「群青の雪」
神無月ナナメ
掌編「雪とリアルなクリスマス」
雪が降り始めても相手は来ない……それが常識だった時代の哀れさを嘆く流行歌。
それほど降り積もる雪に良い印象を持てないのは触れた記憶が少ない関西人のせい。
夜の湾岸を身近に感じる下町ブルースが代名詞みたいなヒットソングの雰囲気だ。
《雪についての短編メールに添付よろしくね。サイアク掌編でいいから明日まで!》
ひとりぼっちのクリスマスイヴ……引きこもりの日々でほとんど鳴らないスマホ。
半身みたいな双子の姉ミーちゃんは昨日から岐阜県に前乗りして見習いバイト中だ。
うつらうつらしたイブの午後お布団で確認していると……半眼が一瞬で覚醒する。
「ふざけんなっ!」雄たけびと同時にスマホを握った左手を振りかざし叩きつけた。
ベッドを転がりフローリングに落ちたスマホが悪い訳じゃなくマジな八つ当たり。
いたずらメッセージじゃないし原稿料として後日金銭が振りこまれる立派なお仕事。
締め切りまで一日半……雪に触れた経験は欠片もなく書きたい要素が浮かばない。
否……ちょっと待て。数日後に年が明ければ成人を迎えて春は通信高校を卒業だ。
勉強嫌いじゃないから成績も悪くないし勧められた大学を受験しようと決めてある。
「働かざるもの食うべからず」二人で暮らす生活費のため最低限度は働くしかない。
中学生のころ大手の無料サイトに掲載したファンタジー小説が不思議とバズった。
忘れたい黒歴史……葬りたい中二病を書き綴った駄文が書籍化されるなんて悪い夢。
出版社が驚くほど売れたことで重版からシリーズになる人気で続刊されても困る。
書けなくて締め切りを伸ばす引き換えに振られた仕事が雪テーマで一日半の短編だ。
なんとなく床で振動するスマホに目をやればメール着信らしいランプが目立った。
「寝坊助さんにクリプレ!」ミニスカ赤白サンタが群青の雪だるまを胸に抱く写メ。
ダブルピースの際立つてへぺろ舌だしミーちゃんは以心伝心だったかもしれない。
寒い明け方に降り積もった雪を小さな手でかき集める姿が容易にイメージできた。
そのままスマホでフリック入力……事実を小説化しながら微妙すぎるオチに慄く。
もちろん起承転結または序破急が基本だけど……落ちない小説も悪くはないよねっ。
「群青の雪」 神無月ナナメ @ucchii107
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