第四章 伸ばすことの出来ない彼方へ

コハクの彼方

第四章 伸ばすことの出来ない彼方へ


アクア♂︰

高2 異世界に連れてこられた少年 正義感が強く元気

この世界を救いたいと思っている


ニス♂/黒猫︰

高1 アクアの直近の後輩になる予定

だが、無能力者をあまり好んではいない様だ


ルディ♀︰

高2 生徒会副会長 アクアの契約者

終才と終才じゃない人に対しての差別を望んでいない

それはエゴかもしれないが、その想いの根幹は……


レライ♀:

高2 イメージ西訛りの発音だが、今日は珍しく標準語

後戻りはもうできない



本編↓


ニス︰ここは、とある学園である。

ここは、皆が望む楽園である。

ここは、人々の理想郷である。


アクア︰願いを叶えたい。

その心は、ゴールへと辿り着く為に、

何度も正しいか、己自身に問い、

そして、迷うものである。

もしかしたら、

行き着く先が見えることは、無い。

かもしれない。


ルディ︰それでも、私は己の夢を諦めない。

諦めたくない。

とうの昔に決めたから。


そう、これが、私の信念だ。


アクア︰そんな願いを、信念を、夢を、

俺は叶えてやりたいと思う。

誰にも辛く苦しい想いはさせたくない。


俺が、皆を

アンタを守りたい。


レライ︰今日も始まりの鐘の音が、世界に鳴り響く。


………


ルディ:天気は晴れ、晴天。

雲一つない青空が澄み渡っている。

そんな学園都市の一角。

アクアは、辺りを見渡しながら歩いていた。


アクア「たしか…ここら辺のはず……なんだが……

どこだ?

この、配布された地図見づらいな。

これ書いたの誰だよ。

子供が遊びで使う、宝探しの地図みたいじゃねぇか」


アクア:俺はとある人を探している。

探している奴の名前は、ニスと言うらしい。

俺の直近の後輩。

つまり、俺のパートナーになるらしい。


先日、このパートナーが出来るという、先輩後輩制度。

と、言うものをルディに教えてもらった。

俺は今日、後輩との初顔合わせを、する事になっている。


ただ、俺は特例で、異世界人で、その上無能力者。

だから、特別に3年生の先輩。

パーズという先輩が俺に付いた。


アクア「パーズとは上手くやってけそうなんだけど…

後輩…ニスって奴か…

  どんな奴なんだろう……


仲良くなれっと良いな」


アクア:俺は、そんな期待に胸を膨らませた。


黒猫「にゃ〜ん」


ルディ:元の世界では聞き馴染みのある、その鳴き声。

猫の鳴き声がした。

アクアはそんな声の方を探す。


黒猫「にゃぁん……にゃぁ……」


アクア「お!

猫の声……?

この世界にも猫が居るんだな。

どこからだ……?上か?


あ?木の上…こんな所に黒猫…?

この世界には生き物が多くいるとは授業で聞いたけどよ、

学園にもこんな風に猫みたいな生き物が居るのか。


しかし、それにしても、まあ、なんでこんなへんぴな所に……

もうちょい居る場所あっただろ」


黒猫「……にゃあん」


アクア「もしかして…降りれなくなったとか?」


ルディ:猫と煙は高い所が好き。

そんな言葉を昔から聞いたことがある。

そんな高い所が好きな猫。

実は、高所から降りるのはどうやら苦手らしい。


アクア「降りれないとなったら心配だな…

仕方ねぇ、助けるか」


ルディ:アクアは木の幹に手を置いた。

そして、ゆっくりとその木へと登り始める。


アクア「う、んしょ…結構高いな…

上まで登れたとしても、俺、降りれるか?

ミイラ取りがミイラになるなんて事、ないよな、ハハ」


ルディ:木は想像以上に高く、

ゆっくりと落ちないように足をかけていく。

今の自分の腕の力だけが、頼りだった。


アクア「あと、少し…ふぅ……

今、助けるからな…!」


ルディ:黒猫はすぐ目の前に。

もう少しであの黒猫を助ける事が出来る。


アクア「んしょ…、おい、黒猫、大丈夫か?

ほら、俺の方に……」


ルディ:アクアが黒猫へと手を伸ばしたその瞬間。


黒猫「にゃあ」


ルディ:黒猫がアクアの伸ばした手を避ける。

軽々と地面へと降りていった。


アクア「へ?……は?え?

