悪女の終焉
星灯ゆらり
玉座の間の悪女
「黙れ、悪女!」
叫び声が響き渡る玉座の間。その中心には一人の少女が静かに立っていた。豊かな金髪が微かに揺れるたび、燭台の炎を受けて黄金に輝く。その姿は、目の前の混乱をまるで舞台の一幕のように楽しんでいるかのようだった。
彼女はゆっくりとドレスの裾を持ち上げ、優雅に会釈した。
「見事ね、平民風情がここまでやるなんて」
その声は冷静さを保ちながらも底知れない狂気を孕んでいた。平民と呼ばれた少女は、王子と貴族たちの心を奪った存在。その少女に向けられる視線は、敵意とも賞賛とも取れない不思議なものだった。
「よくぞ王子と有象無象の心をとらえたわ。これぞ才能と努力の成せる業。賞賛に値する…本当にね」
アナスタシア・グレイスフィールド。その皮肉と真実が入り混じった言葉に、玉座の間の空気が凍りつく。しかし彼女の微笑は崩れない。まるで断罪の場そのものを楽しんでいるようだった。
「黙れぇっ!」
再び王子が怒りの声を上げる。手の合図とともに、重い甲冑の音が響き渡る。近衛兵たちがアナスタシアに向かって迫った。
「邪魔よ」
短く言い放つと同時に、彼女の体が疾風のごとく動いた。次の瞬間、最前列の近衛兵が呻き声をあげて床に倒れ込む。繊細な手から繰り出された掌底の一撃が、鉄をまとった巨体を昏倒させたのだ。
王子の取り巻きが剣を抜き、殺意を込めて襲いかかる。しかし、それすらもアナスタシアにとっては舞踏の一環でしかなかった。軽やかに剣をかわし、瞬時に振り抜く。鋼の閃きと共に、一人が血を流して崩れ落ちる。
「やめて!」
泣き叫ぶ声が響く。平民の少女が倒れた取り巻きを見て涙ながらに叫ぶ。
「どうしてこんなことをするの!?もう終わったのよ、あなたの時代は!」
その言葉に、アナスタシアは小さく笑った。その笑みには寂しさと狂気が同居している。彼女は剣を下ろし、少女に向き直った。
「どうして、ですって?そんなの決まっているでしょう」
唇がわずかに歪み、言葉が続く。
「欲望に忠実であること。それが私の生き方よ!この心を焦がす激情こそ、私の証――」
アナスタシアの声が玉座の間に響き渡る。その瞳には、敗北に塗れた令嬢としての彼女がなお輝く意志を秘めていた。
「令嬢としての勝負は完敗だったわ!見事よ、平民!あなたの覚悟、その力、讃えましょう!」
唇に浮かぶ微笑は、屈辱にも似た感情を楽しむような歪なものだった。しかし、その瞳には未だ燃え上がる炎が宿る。
「だが――私はそれだけの女ではない!」
彼女は剣を軽く振り、鋭い風を生み出した。その動作には無駄な力はなく、磨き抜かれた技と鍛錬の跡が如実に現れている。
「令嬢として敗れたなら、剣にすべてを賭けるのが私の流儀!立ち塞がる者は容赦なく斬り伏せる――いざ参らん!」
その言葉は呪詛のように響き渡り、玉座の間を圧倒する。剣を握るその姿は、まるで魔王が降臨したかのようだった。
悪女の終焉 星灯ゆらり @yurayura_works
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