怪異 白読
願いを叶える、ですか。
外法に頼るのは、あっしはおすすめしませんが。
なるほどー
そういうことであればオハナシしましょう。
いえ、なんでもございやせん。
あっしは話師
ただ語るのみの者ですから。
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白読(シロヨミ)ってぇ怪異をご存知でしょうか。
いや、怪異と呼ぶのは正しくないかもしれやせん。
北の方に伝わる、ある種の土地神信仰のようなもんで。
場所によってはシラヨミ、ビャクカ、ハクドウ...違った呼び方もあるそうです。
この白読は願いを叶える訳ではありんせん。
書き換えるんです。
まるで真っ白な紙に何かを書くように。
運命そのものを書き換えることもできると、そう言われておりやす。
こんな話がありやす。
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女は、呪っていやした。
幸せも、美醜も何もかも。
中でも一番は、己の運命を。
母は高圧的であり、父はまるで頼りなかった。
六つ下の弟は、とても可愛かったそうな。
女が十五になる前夜、母が忽然と消えた。
立つ鳥以上に後を濁さず、文のひとつも残さなかった。
風の噂で他所の男と駆け落ちしたのだと聞いた。
けれども女は腐らなかった。
頼れぬ父の代わりとなって、弟の為にと懸命に働いた。
運命は、女に苛烈に当たった。
十七になった冬、父が倒れそのまま逝った。
頼れぬとはいえ、家族のために懸命に働いていた。
それでも女は腐らなかった。
最愛の弟のために、なおのこと働いた。
まだ運命は辛辣だった。
十九になった夏の事。
十三の、最愛の弟が肺を侵され亡くなった。
弟は今際の際に、感謝と深愛を呟いた。
たった一人と残った女は、ついに腐って歩みをとめた。
ただ一人となった生家で、今か今かと死を待った。
そのまま幾日たったのか。
いつ絶えてもおかしくない風前の灯火。
そんな女の前に光が現れやした。
光は女に語りかけやす。
「望まぬ運命なかろうか。
変えたい運命なかろうか。
もしもあるなら言うてみよ。
白きも黒きも混ざりに混ぜて
新たな道となるものよ。」
死の間際に見た幻か、妄の類か。
それを確かめる術は女にはありんせん。
長きようで短き沈黙の後、ぽつりと女は呟きやした。
「.............!」
すると光は女の元へ集い、やがて虚空へ消えやした。
その二日後。
生家で亡くなった女が見つかりやした。
その顔は、穏やかでまるで眠っているようだったそうです。
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なに、願いがかなっていないと。
いいえ、確かに叶いましたよ。
女の願いは、「穏やかな死」でありやした。
この世を恨み、運命を呪う。
そんな自分の魂を書き換えたのです。
願いかなって女は安らかな顔をしておりやした。
その時の女にはもう、生きるという選択肢はなかったのでしょう。
もし仮に白読ともっと早く行き逢うていたら、違う運命もありやしたかね。
だけれど、そうはなりやせんでした。
そういう意味では、書き換えられない運命もある。
そうなるでしょうね。
この話は転じて魂の救済ー
そこから土地神信仰の方に進んだと聞きやす。
おっと、刻がきたようで。
このオハナシはここまでです。
そんな顔をしなさんな。
救いがあったのかもしれやせん。なかったのかもしれやせん。
しかしてそれを知る術はありやせん。
理の外の、怪異譚ですからー
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