ちょ、いやいやいやいやいや


普通に降りれるんかい!!!!!!!!


ってあ、は?え?お、落ちる

る〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!?????」


ルディ:ドサ、と言う鈍い音がこの空間に響く。


アクア「 〜〜〜〜ってぇ!!!!


け、ケツが……いた、いた、い……

くあぁ〜、

芝生のおかげでケツだけで済んだけど、

いてぇって!」


黒猫「にゃぁん」


ルディ:そんなアクアを冷ややかに見つめる黒猫。

アクアが無事だとわかったのか、一息ついて

黒猫は建物の曲がり角へと吸い込まれる様に

消えていく。


アクア「あ……行っちまった……?

待てよ〜!」


ルディ:アクアは急いで黒猫を追いかけようと

立ち上がった。


ドンッ


不意に角から出てきた人とぶつかる。


アクア「おわ、っ!」


ニス「っと。すみません、

俺の不注意で。

なんか、慌ててたみたいっすけど、大丈夫?」


ルディ:薄い灰色の瞳と目があった。

どこかで見た顔だが、アクアは思い出せない。


アクア「え、あ……黒猫、見なかったか…?

こう、えっと、これくらいの。

多分、手のひらくらいの、

ちっこいやつ。

いや、さすがに小さすぎるか…?」


ニス「いやいやいやぁ、そんなジェスチャーされても

わかんないって。

黒猫?


まぁ、いやぁ…見てないっすね」


アクア「あれ、おかしいな……たしかにこっちに…」


ルディ「アクアじゃん〜お疲れ様〜どしたの〜?」


アクア「お、ルディ。お疲れさん。

いや、黒猫が…」


ルディ「あ、もう一人居るじゃん。

こんにちは!


あ、アクアって今日後輩ちゃんとの

顔合わせだったよね?」


アクア「そそ、顔合わせ顔合わせ。

ここら辺で待ち合わせだったのに

まだ来ねぇんだよな……


まさかお前だったり……?」


ニス「俺っすよ」


アクア「ほぁ!?お前か!!!確かに!!!

資料に貰ってた写真の顔!!!

どこかで見た事あると思ったんだよなぁぁ!

そうだ!こいつだ!」


ルディ「ふふ、何その反応。忘れてたの?


あなたがアクアのパートナーになる後輩くんのニス君ね」


ニス「合ってるっすよ、ルディさん。

この人っしょ?

自称異世界人イタイヒト」


ルディ「自称じゃないよぉ。

ちゃぁんと別世界から

突然飛ばされちゃった系の

男子高校生くんだから」


ニス「いやいや、そんな漫画みたいな世界あるわけ…


悪いけど、俺は信じられないっすね。

漫画の見すぎ。

俺は認めてないから」


ルディ「そんな事ないよ!

まあ、信じるか信じないかはあなた次第だし、

人それぞれだから良いんだけど…


あ、アクア。

この子がアクアの直近の後輩ちゃんで

パートナーのニスくんだって。

よろしくしてあげてね?」


ニス「ウィース、ニスでぇす。

よろしく、センパイ」


アクア「おう、よろしくな、ニス。

アクアだ。

仲良くして貰えたら嬉しい。」


ニス「……あんた。


ふぅん」


アクア「っ、うぉ…、な、なんだよ!

そんな顔近づけて!

この世界の奴らは皆、

人に顔近づける趣味とかあんのか!?」


ルディ「いや、ないと思うよ」


アクア「ないよな!?

ないであってくれ!

頼むから!

心臓持たねぇよ!

んで、なんだよ、ニス、だっけか?」


ニス「いや、センパイなのにセンパイぽくない。

というか、本当に力無いんだ。

どんな先輩が来るかって期待して損した」


アクア「は、はあ、?」


ニス「んー、センパイって思えないかも。

アクア、でいい?」


アクア「え、あ。はい。い、良い、ですよ?」


ニス「なら、アクアで。よろしく、アクア。

改めて、今日から不服だけど、

アンタのパートナーのニスでぇす。

よろしくー。

なんかあったら頼ってねー。

まあ、センパイだろうから、

頼ることないと思うけど。

というか頼って欲しいとも思ってないけど」


アクア「お、おう、よろしく?

