第三章 それでも花は舞う

コハクの彼方

第三章 それでも花は舞う


メジス♂︰

高1 アネットの弟 サフィファンクラブ会長 西訛りの発音 レライの直近の後輩


レライ♀︰

高2 メジスの直近先輩であり、メジスに密かに不思議な想いを寄せている(?) イメージ西訛りの発音


ローツ♀︰

高2 サフィの直近先輩であり、サフィが居ることにより能力を発動することが出来る


サフィ♀︰

高1 ローツの直近の後輩であり、ローツのことをお姉様と呼んでいる



ラドラ♂︰

高3 色んなことを知っている、『情報屋』という異名を持つ

いつもフードを被っている

元、ローツの直近の先輩



(性別は変えても大丈夫です)


本編↓


メジス︰ここは、とある学園である。

ここは、皆が望む楽園である。

ここは、人々の理想郷である。


レライ︰延ばされたその手は

いつでも儚く散ることが出来る。

散り、舞った花は

人々の心の世界を色づかせる。


メジス︰この先、終焉を

迎えることを、

世界は知っている。


でも、俺たちが、終焉を知る事は不可能に近い。


ラドラ︰でも、僕は、それを全て知っている。


メジス︰今日も始まりの鐘の音が、世界に鳴り響く。


………



レライ︰ここは学園都市

この学園都市には、

1、2年生の間に先輩後輩制度がある。


『先輩後輩制度』


それは、2年生が1年生に

能力の使い方や制御の仕方など、

能力者の卵が、己の能力を暴走させないように

教える制度。


つまり、学園都市の平和を守ることが出来るように

作られた制度だ。


先輩後輩でペアになった生徒たちは、

お互いをパートナーや、相棒と呼ぶこともある。


私は…彼の事を、どうとも呼ばないけど。


その上、敬語を使う事は自由であり、

上下の交流が深まりやすい。

生徒の中には、深い絆で結ばれる1、2年生もいる。


そう、そんな私、レライにもかわいい後輩がいる。

ただ…そう、ただの後輩だ。

深い絆…そんなものはきっと、ない。


でも、心の底からフツフツと湧き上がるような感情

それは、思ったよりも単純なものではなくて。


こんな気持ちになって良い資格なんて、

私には無いのに…


メジス「レライの歌声ってさ、綺麗やな」


レライ︰メジスのそんな一言。

その言葉に私、レライは思わず胸を高鳴らせる。


レライ「な、なんなん、急に…」



(思わず手に持っていた箒に身を寄せる)



メジス「ふは、いや、思った事言うただけやけど?

なんか、悪いことした?」


レライ「そんな…っ!心配そうに首傾げんといてよ!

いや!全然!ほら、掃除!私の事はいいから!

掃除当番なんだから、掃除してよね!」


メジス「えー、掃除当番って言うても、

レライが先生から断れんで引き受けたやつやろ?

いくら、先輩後輩のペアやからって、掃除嫌やぁ。


疲れたぁ…」


レライ「それは…巻き込んでごめんて…。

私ほら、頼まれたら断るんにがてやん?

メジス知ってるやろ……。


あの、さっきの話に戻るんやけど、

メジス、はさ、

私の歌声好きなん…?」



メジス「なーに当たり前のこと言っとるん?

好きやなかったら、綺麗とか言わんやろ。


不思議な事言うんやなぁ、レライは」


レライ︰顔が熱くなる。

この気持ちは


この胸の高鳴りは何なのだろう。


レライ「ぁぁ、……私の能力は、言霊。

言葉により、その場の空気を操ることが出来る。


あのね、メジス…


『私、今…どうしようもなく、嬉しいの。


風よ

空よ

喜びよ』」


メジス「……」


レライ「えへへ…ごめん、抑えられんかった(笑みを零す)」


メジス「……」


レライ︰風で落ち葉が舞う。

その葉たちはヒラヒラと舞うと、

ひとつの場所に降り立った。

落ち葉の山が積み上がる。


メジス「さすがは、レライ。

落ち葉が一瞬で集まっとる…


ふは、掃除、終わってもうたわ」


レライ「だって、抑えらんかったんやもん…」


メジス「レライ」


レライ「な、なに…その、えっと、あんま、

ええ声で喋らんといてよ…」


メジス「なんで?」


レライ「なんで、って…そりゃ…ぅ…」


メジス「レライはさ、俺の声、嫌い?」


レライ「ッ…!そんなわけ!」


メジス「なら、言うてよ」


レライ「な、なにをゆったらええん?」


メジス「わかるでしょ?


俺の声、好き、ってさ」


レライ「はぁ〜?

先輩の事からかいすぎちゃう〜!?

