第4話

 勇者が転送された先は人間界の王が治める城であった。たまたま舞踏会が行われている中に突如として光が発し、勇者が現れたのだった。奏でられていた音楽がピタリと止む。


 周囲がどよめく中、勇者もまた驚いた表情で立ちすくんでいた。


「勇者マルコではないか? 如何いかがしたのじゃ?」


 声を発したのは王であった。勇者は慌ててひざまずく。


「はっ、魔王城に辿り着き、魔王との戦闘中に魔法によって帰還させられたようにございます」


 勇者の答えに周囲は「おぉ!」とどよめいた。「ついに魔王城に」「ようやく魔王討伐も成るか」と貴族達の声が聞こえる。


「うむ、左様か。 ならばすぐさま再び旅立ち、魔王を討ち取って参れ」


「……かしこまりました」


 立ち上がった勇者は出入り口の扉に向かって歩き始めた。煌びやかな衣装たちが割れるようにして道を作りボロボロの姿の勇者を見送った。扉が閉じられるとすぐさま再会された音楽を背中に聞き、勇者はグッと拳を握った。





「遅かったではないか、勇者よ」


 膨れっ面の魔王を見て、勇者はクスっと笑った。宿敵だというのに何だか少しホッとする。


「魔王よ、角と羽はいいのか?」


「む、だってもうバレてるし」


「あははっ、そうか。 では再戦といこうか?」


「うん!」


 玉座からぴょんと飛び降りた魔王はタタタッと勇者に近づき、手を取ってグイッと引っ張って輝く扉をくぐった。




「リンゴジュースがいい? オレンジジュース?」


 魔王が冷蔵庫を開けながら勇者に聞く。


「な、なんだそれは?」


「飲み物だよ。 あ、この前ミカン美味しそうに食べてたよね? じゃあ、オレンジジュースにしよう!」


 座椅子に座り炬燵こたつでぬくぬくしている勇者の前に魔王はオレンジジュースを置く。自分の座椅子の前にも置いた魔王はテレビとswitchを接続し桃鉄を起動させた。


 楽しい時間が始まった。徐々に魔王は勇者に気を許しはじめ愚痴を口にするにまでになる。


「パパ―― 中魔王が帰ってこない…… 土日はずっと寝てる……」


「……中魔王まで居るのか? 土日ってなんだ?」


「お休みの日」


「なるほど、魔族にも安息日があるのか。 中魔王はそうまでして何をしてるんだ?」


「お仕事…… おかね―― 魔力を貯めてるの。おうちのためだって……」


「……ふむ、これだけの城を維持しようとすれば、それは膨大な魔力が必要だろうな」


「うん。ろーん、って言うんだって」


「ろーん? 魔王城を維持するための魔法か……?」


「たぶん……」


 雰囲気からして魔王は中魔王の娘なのだろうか?と勇者は思った。少なくとも魔王は中魔王のことを慕っているのは間違いなさそうだ。


 勇者は透き通るほど美しい窓ガラスを見る。そこには暗闇の中、幾つものそびえ立つ塔とそこから漏れる魔法的なまばゆい輝きを放つ光。

 これほどの地を維持しようとすれば、それは恐ろしいほどの魔力が必要なのだろう。


 寂しそうにコントローラに目を落とす魔王の姿を見て勇者は複雑な表情をする。その時。


 ガチャガチャ……


 ハッとした魔王はコントローラから視線を上げて慌てて立ち上がる。


「だ、大魔王だ。 か、帰ってきた! ゆ、勇者よ」


「ふっ…… 分かった。 勝負の続きはお預けだ。 早く送れ」


「お、おぅ! てれぽーてーしょーんっ!」


 光に包まれた勇者は魔王の前から姿を消した。

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