第3話

「やっぱ実用性だよな」

そう呟きながら世間からは奇異の目で佑介は見られていた。

それもそうだろう。

リュックサックからは鞄の口が閉まらなくなるくらいコアを入れ、更に両手にはスーパーのビニール袋いっぱいのコアを運んでいるのである。

これが田舎ならまだよかったが、これが新宿駅から西新宿2丁目までとなるとそうはいかない。

ただ彼は細かいことは気にしない男であった。

先ほどダンジョンに潜って昨日と同じ階層でひたすらヴァイツを狩り続けた結果がこれだ。

今現在彼は昼食の事で頭いっぱいである。

換金所でコアをはかりに乗せるとAIからこう告げられた。

「30コアお持ちの方には好きなステータスを1上げることができますがいかがいたしましょうか?」

と、彼は問われたので魔術の威力が上がる知力を上げるように彼は頼んだ。


HP 50

SP 7/50

筋力 5

知力 5→6

魅力 5

器用さ 5 + 10

素早さ 5

祈祷力 5

運 5


HPとSPが上昇しているのはダンジョンを走り回って体力をつけ、魔術を駆使して戦闘をしていたからだろう。

ちなみに器用さが10上がっているのは今日現れたバフモンスターが狐だったからである。

おかげさまで午前の彼はバットが空振りすることが一度もなかった。

彼は先ほどまで昼食の事ばかり考えていたが頭を切り替えてステータスの事を考えることにした。

一度でもゲームをやったことがあるのならこの手のステータスと言うのがどれほど重要なのかわかるだろう。

だとするなら昼食は質素なものにしようと言うのがゲーマーの発想だ。

手元にはまだ14個ほどのコアが残っている。

換金施設は保管庫の役目も備わっている。

だから佑介はコアを11個保管することにした。

そんな時だった、彼が話しかけられたのは。

「あの、すみません、ハンターさんですよね?」

と、若い女性に声をかけられる。

ちなみにハンターと言うのはダンジョンに潜るものの総称だ。

佑介はそもそも換金所にいるんだからハンター以外の何物でもないだろうと思ったがとりあえず「えぇ、そうですが・・・」と言うと、若い女性はおずおずと「あの、一緒に戦ってくれませんか?」と話しかけてきた。

もしこれがプロレスラーのようなマッチョな女性だったら佑介は快諾しただろうが、生憎とダンジョンに行くような装備をしてない女性を見て一緒に行けばこっちに危険が及ぶと思った彼は「すみません、今日はもう終わりなんです。さよなら」と噓をついた。

佑介は十中八九、姫プだと思った。

ダンジョンにおける姫プとは大した成果もあげないくせに報酬を割り勘にするような悪女の事を指す。

最近そういうのが横行しているとネットメディアで話題になっているのを彼は知っていた。

悪女もさらりと躱したところで彼は優雅に1500円を握りしめて豪遊することを決意していた。

サラダバーのあるファミレスである。

昨日は魚の青物だったが今回は野菜の青物を摂ろうという魂胆だ。

そうして青物をしこたま胃に詰め込んで彼はファミレスを後にした。

そうしてまたコア集めに専念し始めて2時間が経過したときの事だった。

突如、「ぎゃああああああ、助けて!」と声が聞こえてくる。

何事かと思って駆けつけてみると先ほどの姫プがヴァイツの見た目に腰を抜かしてバールを持ったまま起き上がれないでいた。

ここで死なれては目覚めが悪いのだがいかんせん先ほどの叫び声でヴァイツたちがこちらに集結しつつある。

倒している時間もないのでこちらに近寄ってくるヴァイツを電撃で迎撃しながら女の手を握って無理やり立たせて必死でその場から走り去った。

「あ、あの、たすかりまっ!?」

彼女の口を遮ったのは佑介のビンタである。

「悪いねお嬢さん、自殺だったら俺、間違ったことしちゃったわ」

「う・・・」

ブチギレた佑介は手が付けられなかった。

泣きそうになる女を見ても更に怒りをあらわにした。

彼女の胸ぐらをつかんでドスの利いた声色で言った。

「泣くな、そしてあそこにいたワケを話せ、なるべく簡潔にな」

「ひっ!?い、言います、いいますから・・・」

「よし、話せ」

そういって彼女の胸ぐらをつかんでいる手を離した。

おずおずと彼女が答える。

「じ、実はお金が必要で・・・」

「何で?」

「お父さんが沢山借金しちゃって」

「ギャンブルか?」

「・・・はい」

それを聞いて彼は再び激怒した。

「ほっとけよそんなクソ親父!」

「ひっ!?」

「この程度でビビってたら稼ぎにならねえだろうが、失せろ、二度とここに来るんじゃねぇ!」

そうして入り口で怒鳴っていたものだから彼らは目立っていた。

だからおせっかいな人間には必然的に引き寄せられる。

「そこのカップル、喧嘩はやめなさい」

と言ってきたのは警察官だった。

佑介は「カップルじゃありません!」と激怒した。

そして彼は簡潔に警察官に事情を話した。

「なるほど、それは君の言う通りだ。お嬢さん、残念だけど君はもうここに来るべきじゃないよ。見ただろう、中はおっかないモンスターであふれかえってる。命あってのお金だよ、お嬢さんのお父さんの事は私が何とかしよう」

「ほ、本当ですか?」

「あぁ、本当だ。ところで、君、名前は?」

と言って警察官が佑介に尋ねる。

「佐藤ですけど?」

「佐藤君ね、書類を作成しないといけないから、一度、署までご同行願いたいんだけど?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・回らない寿司奢ってくれるんだったら行きますよ?」

「はっはっは、手厳しいね君は」

そして回らない寿司の代わりに警察署でかつ丼が出てきた。

佑介は淡々と状況を述べて警察署を後にした。

彼は今後、叫び声を聞いても助けに行かないことを固く心に誓った。

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オンザー 芸州天邪鬼久時 @koma2masao

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