なんで、私がそんなことゆわないとあかんの…ッ!」


メジス「……言うてくれへんの?」


レライ「ッ………ずる」


メジス「知っとるやろ、レライ。


俺が強欲でずるい男やって。


俺さ、認めて欲しいんよ。

アンタにも

アネキにも

アニキたちにも……


そして、

色んな人に

世界に…。


っ……

やから、

今は、レライにも認められたい。

沢山の人に

多くの人に

愛されたい。


どうか、誰も俺を…!


嫌わないで欲しい……」


レライ「……メジス」


レライ︰メジスの深い紫色の瞳。

その瞳の光が、ゆっくりと闇に沈んでいく。

そんな瞳に、私は今にも吸い込まれそうだった。


レライ「……ちゃんと」


メジス「…おん」


レライ「ちゃんと、メジスの声、すき。


例え、世界が認めなくても

誰かがメジスを嫌おうとも


少なくとも

私がメジスのことを認めてる。

大切に思っている。


だって

私があんたの一番の先輩だから 。


そう…先輩、だから…。


あなたのお兄さんや、お姉さんよりも


誰よりもメジスのこと、わかってるつもり。


だから、そんな泣きそうな顔しないで」


メジス「………ありがとう、レライ


ふは…

そんな俺、酷い顔しとった?」



レライ「うん…この欲張りさんめ」



メジス「ごめんな、ずるい男で」



レライ「しっとる」



メジス「…おん」



レライ「今更、でしょ(小声)」


レライ:ああ、ちゃうよ、メジス

狡い(ずるい)のは私の方…


あの人も、こんな気持ちやったんかな



…………



ローツ︰これは、この学園都市が

終焉に差し掛かり出した頃のお話。



サフィ「お姉様、お願いがあるんです」


ローツ︰真剣そうな眼差し。

そんな眼差しを向けるのは、

私のパートナーである後輩、サフィちゃん。

彼女は、フォークに突き刺さっている

食べかけのにんじんを皿の上へと置いていた。


ローツ「どうしたの、サフィちゃん。

お食事中に、そんな真剣な顔して。

なにか怖いことでもあった?」


サフィ「ッ…そんなに、顔強ばってました?

すみません…折角のお姉様との楽しいお食事の日に…

でも、話すなら今日、今のお食事中しかないと思って…


私は、今日という日を待ち遠しく待っていました。

どうしても、お姉様の力をお借りしたくて…


理由はまだ話せなくて…

あの、急なことを言ってしまうのですが、

今はお姉様の力が必要なんです。


助けて頂けないでしょうか…?」


ローツ︰震える彼女の声。

食堂で食事をしながらするような話でも

なさそうだった。


ローツ「そうね…サフィちゃん

うん、困ってるかわいいパートナーの頼みだものね。


ちょっとここは人が多いから、

場所を移動しましょう?

人気(ひとけ)がない方が

話しやすいんじゃないかなって、私は思うんだけど…



着いたら聞かせてくれる?」


サフィ「ッ…ありがとう、ございます…」


ローツ「ただ…」


サフィ「…?」


ローツ「1人では不安だから…私の信頼している方を呼ぶわ。


良いかしら?」


サフィ「…ええ、わかりました。

はい、問題ありません」


ローツ︰私は知っていた。

サフィちゃんが何故、

こんなにも思い詰めているのか。

何故、私に頼み事をしに来たのか。


だって…




ラドラ「はじめまして、君が噂の『時空の女神』?


噂に聞いていたよりも、

ずっと美人さんでびっくりしたよ。


呼んでくれて、てーんきゅ。


こんにちは」


サフィ「お姉様、こちらのお方は…」


サフィ︰お姉様に紹介され、向かった先は、

学園都市の『裏庭』と呼ばれる所だった。


『裏庭』

薔薇園と呼ばれているこの庭は、

丁寧に手入れさせており、

学園都市により管理されているせいか、

生徒の出入りは少ない。

そこには、見事に紅い薔薇が咲き誇り、

煉瓦(れんが)が床に引き詰められ、丁寧に並べられている。


目の前には深く、蒼いフードを被った人物。

私がお姉様から貰ったリボンと同じ色をしていた。


そんな自分に、お姉様の隣にいた人物は、

軽く頭を下げて会釈(えしゃく)をする。


そして、こちらへと軽く手を振りながら。

優しく微笑んだ。


お姉様が口を開く。


ローツ「私が1年生だった時のパートナー、ラドラくんだよ」


サフィ「!…ああ、なるほど…そういう事でしたか。


はじめまして、

お姉様の『現』パートナーのサフィです」


ラドラ「はは、そんなに牽制しなくても大丈夫だよ、

はじめまして、僕はラドラ。


君のことは知っているよ。


よく、ローツちゃんからきいているからね。


そして、僕は…



今、君が何を欲し、

どうして欲しいかもわかっている。

(真剣な眼差しをサフィへと向けている)


この世界の、


この未来に起こる、


終焉を、君は…君たちは迎えさせたくないんだろう?」


サフィ「!

