僕の友達が描く斬新な未来
あしわらん@創元ミステリ短編賞応募作執筆
僕の友達が描く斬新な未来
オレは学校の昼休み、A4サイズの弁当箱を広げて深月と飯を食っていた。深月はコンビニで買ったパン二個。よくそれで足りるなあと思いながら、コスパの良さに感心する。
「深月はさ、いつか宇宙に行きたいんだろ?」
聞いて、オレは唐揚げをまるごと一個、口に放り込む。
深月がパンの包装を開けながら、うんと頷く。
「深月が宇宙飛行士になったらさ、いつか人間は宇宙に住めるようになりそうだよな」
にっと笑ったら、深月が無言で菓子パンにパクっといって、黒い瞳でオレをじっと見た。
「人間が他の星に住むのは無理だろ」
「うぇえええええええっ!?」
オレは弁当を持ったまま反り返った。まったく逆の答えを期待していたから。
「宇宙飛行士はみんな、人間が宇宙に住めるようにすることを目指しているんじゃないのか?」
深月は首をひねり、黒髪がさらりと揺れた。また菓子パンを食う。クリームパンだ。深月は答えを考えているのか、無口のままクリームパンだけがコンスタントに欠けていく。そのうちに深月が口を開いた。
「例えば火星に住むとして、酸素がなきゃ俺たちは息もできない。水がなきゃ生きていけない。シェルターの中だけとか、限られた空間だけならどうにかできても、このまま地球が駄目になって、じゃあ火星に移り住もうってなったとき、連れて行ってもらえるのは金持ちと選ばれた人間だけだろ? その中にお前やあいつらが含まれているならともかく、一部の金持ちや政治家のためになんて誰が研究するかよ」
悪口の中にしれっと友人への愛を交える深月。人嫌いのくせに、幼馴染のオレたちのことだけはめちゃめちゃ大事にしてくれるから、思わず顔がほころぶ。
「じゃあ、深月は何の研究がしたいんだ?」
「住み分け」
ぽつりと言ってクリームパンをかじる。一番うまい部分だ。それはともかく。
「住み分け?」
「AIと人間の住み分け」
「どういうことだ? もっと詳しく」
「誰かが言ってた。『AIはどんどん賢くなって、いずれは人間のすることをAIが笑って見ている。そんな時代が来てもおかしくない』って。でも、そんな未来、誰も望まない。それは起きちゃいけないことなんだ。研究は人のために行うものだと、オレは思う」
「そういえば、AI時代になくなる職業がたくさんあるって聞くよな。税理士とか弁護士とか。教師もそのうち要らなくなるんじゃないかって先生が言ってた。今は生成AIもすごいよな。絵も小説もかけちゃうんだから」
「研究者だってそのうち要らなくなる。俺としてはそれが一番困る」
「だよな」
深月の頭は上等だけど、それでもAIには敵わない。
「で、それがどう『住み分け』とつながるんだ?」
「同じ場所に住もうとするから喧嘩になる」
「まあ、それは確かに」
オレは自分ちで飼っている熱帯魚を思い出した。熱帯魚には相性ってものがある。魚の種類によって、水面近くで泳ぐもの、真ん中らへんで泳ぐもの、底の方で暮らすものがいて、自分の縄張りに他の種類の魚が入ってくると喧嘩になったりするのだ。
「そのうち生成AIに感情が搭載されたら、それは人間と大して変わらない。自分より優れてるからって壊そうとすれば、それは殺戮と変わらない。なら、喧嘩にならないように住み分ければいい」
「っていうと?」
「オレは、他の星にはAIが住めばいいと思ってる。人間が住めなくても、AIなら住めるだろ?」
確かに。
「そんで、二つの星は協定を結ぶんだ。互いが平和に暮らせるように、互いに必要なものを補いながら共存する」
その方が、人間が宇宙に住むのよりずっと、未来があるだろ?
深月はそう言って、少し笑った。
僕の友達が描く斬新な未来 あしわらん@創元ミステリ短編賞応募作執筆 @ashiwaran
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