宜しくしてくれてない、よな……?


……なぁ、ルディ」


ルディ「ん?どうしたの、アクア」


アクア「なんつーか、刺々(とげとげ)しくないか、コイツ」


ルディ「んー……そう、だね。

ニスくんは元々良い子って、

私のパートナーのイアちゃんから聞いてたんだけど……


どうしたのかな?

人に対して、こんな感じなの珍しいかも…?」


アクア「俺も悪意がないなら、

まあ良いんだけどさ。

なんか、悪意感じる気がするんだよな」


ニス「いや、別に。

悪意あるとか無いのかじゃなくて、どっちかって言うと、俺がアンタのこと信用してないってだけ。

アンタを、というか、無能力者をね。

俺は、無能力者に関わって良い思いなんてしたことない。


それに、無能力者を学園に招くだなんて、俺は馬鹿げてると思うね。

こんななんも力の無いやつ…俺は何かが出来るなんて思わない。

ただの役ただずでしょ」


アクア「ぐっぅ……

痛いとこ、突いてくるなァ」


アクア:役ただず……

その言葉が今の俺の心にずしり、と重くのしかかる。

返す言葉もなかった。


ルディ「っ……ニスくん!!!!!」


アクア:ルディが声を上げる。

聞いたこともない怒りに満ちた力強い声。

俺ですら少し怯んだ。


ニス「な、なんすか」


ルディ「そういうのは、差別だよ。

  あなたは……なんのためにこの世界に

この学園が生まれたのかは知ってるよねぇ?

能力を持ってたって、持ってなくたって、私たちには関係ない。

彼が無能力者だからといって、

彼はあなたに何か嫌なことはした?

してないでしょう?

石を投げてきた?

してないでしょう?

  罵声を浴びせてきた?

してないでしょう?

差別はした?

してないでしょう?


あなたはアクアをまだなんにも知らない。

無能力者ってだけで嫌悪感(けんおかん)を抱くのは早いんじゃない?

なんにも知らないのに、差別をする理由は無いんじゃないかな」


ニス「……っす。

言いすぎました。すみません」


アクア「ルディ……」


ルディ「それに……」


ニス「?」


アクア「?」


ルディ「アクアは特別だから!

アクアはこの世界を救ってくれる希望だから、

だからね、そんなふうに、一丸に無能力者だって、

この世界の人達と同じだって突っぱねないで欲しい。

そんな事をするのは、私達がアイツらと同じだから…

ニスくんには、この学園の子達には、

あんなヤツらと同じになって欲しくはない」


アクア「ルディ……」


ニス「ルディさん……」


(間)


アクア:こうして、ニスとの初めての顔合わせは終わった。

ルディは、何を思って、何を抱えてあの言葉を紡いだのだろう。


今の未熟な俺には分からなかった。




………


ルディ:一方、その頃。


空は快晴。

雲一つない青空。

レライの目の前に広がるは真っ白な世界。

つまり、ここは病室。



レライ「遅くなっちゃった。

もう少し早く来る予定だったんだけどさ、

ごめんね、あたし断るの苦手で…

掃除当番断れなかったの。


あのね、今日はね、

メジスっていうパートナーの後輩くんにからかわれたんだ。

悪い子じゃないんだけど、ちょっとイジワルさんなんだよね。

困っちゃう。」


レライ「あなたはどうだった?

今日も変わりなし?

相変わらず?


買ってきた花、飾っとくね。

そろそろ前の花枯れそうでしょ」


ルディ:そう言うと、彼女は買ってきた花を、白い花瓶へと生けた。

花瓶に生けられたのは紅い花。


レライ「……この花、ベコニアっていうの」


レライ「……」


(間)


レライ「ごめんね、私のせいで」


レライ:ピクリ、とあなたの指の先が少しだけ、動いた気がした。



レライ「……


おやすみ███。(ボソボソと囁くように)

また、くるね」



レライ:そっとあなたの手を取る。

その手は、ほんのりと温かかった。



レライ「いつか、この手へ

『想いが届きますように』」



ルディ:澄んだ青い空に一羽の鳥が飛んでいく。

射し込む日差しは暖かく、

開いた窓から吹き込む風がベコニアを揺らした。



To Be Continued

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る