猫と杓子~祠壊したら日本中妖怪まみれになったので、全国めぐって倒します~

葵日尾合

第1話

木に挟まっている猫と目が合う。


 俺――「望月杓子」は帰宅途中、妙にでかい猫と目が合ってしまった。ような気がするという事にしよう。

 

「ねぇ、そこのお兄さん」


 気のせいだ。話しかけられている気がするけど気のせいだ。


 無視して歩を進める。

 

「お兄さんってば」


 決して木に挟まって話しかけてくる妙にでかい猫なんていない。

 きっと見間違いだろう。あれが猫か気になって眠れない、なんて事態を防ぐために、振り返る。

 

 ばっちりいた。

 

 もう言い訳のしようがない。

 その件の猫に近づき、頭をつかんで引っ張る。


「痛い!やめろドアホ!」


「どうしろと」


「そこに祠があるだろう?それを壊してくれ」


 猫は木のそばの祠を壊せという。

 よく見ると、その猫は木に刺さっているというよりも張り付いているという感じだった。

 だけど祠かぁ、時代遅れだぞ?


「怒られない?」


「大丈夫。怒る人もいないさ」


 あ、そう。

 その祠はひび割れていて、蹴っ飛ばせば簡単に砕けそうだった。

 しかし、一応材質が石なので蹴ったら痛そうだ。そばにあった石を祠に叩き付け、砕く。と。


 リンッ!


 鈴の音があたりに鳴り響く。

 

 すると見る見るうちにあたりが赤く染まる。

 少し遠くはマーブル模様の壁があり、それに覆われていた。

 そして件の猫は。


「あーっはっはっは!」


 周囲に人魂を浮かび上がらせ、翼も何もないのに浮遊していた。

 やばそう。(小並感)


「アタシの名前は猫魈!500年の間封印されていた大妖怪の一人!ありがとうねぇ?間抜け。特別に一番に食ってあげるわぁ」


 首を刎ねようと、鋭い爪が迫る。

 十センチ。五センチ。一センチ。〇センチ――


「みぎゃばばばば!」


 首に爪が触れた瞬間、猫に電流がほとばしり、ぶっ倒れる。

 なんだろうか――

 地面から猫魈が起き上がると、ぎりぎりと歯ぎしりをする。


「貴様っ、いつの間に!」

 

 ――「契約」。

 ――妖怪――現代科学では説明のつかない生物――と結ぶもの。

 ――その特典の一つとして妖怪は主に危害を加える事が出来ないというのがあるのだが、それを杓子が知る由はない。

 ――契約を結ぶ方法は多岐にわたり、今回は祠の破壊主と結ばせるというものらしい。


 うーわ、いたそー。

 

「クッソやりやがったあの坊主!」


「何があったの一体」


「ふんッ!まぁいい今に見てろ?そろそろだろうなぁ」


 ――人喰いがくるぞ。


 リンッ!


 再び鈴の音が鳴り響く――


 正面には、巨大な百足がいた。


※※※


 竜殺し、と言われて何を思い浮かべるだろうか。

 聖剣とかだろうか。

 だが、日本において竜殺しと呼ばれるのは大百足である。

 

 百の足を這わせ、竜をも殺す毒を流し込む。

 山を七巻き反するその巨体は、あらゆる攻撃を通さない。

 逃げ切るのも不可能。正面突破も基本的には不可能。

 ただただ、獲物は食われるのみである。

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猫と杓子~祠壊したら日本中妖怪まみれになったので、全国めぐって倒します~ 葵日尾合 @20240722

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