第5話

 勇者は何度も何度も魔王の許を訪れた。戻されるたびに王や貴族たちから嫌な顔をされ、「まだ魔王を倒せないのか」と嫌味を言われながら。


 途中、勇者は気が付く。

 魔王との接触が増え、魔王の機嫌がよくなってくると魔界の魔物たちが穏やかになっているような気がした。


 何の確証もない。だが、もしかしたら魔界の状況は魔王の気持ちに連動しているのかもしれない。そんな気がしてきた勇者だった。




 そして遂に決着の時が来てしまった。


 桃鉄99年の決算直前、二人の資産は拮抗していた。この終盤にあって差は数億円程度しかない。

 そして順番が先の勇者にはキングボンビーが付いている。役に立つカードもなく、仕方なく勇者はサイコロを振る。


 六が出た。そして六マス先には魔王の列車があった。このままピッタリ同じマスに止まればキングボンビーをなすりつけられる。そして魔王側にも逆転できそうなカードが無い以上、勇者の勝ちは揺るがないだろう。


 一マス、一マス、と十字キーを操作して勇者は魔王の列車に迫る。


 チラリと横を見れば、状況を把握したであろう魔王は悲しそうな顔で俯いていた。その時、勇者はこの勝負が始まる前にした勝った場合の要求を思い出した。


『俺が勝ったら人間界から手を引いてもらう』


 あと数マス進めば、終わる。だがそれで本当にいいのだろうか?


 これだけ長い間一緒に居れば分かる。魔王は正直で真面目だ。決して約束を破るようなことはないだろう。約束通り、人間界から手を引くはずだ。


 だが、日に日に大人しくなっていく魔物たちを見てきて勇者は思う。共存という道もあるんじゃないのかと。


 自分は何のために戦ってきたのだろう? 今は亡き母の笑顔のためだ。その母は何を願っていただろう?


 平和だ。


 そうだ。魔王の討伐そのものが目的なんかじゃない。自分が、そして母が望んだのは平和だった。決して王や貴族たちが望むようなことではない。


 勇壮な武勇譚、自国から勇者を出した実績。そんなものの為に自分は戦ってきたわけじゃない。


 あと一マスで魔王の列車と重なる。そこで勇者は十字キーを魔王の列車とは違う方向へ入れた。


「あぁ!しまった! 間違えた~!」


 少々どころか勇者はかなりの大根役者であったが、幼い魔王には通用したようだ。魔王は目を輝かせ、立ち上がって両手を腰に手を当てて胸を張り高らかに言う。


「はっはっはっ! 勇者よ、油断したな! ふふっ、我の勝ちよ」


「くっ…… 俺の負けだ魔王。 要求は何だ?」


 辛そうな芝居でそう言う勇者だったが心配はしていなかった。魔王の要求は予想できた。


「おっ! そ、そうだった…… え~と…… そのぉ……」


 少し頬を赤らめ、恥ずかしそうにモジモジし始めた魔王はチラッと上目遣いに勇者を見て言う。


「ま、また、あ、遊んでください」


 予想通りの要求に勇者は「ふふっ……」と笑う。


「いいだろう。 俺は勇者だ。何度倒れようとも魔王に挑戦し続ける。覚悟しておくことだな」


 パッと花が咲いたように笑顔となった魔王は「そ、そうか! で、では……」と言った後、少し間を置き。


「と、友達になってくれ!」


「ダメだ」


「え……」


 絶望に顔を暗くした魔王に向かって勇者は言う。


「願いは一つのはずだ。 それを叶えたければもう一度俺に勝つんだな。 魔王プリティマーオよ、次の勝負は何だ?」


 それを聞いた魔王は再び顔を明るくした。「えっとな、そうだな」と慌ててテレビ台の引き出しをゴソゴソを漁りに行き、バッと手に取ったゲームソフトを勇者に向かって掲げる。


「マリオジャンボリーっ!!! ふふふっ、我はこれが得意なのだ。覚悟せよ、勇者マルコ!」


 ニッと魔王は笑った。



―― 完了 ――



―――――――――

読んでくださってありがとうございます。


他にも自主企画に出されたお題などで作成した短編があります。よろしければそちらもご覧いただけると嬉しいです。


・縁日のりんご飴【短編】【完結済み】

<https://kakuyomu.jp/works/16818093089975656299>

(恋愛もの。縁日の神社で竜神様が見守る恋の話)


・恋するサンタの贈り物【短編】【完結済み】

<https://kakuyomu.jp/works/16818093090313749419>

(恋する乙女のため、おせっかいなサンタのぬいぐるみが動き出す!)

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魔王の館ってこんなに可愛い可愛いしてていいの?【短編】【完結済み】 弥次郎衛門 @yajiroemon

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