第9話 あこがれとは違っても
前の話(功琉偉つばささん)→
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クリスマスイブの夜の街は、やっぱり人が多い。
そして、どこもかしこもキラキラしている。
お店の灯り。サンタさんの赤色。イルミネーション。そして、小さな箱の中で輝く、『幸せの道しるべ』。箱の入っている上着のポケットに、そっと触れた。
隣には、倉岡さんがいる。
私がずっとあこがれていた、夢に見ていた光景。
だけど本当に叶うとは思っていなくて、本当に夢なんじゃないかと思ってしまう。
夢……ほんとに、夢だったり、して。
いやいやっ、倉岡さんの大切な気持ちをもらっておいて全部夢かもなんて、失礼だよ。
ふとあたりを見渡すと、サンタクロースのコスプレをした女の子や、可愛いワンピースや白くてふわふわのマフラーをつける子たちがたくさん。
……そういえば。
思い出して、自分の恰好を確認する。
「どうした、石倉」
「……私の身なり、クリスマスに不釣り合いすぎませんか?」
そのままお店を出てきちゃったから着替えをしていなくて、服装はヨレた制服。
パンプスだって私が投げちゃったせいでちょっと傷ついちゃってるし。
「……ちょ、ちょっと待ってください?」
「なんだ」
私は立ち止まり、下のほうで結んだ髪に手をかける。
せっかくのクリスマスイブなのに……っていうのもあるけど。
倉岡さんに……かわいいって、思ってほしいから。
「せめて髪くらい、直すのでっ」
そして、倉岡さんと繋いでいたほうの手を離した。
だけど、瞬時に繋ぎ直される。
「く、倉岡さん、髪……」
「離したくない」
手の力が抜けてとれたゴム。
ぱらりと、髪が落ちる。
ゆっくりと、目が合った。
その瞳には、驚く私の姿が映っている。
"離したくない”って……私でも、その意味くらいはわかる。
「別にいいだろ、そのままでも」
「……倉岡さん」
心臓がどきどきして、身体が熱くなる。
だって……!
「……普段の石倉とあんま変わらないし」
「……エ?」
私は、ぽかんと口を開ける。
すると、倉岡さんはおかしそうに笑った。
「うそ。俺のためにって思ってくれるところが、もうすでにかわいいから。格好とかは、あんまり気にするな」
よ、よかった……と、ほっとしたのもつかの間。
……ん? ……あれ、今、かわいいって。
「ほ、ほんとにうそですかっ? あと、かわいいって言いましたっ!?」
あこがれていた、キラキラしたクリスマスデートではない。
だけど、理想と違っても。
好きな人と、大切な人と一緒にいられるだけで、それはとってもキラキラしてて、どきどきしてて、何にも負けないくらい眩しいすてきなものだ。
次の話(三門兵装さん)→
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