どうして、そんなことを知って…!

それは、生徒会しか知らないはず…」


ラドラ「ハハ、随分と驚いた顔だ」


サフィ「なぜ…」


ラドラ「僕の能力は全知全能。


自分が知りたい、

世界の全てを知ることが出来るんだ。

まあ、使いすぎると頭が痛くなりやすくなるけどね。


だから、君たちが何をしたいかも、知っている。


そして、君が独断でローツちゃんを頼る事も

知っていたよ」


ローツ「…ごめんなさい、サフィちゃん

私、全部知っていたの。


サフィちゃんが困っていても、

私は知らないフリをするしか無かった。

声を掛けてあげることが出来なかった 。

ただ、見守ることしか出来なかった。

手を伸ばしてあげれなかった。


今日お食事に誘ったのは…

サフィちゃんがそのタイミングなら、

私に声をかけてくれると思って…


だから、誘ったの」


サフィ「お姉様…」


ローツ「だからね、

私ね…サフィちゃんの力になりたいんだ。


だから、ここに連れてきたの。


ここなら、誰にも邪魔されない。


きっと、あなたの能力を盛大に使えると思う」


サフィ「そうだったんですね………


お姉様、お気遣いありがとう、ございます…


すみません…私…お姉様の考えに気づけなかったです

ひとりでずっと思い詰めてました。


お姉様を巻き込んでしまっていいのか、

ずっと、

ずっと悩んでました」


ローツ「……」

(ローツがサフィを優しく抱きしめる)


サフィ「っ…お姉様…」


ローツ「いいのよ、サフィちゃん。

独りでこんなにも大きなことを抱え込んでいて、

辛かったでしょう?

もう、大丈夫。

独りじゃないからね?

私が…ううん、私達がいるわ。


それに、大切なサフィちゃんの頼みだもの。

パートナーである私が断るはずがないよ。


私の能力は時空操作 。

きっと、サフィちゃんの能力との相性がいいと思う。


これなら、異世界への扉へと繋げることが出来る。


そして、あなたの使者召喚に手助け出来ると思うの」


サフィ「……そう思ってお願いしに来ました」


ローツ「ええ、知っていたわ。

任せてちょうだい。

ラドラくんも大丈夫?」


ラドラ「大丈夫だよ

サフィちゃんが、

異世界へと迷子になってしまわぬように、


ちゃんと

この目で、

この耳で、

この頭で、

帰ってくるまで『ちゃんと』観てるから」


ローツ「ありがとう…さあ、サフィちゃん、

私の手取ってくれる?


始めましょう?使者召喚を」



サフィ「はい、お姉様」


サフィ︰髪に着いたリボンを解いた。

そして、私はお姉様の手を取り、リボンを託す。

彼女の手は暖かく、

私の不安に満ちて強ばった心を

溶かして、安心させてくれる。



ローツ「いくわよ…(深呼吸して)


『開け、呼び覚ませ、


これは君の新たなる物語』」


サフィ「ッ」


サフィ︰その瞬間、時空の扉が開かれる。

その穴は見たこともないくらいに、黒く、深い。

心がザワついた。

私は、ちゃんと使者を連れて帰って来れるだろうか…


ラドラ「安心して、ちゃんと観てる。


『知るという事は、罪深き事…

今、この瞬間だけは、

世界に背こう』


さあ、行っておいで、サフィちゃん」


サフィ「ッ…ラドラさん…(深呼吸をする)


はい、行ってきます」


サフィ︰私はお姉様の手をゆっくりと解く。

そして、開かれた空間へと飛び込んだ。

薔薇の花の匂いが私の嗅覚を刺激する。


サフィ「…」


サフィ︰真っ黒で暗い空間。

右も左も

上や下だって分からない…


怖い。


手が震えそうになる。


己の拳を握りしめ、お姉様の顔を思い出す。


ふと、一筋の光が視界を照らした。


私の目に飛び込んだのは、とある一室。

そこにはぐっすりと、寝ている少年。

心地良さそうに寝息を立てていた。


勉強をしていたであろう机の上には、

ノートが散乱している。

その上に置かれた、大きなお守りには、名前なのだろうか、『アクア』と書かれていた。


この人が…私たちの…



サフィ「ふぅ………ここですね…!」


サフィ︰私は、彼を掴もうと、めいいっぱい手を伸ばした。


そして


彼の布団からはみ出た、手を掴んだ。


サフィ「ッ、はは」


サフィ︰思わず、安堵の笑みが零れ落ちる。


私は、『アクア』という人物を

この世界に引き寄せた。


世界が私たちの住む世界へと帰ってくる。


これが始まり。

そして、終焉への終わりの合図。


サフィ「『ようこそ、『アリス』。いらっしゃい』」




To Be Continued

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