


アクア「おう、サンキュ。

俺の行く道が決まったぜ」


ムートン「それなら良かった。

……


この先、きっとオレは君の前に現れることがあるかもしれない…

もしかしたら、最悪の形で……

なんて…ね」


アクア「ふは!

その時は、さ。

どんな形のムートンでも、

ちゃんと向き合うから、

その時は、俺と現実でも友人になってくれよ」


ムートン「ははは、オレとしたことが少し弱気になってしまったよ。

……

ありがとう。

そのキミの言葉を信じよう」


アクア「おう!任せとけ!」


ムートン「嗚呼。

では、現実世界に帰れるように…

とある人の言葉を借りて。


『おはよう、アリス。やっとお目覚めかい』」



……


アクア「くぁぁ〜よく寝たぁ」


ルディ:アクアが目を覚ませば、

そこは見覚えのある学園都市の一室。

自室だった。


アクア「うっし……ありがとな、ムートン。

俺もやっと前に進めそうだ」


ルディ:今日も世界に朝日が昇る。



To Be Continued


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る