怪異 かのこ

不幸やら、不運、不吉ってあるでしょ。


下駄の鼻緒が切れたら不吉やら、黒猫が眼前を横切ると不運になるやら、そういうもんです。


でもね、実際そうじゃあない。


単に、そう言われてるってぇだけなんで。


だけれど、時にヒトってのはね、そんなもんに踊らされる。


訳もなく、道理もなく。


そんなヒトの闇が理を外すことがあるんです。


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かのこ、ってぇ怪異の話がありやす。


彼ノ子と書くこともありやすが、多くは違いやす。


禍ノ子。


こう記されることがほとんどです。


その姿はどす黒く小さな子供の様だそうで。


なぜ、禍ノ子というか。


そりゃあ至極単純に災禍の中に現れるんです。


昔から時折起こるでしょう。


ヒトとヒトとの争いってもんが。


競い合い奪い合い。


それがモノであるならまだマシ、時には命を取り合うでしょう。


そんな災禍の後に、決まって禍ノ子は現れるんです。


本来はそういうもんでした。


だけれどいつからか逆転しやした。


禍ノ子が現れ、災禍を引き起こす。


そう言われるようになったんです。


これで済むなら、まだ良かった。


怪異 禍ノ子が災禍を引き起こす、そんな伝承で留まったでしょう。


実際は違いやす。


ヒトは、邪悪にも禍ノ子を作り始めたんです。


もちろん直接的にではなく言い換えて、です。


聞いたことがありやせんか?


ある年の双子は縁起が悪い。


どこかにアザがある子は忌み子だ。


そういうもんです。


実際、なんの関係もありやせん。


ただ、何かの節目にたまたま行きあった子がおっただけという話。


平たく言やあ、偶然の産物です。


だけど、勝手にヒトが愚かしく踊ったわけです。


そういった子らがどうあったか、ということに関して多くは語りますまい。


ご想像に硬くはないでしょうがねぇ。


それが疑われもせず、繰り返されてきたんです。


どうなったかって?


本当に禍ノ子が生まれちまいました。


災禍を呼ぶ怪異、不吉を象徴する怪異、禍ノ子。


どす黒く、小さな人型をしていてそれが出ると良くないことが起きる。


そんな怪異が本当に出来てしまった。


実は、かのこって怪異の話はここ100年ほどで大きく変わったんです。


最初に言ったでしょ?


彼ノ子、と。


元はそうだった。


あっしの知る彼ノ子はね、災禍の後に現れた。


そして災禍によって荒れた大地を癒すモノでした。


彼、とは大いなるモノ。司るモノ。


その遣いだから「彼ノ子」。


無論、怪異でさえありゃしません。


その彼ノ子はもう、どこにもおりやせん。


誰も伝えなくなり、失せたんです。


代わりに残ったのは、禍ノ子。


なんとも虚しいと思いやせんか?


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随分と暗い顔をしなさる。


そうです、気持ちいい話ばかりじゃない。


ヒトの思いというもんは時に善く、時に悪く

様々な因果を絡めやす。


だけれど、普通に過ごしゃどうということはありやせん。


あくまでこれは理の外側。


怪異譚でごぜえますので。

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