(10)
「そんな感じ」
レモンサワーを飲み干し、おかわりを注文した。料理も大体が出揃っており、メインの鉄板焼きのステーキを口に運ぶ。甘みを含んだ肉汁が口の中に溢れ出す。
やはりここの料理は美味しい。
「なんか、アオハルですね」
ニヤッとしながら濱田さんが続ける。おかわりのレモンサワーを受け取り、「まぁね、10年以上も前の話だし」と返答した。
「なんか後日談ないんですか」
「うーん、次の日の夜くらいに連絡先知らなかったのにメールが来たくらいかな」
「え、LINEじゃなくて?」
不思議そうな顔の濱田さん。
「疑問に思うところそこ?」と山下先生が吹き出した。
「10年以上も前だとLINEってないのよ。ガラケーの時代だから、メール、電話が基本だったのよ」
「ジェネレーションギャップだ……」
中山先生が笑いながらハイボールをあおる。〆として運ばれてきた天むすを1つ口に入れて、「俺らの時代はメールきてるかとか、センター問い合わせとかやったよなぁ」と言った。
「分かるわー」という医師の年代と、「なんですか、それ」という若手看護師の世代。楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、病棟師長の挨拶もそこそこにお開きとなった。
2次会の提案もあったが、当直明けの身体は流石に限界であったため、帰路につくことにした。駅前でタクシーを拾い、目的地を指定する。10分ほどで最寄りのコンビニに着き、そこから自身の賃貸マンションまで少し歩いた。アルコールの影響で浮遊感があるのか、疲労で浮遊感があるのかよく分からない。ポケットから鍵を取り出して鍵穴に入れて回す。
「あ、おかえり」
玄関からリビングに入ったところで、ソファーに腰掛けている人物から声がかかった。
「……あれ、今日、来る……ん? あれ?」
一気に酔いが醒めたような、むしろ頭が回っていないような感覚で、フル回転させたところで答えが出る訳ではない。
その人は立ち上がって、キッチンからグラスを1つ持ってウォーターサーバーから水を汲んでくれた。
「何、彼女が来てくれてたんだから嬉しいでしょ。はい」
グラスに注がれた水を受け取り、ひと口飲んだ。
「いや、すごく嬉しいけど、かなりびっくりした」
「酔い醒めた?」
「醒めたけど、手術と当直の疲れがなんか一気に来た」
持っていた水を一気に飲み干し、「とりあえず、シャワー浴びてくる」と伝えて脱衣所に向かった。ガス給湯器の電源をつけ、お湯が出ることを確認して頭からシャワーを浴びた。
驚きもする。ものの1時間程度前に話していた内容の相手が来ているんだから。
さっきの話の後日談としては、冬川さんからメールが来たのが事実。そこから少しずつ連絡を取り合うようになり、学年も進んでいった。しかし、高校時代に関係が進むことはなく、同学年としての知り合いというだけであった。
ありふれた診療録 ある外科医の日常 @tomoshi6452
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