叡齋極光境界
巴氷花
第1話
いつも夢を見る。嫌な夢だ。
病み苦しむ時期に戻され、最後には………あれ?思い出せないや。
昔と何か変わってなんていない。今も昔も等しく自分だ。
ーーーーーーーそう、私はあの恐怖から解放されたんだ。
あの影の迷宮の攻略から何日か経ったある日のことだ。進さんから、新しく依頼が入ったとの連絡があった。
………どうせ、あの人のことだ。めんどくさい依頼を持ってきていることだろう。先の迷宮は最初に与えられる任務としてはおかしな難易度だったと思える。
……しかし、まあ、正義の味方を目指す僕に受けないという選択肢はない。自分の欲、自分の怠慢によって他人が苦しんだままっていうのは心が痛む。たくさんの人を助けたいからこそ、僕は断れない。使命だからだ。
「出勤しました。」
僕が職場に入り、自分のデスクの上にカバンを置き、刀を立てかけたところで風原と物山、九条鈴が何かで遊んでるのが見えた。
「……君たち、その、なんだ……職場でそれはどうなんだ?」
「あぁ?いいだろ、別に。まだ、始業時間前なんだから。 あ、ババ引いちまった。」
「……ちゃんと後で片付けくださいよ。だって、怒られたくないでしょう?」
「……それもそうだな。よし、やめにしよう。」
「………待てよ、風原。お前、ババ引いて状況が悪くなったからって逃げんじゃねーよ。」
そう九条が言うと、風原は残念そうな顔をしながら
「ッチ。うまくいかねぇな。わかったわかった。最後までやってやるよ。」
と言い、ゲームに戻って行った。
風原たちがやってるのは、ババ抜き?というゲームらしい。あんまり、カードゲームというものには詳しくないが、まあ有名なんだろう。いや、定番というのが正解なのかもしれないな。
「おっはようございます!」
元気が有り余る大きな声が職場に響きわたる。
「おはよう。偽神院。今日も元気だね。」
「うん。おはよう、私の王子様。って、風原君!私が来る前にはじめちゃってるじゃん!何やってるの?!」
「あの、近所迷惑だから、声のボリュームをもうちょっと抑えてください。いろんな人に怒られちゃいますから。」
「ああ、ごめん。物山君。……気を付けます。」
偽神院は顔を赤らめて言った。
この後、何試合かやったやってたらしいが、僕はその間吸血鬼に関する本を読んでいた。彼らの声が騒音として響きわたる部屋で読んでいたため、内容はあまり頭に入って来なかった。
そんな中、偽神院がこう言った。
「内宮君はやらないの?」
「やらない。」
「ええー。絶対楽しいよ。」
「すまない。言葉が足りていなかった。やらないんじゃない。できないんだ。」
「お、珍しいな。内宮にできないことがあるなんて。ルールがわかんないのか?」
風原がからかうために聞いてくる。
「……まあ、そんなところだ。あと-------」
その瞬間、始業のチャイムが響く。
「……ほらね。できないだろ?」
「はは。確かに、これならできないな。」
風原は笑ってから言った。
「全員揃っているな?今回の依頼内容について話始めてもいいか?」
九条進が来た。相変わらず学ランを着ている。来年で二十歳なのに、いまだに学ランを着ている。
「相変わらず、学ラン着てるんっすね。進さん。」
風原が話しかける。
「なんだ?文句があるのか?私がどんな服を着ようが君らには関係ないことだろう?」
「それはそうですけど………」
「それに私の服のセンスはどうやら常人には理解できないらしいからね。配慮というやつさ。」
(………私服、ダサいんだろうな。)
この場にいる進以外の誰もがそう思った。
「で、依頼っていうのの内容はなんですか?」
「やあ、内宮君。いつにも増してやる気があるように見えるね。君にはこのせんべいをあげよう。」
「ひっぱ叩きますよ。」
「……いらないのかい?」
「いえ、もらいますけど。」
内宮は九条進から受け取ったせんべいをかじりながら話を聞く。
「今回の依頼内容は簡単に言うと、調査だ。」
「……そんなのでいいのかよ?」
「焦るな、鈴。話は最後まで聞け。依頼主はプライバシー的なやつで伏せさせてもらうが、……アイっとこの場では呼ぶとしよう。アイさんはある地域で急発生した特殊なオーロラについての調査をして欲しいそうだ。」
「特殊っていうのはどういう感じなんですか?」
物山が皆が疑問に思った点を代弁して言う。
「ああ、その問題になってるオーロラは人を拒絶する結界のようになっているらしい。そこらへんに住んでいる人たちは困っていないらしいんだが、そのオーロラが広がって来たら怖いから原因の究明を急いで欲しいそうだ。」
「……オーロラ。いいですよねぇ。ロマンチックな匂いがします……」
偽神院はそううつつを抜かしていた。
「あの、進さん。拒絶ってどんな感じなんですか?やっぱり、傷つけるとかそんな感じなんでしょうか?」
内宮がオーロラの詳細について聞く。
「いや、どちらかと言うと……磁石の同じ極を近づけた時みたいな反応らしい。アイさんも事前に調べてみてはくれたらしいんだが、このくらいしかわかってないそうだ。」
「使えないな。そのアイってやつも。どうせ、どこかの技術屋だろ?ソイツ。そうなら、あんまり信用もしたくないな。」
「鈴、アイさんも忙しいのかもしれないだろ。偏見でものを語るのはやめた方がいい。」
「……わかった。次からは気をつける。」
「あの……それで、いつから捜査に行くんですか?」
「明後日だな。それまで、個人で準備と他の依頼をこなしてくれ。」
(ああ、この人。相変わらず、雑だな。)
皆がそう思った。
そうして、今回の依頼内容の説明が終わった。今回もあまり人助けに繋がりそうな依頼ではなさそうだったが、まあこなすしかないよな。正義の味方になるためにはこういった善行の積み重ねが重要だ。それがなんでもないものだと自分が自覚していても。
叡齋極光境界 巴氷花 @tomoe2726
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