第10話:呪いを解いたのは君だから
前の話(桜田さん)→
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ライムグリーンの輝きを保つ石、比較的他に比べても安いその値札で俺を一瞬不安にさせた石。それはオプサイド。
その石言葉は「幸せの道しるべ」で、今はその効力を存分に発揮してくれていて。……石言葉って、本当なのか、とジュエリーショップで働いているくせして、隣の石倉を見下ろしながら、俺は感動している。
うっすらと微笑みながら上着のポケットを愛おしそうに撫でている石倉は、やはり俺の心を動かす何かを持っているようで。あんなに無関心だった、というよりも俺を呪っていた異性という悪魔も石倉の前では出てくるような気配すらなくて。
ちょっぴり恥ずかしいのかあたりをきょろきょろと見渡す彼女の行為もまた、俺にとっては一つの思い出になるんだ。ほんのり赤いその頬が、どうか寒さによるものだけではないことを祈る。
……だって、そうじゃないと不公平じゃないか。
そんな考えも、俺という人間が変わったのだということを感じさせる。
クリスマスであれ何であれ、俺には関係ない。他人の幸せの道しるべになれば、それで。
それは金輪際変わることのない俺自身の定義だと思っていたというのに、今では無性に昔の俺へ言ってやりたくなるんだ。
本当に、そうだったのか? って。
関係ないなら、俺が今この手のひらを伝う温もり一つをとってしても大切にしようとしている、この想いは何なんだ。
この一時すら逃さぬように、なんて感じ入っていると、あたりをきょろきょろと見合わす石倉とばっちり目が合った。
「どうした、石倉」
何かあったのかと、少し不安になったというのに、帰ってきたのは拍子抜けするようなことで。
「……私の身なり、クリスマスに不釣り合いすぎませんか?」
そう、なのか? きょろきょろと改めて周りを見渡してみれば確かにサンタのコスプレだとか、いわゆるブランド物の服を身に着けている人たちが目に留まる。
もしかして、気にでもしているのだろうか。
「……ちょ、ちょっと待ってください?」
「なんだ」
急に石倉は立ち止まり、肩を少し過ぎたあたりの黒髪に手をかけた。
「せめて髪くらい、直すのでっ」
……石倉らしいな。髪の結び方くらい、俺は気にしないのに。
ふと、左手が振りほどかれて、真冬にふさわしい冷たい風が二人の間を通り抜ける。
なんてことない冬のひとコマだというのに、その一陣の冷気すら無性に寂しくて、思わず石倉の手を握り直す。
「く、倉岡さん、髪……」
「離したくない」
別に考えて言ったわけじゃない、こぼれただけだ。
石倉の指先にかかったヘアゴムがするりとほどけ、ぱらりと彼女の髪が落ちる。
「別にいいだろ、そのままでも」
「……倉岡さん」
それでも、好きなんだから。
━━それに、
「……普段の石倉とあんま変わらないし」
だって俺はその石倉に心をつかまれたんだもの。
「……エ?」
目の前にはぽかんと口を開けてたたずむ
ふふふ、こらえきれずに漏れ出た笑い声は石倉に聞こえているのだろうか。
「うそ。俺のためにって思ってくれるところが、もうすでにかわいいから。格好とかは、あんまり気にするな」
その勢いのまま、言い訳にならないような言い訳をでっちあげて。けれども知らず知らずのうちに言い訳は本心にすり替わっていて。
「ほ、ほんとにうそですかっ? あと、かわいいって言いましたっ!?」
何を今更。
真冬の冷気も、笑いの余韻までは冷ませないようで。
一般論のデートは知らないけれど、俺の隣には石倉がいる。そして、たったそれだけで、俺の心は満たされる。バイトから連れてきた時間も遅かったというのに、初めて二人で過ごす聖夜の時間はとても濃くて、初めて感じる甘さをはらんでいた。
明日、年内最終週が始まる。そのうちバイトがかぶっているのは明後日だけ。
また明後日に。
別れ際、そう約束して振ったその手のひらにだって、まだ彼女の温かさは居座っていた。
次の話はこちら(うたさん)→
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