第2話 チャンピオンシップ

招待メールを受け取ってから一ヶ月後、友樹は東京アリーナにやってきた。

 六万人を収容できる東京アリーナは、観客で溢れかえっていた。


 『ワールド・Eゲーム・チャンピオンシップ』の会場には、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、ドイツ、スペインなど、世界各国から選抜されたEゲーマーたちが集まっていた。


 選手専用入口で友樹が周りを見渡していたところ、彼に若い女性が声をかけてきた。

「あなたが天野友樹くんね。私は日本チーム担当の皆月亜里沙です。よろしくね」

 皆月亜里沙(みなづきありさ)は二十四歳のファルコの社員だ。

「あ、よろしくお願いします」

 深くおじぎする友樹。

「控室に案内するわ、ついてきて」

「は、はい」


 友樹は皆月に案内されて日本チームの控室へ行く。

 皆月が控室のドアを開けると、そこには三人の少年少女が待機していた。


「紹介するわね。右から福田貴史くん、橋本優くん、小川美咲さんよ」

 皆月が友樹に紹介する。

 三人は顔をあげて友樹を見る。


「日本チームに参加する天野友樹くんよ」と皆月が三人に紹介する。

「よろしくお願いします」と友樹が深くおじきする。


「弱そ!」

 福田がガムを噛みながら友樹を一瞥して言う。

 福田(ふくだ)貴史(たかし)。十五歳。中学三年生。


「失礼な事言うんじゃないわよ。これから一緒に戦うんだから」と小川が福田に注意する。

 小川(おがわ)美咲(みさき)。十五歳。中学三年生。


 橋本はスマホを見ながら「足手まといにならないようにお願いしますねー」と薄ら笑いする。

 橋本(はしもと)優(まさる)。十四歳。中学二年生。


「さあ、みんなユニフォームに着替えて準備してね」

 皆月が白地に赤のラインが入ったユニフォームを友樹に渡す。


 ワールド・Eゲーム・チャンピオンシップは、世界各国から選ばれた四人一組のチームがアンダーセイバーを使った対戦で競い合う。

 各国のチームはそれぞれの腕を競い、トーナメントを勝ち抜いて優勝を狙う。


 アリーナ中央の広々としたステージには、「アンダーセイバー」の筐体がずらりと並んでおり、巨大なディスプレイが複数設置されていて、プレイヤーの戦いがリアルタイムで映し出されるようになっている。


 会場に集まった観客たちは、スマートフォンのアプリを通じて実況を聞きながら、対戦の様子を観戦することができる。


 イベントを開催しているファルコ・グループ代表のアラン・ベイカーがスポットライトを浴びながらステージに上がると、観客は立ち上がって拍手を贈った。


 アラン・ベイカー。四十五歳。巨大企業グループを率いるカリスマ経営者。革新的な技術で自動車、飛行機、軍事産業、娯楽産業などを引っ張っていく彼は「現代の魔術師」と呼ばれていた。


「皆さん、こんにちは。『ワールド・Eゲーム・チャンピオンシップ』へようこそ!本日は、この素晴らしいイベントにお集まりいただき、誠にありがとうございます」

 彼は観客を見渡しながら続けた。


「私たちのビジョンは、ただの未来予測ではありません。それは、未来を創り出すことです。ファルコ・グループは、その先駆けとして、皆さんに常に驚きと喜びを提供してきました。新しい世界を共に作り上げるために、革新と挑戦を続けているのです」

 アランの後ろにある巨大ディスプレイに「アンダーセイバー」の映像が映し出される。


「そして、今回は娯楽産業に挑戦して『アンダーセイバー』というゲームを開発しました。これが世界中で大ヒットして、このようなイベントが出来たことを嬉しく思います。今日はトーナメントの決勝戦まで楽しんでいってください」

 アリーナの観客は興奮し、割れんばかりの拍手が沸き起こった。


「すごい……本当に、こんな大舞台に立つことになるなんて……」

 友樹はステージを見つめながら、自分が今までに経験したことのない規模の大会に圧倒されそうになった。

 いつも学校の屋上で一人、ゲームをしていた自分が、ここにいることが信じられなかった。


 友樹たちは控室で、対戦が始まる準備を整えていた。

「最初の対戦相手はドイツチームだ。絶対に勝つぞ!」

 福田は拳を強く握りしめ、気合がみなぎっていた。


 橋本は冷静にスマートフォンを操作し、ドイツチームを調べていた。

「ハンス・ミュラー……あいつはやばいな。反射神経が桁違いらしい。注意しておいたほうがいい」


「力を合わせて頑張ろうね」

 小川は友樹に優しく声をかけた。


「はい……頑張ります」

 彼女の微笑みに、友樹は少しだけ緊張が和らいだような気がした。


「じゃあ、役割を決めようか」

 皆月が提案し、チーム内で話し合いが始まった。


「俺がリーダーやるよ」

 福田が自信満々に手を挙げた。

「じゃあ、ウィングマンで」と橋本。

「私はカバーでいいわ」と小川。


 残るポジションはエースだった。


「僕が……エースなんですか?」

 友樹は戸惑いの声を上げた。


「こいつにエース任せて大丈夫かな……?」

 福田が心配そうに眉をひそめた。


「大丈夫よ、天野くんはこの中で一番ハイスコアを出しているんだから」

 皆月がすぐにフォローした。


「えっ、マジか!」

 福田が驚きの声を上げた。


「すごいね、天野くん。小学生でハイスコアなんて」

 小川が驚きの表情を浮かべた。


「まぐれってこともあるけどね」

 橋本が軽く皮肉っぽく言うと、友樹は恥ずかしそうに頭を掻いた。


「さあ、みんな行くわよ」

 皆月が、日本チームのメンバーをステージへと導いた。


 入場口からステージの上に立つと、友樹は再び心臓がドキドキと高鳴るのを感じた。

 巨大なディスプレイに四人が映し出され、観客は拍手を贈った。


 福田たちは堂々と観衆に向かって手を振っていたが、友樹は恥ずかしそうに手を振っていた。

 友樹にとっては、この場に立っていること、それ自体がすでに夢のようだった。


 日本チームはゲーム筐体に向かって歩き出した。

「おい、天野!」

 福田が振り返り、友樹に話しかける。

「緊張しすぎるなよ、いつものようにプレイすればいいんだ」

「はい、頑張ります!」

 友樹は覚悟して、戦いに集中することにした。

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メトロボーイ 亜同瞬 @naozy2001

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