第2話
新宿駅のダンジョンは地下2階から始まっている。
そのダンジョンはいつもの地下1階に突如出現した階段の大鳥居をくぐることで進むことができる。
佑介はとりあえず鳥居に一礼してから階段を下りた。
そして階段を下りた先に広がっていたのは巨大な地下洞窟だ。
佑介は無造作に歩き回った。
ネットの書き込みでは地下2階は人畜無害な妖怪しか出現しないと書かれていたからだ。
佑介が地下3階の入り口を探し回っていると一匹のうさぎが彼のもとにやってきた。
「んゆー、人間さん、人間さん、私、おなかすきましたんゆ。何か食べ物を分けてほしいですんゆ」
喋るうさぎに佑介はとても驚いた。
彼は驚きながらも背負っていたリュックからリンゴをひとつ取り出してうさぎに分け与えた。
「んゆー!ありがとうございますんゆ。そんな人間さんには幸運のおまじないをしてあげますんゆ」
そうしてうさぎは佑介の周りで踊りだした。
佑介の運が一時的に10上がった!
HP 30
SP 30
筋力 5
知力 5
魅力 5
器用さ 5
素早さ 5
祈祷力 5
運 5 + 10
「それでは失礼しますんゆ」
そう言ってうさぎはリンゴを抱えて去っていった。
今去って言ったのはネットで噂になっていたバフモンスターという種類のものでうさぎのほかにもたぬきやきつねやいぬといった様々な動物が物をねだってきたとき食べ物を分け与えると自身の能力の一部をその日だけ強化してくれるのだと言う。
逆にこの種のモンスターを攻撃すると何か悪い呪いをかけられるらしい。
ネットの情報では3日間風邪で寝込んだという情報があるがそれは定かではない。
佑介は気を取り直して地下3階の入り口にたどり着いた。
地下3階は、血のにおいが充満していた。
ここから先は危険なモンスターが出没すると言われている。
全てが地球外生命体のような見た目をしていて凶暴。
鋭い巨大な爪を持った敵の名前はネット上ではヴァイツと言われていた。
その一匹のヴァイツが奇声を上げながら佑介に突撃してくる。
鋭い死神の鎌のような爪が彼を襲う。
佑介は必死になって金属バットをその鎌に叩きつけた。
ガシャンと音ともに砕ける死神の鎌、ヴァイツの苦痛の雄たけび。
佑介は理解する。
こいつは殺していい生き物である、と。
理解したのも刹那、ヴァイツの反対側の爪が大振りで佑介を攻撃する。
あわてて距離をとる佑介。
ヴァイツは機械的な攻撃性しか持ち合わせておらず、残った鎌をブンブンと振るいながら佑介に近づいてくる。
その鎌をまた金属バットで叩き割った。
がしゃんとガラスが割れるような音とともに悲鳴が木霊する。
激痛で地面でのたうち回るヴァイツに佑介はとどめの一撃を加えた。
ヴァイツの脳がはじけ飛び、赤色の血がびゅうびゅうと散乱する。
返り血がべったりと佑介の作業着に張り付いた。
しかしその直後、ヴァイツは節々からサラサラと砂のように崩れ落ちて、風に舞って全てが消えていった。
作業着にべったりと付着していたはずの血も今は見る影もない。
ヴァイツがいたはずの場所には緑色の何かが落ちていた。
それはコアと呼ばれるもので、これが何らかに作用してヴァイツが生まれてきたとされている。
これを株式会社ダンジョニアンの総合研究所に持っていけば1個500円で買い取ってくれる。
佑介はコアをリュックサックにいれて歩き出した。
普通地下3階は大人数で出入りすることが推奨されているが、生憎と佑介に東京での人脈はない。
ヴァイツは1対1の戦いが推奨されている。
残念ながら佑介は地下3階の入り口付近から動けなくなっていた。
彼はニートではあるが馬鹿ではない。
流石に複数のヴァイツに囲まれれば命がいくつあっても足りないことは分かっている。
だから彼はコソコソと柱に隠れながら前方を確認し、ヴァイツを見つけると落ちている石を投げつけて釣り、入り口付近まで逃げて戦うと言うヒットアンドアウェイ戦法を繰り返すこととなった。
朝の9時から13時まで戦い続けて得られたコアは13個。
そろそろ小さなリュックサックに納まりきらなくなったので彼は換金するために統合研究所に向かうこととなった。
換金所に人はいない。
全てAIがアイテムを読み込んで換金するようになっている。
佑介はリュックの中のコアを全て換金台に置いた。
「コアを10個使用することで魔術を覚えることができますが、それでも全て換金なさいますか?」
AIがそう言って佑介に語り掛けてくる。
どうやら魔術は実在したらしい。
佑介は雷の魔術を選んだ。
「では両手を手形に乗せてください」
言われるがまま彼は恐る恐る台の上にある手形に両手を置いた。
直後、ビリッと体に電流が走る。
「お疲れさまでした。無事にパスが通りました。トレーニングルームで魔術を使用してみますか?」
と聞かれたので「はい」を押す。
すると画面上に地図が現れたのでそこに向かうことにした。
そこでは棒状のターゲットが複数並んでおり、人々がターゲットに向かって魔術を使用していた。
火の玉や氷の刃や電撃がターゲットを襲うがターゲットはびくともしなかった。
佑介は空いたターゲットの前に立つと電流をイメージする。
するとビリビリと右手に電流が流れるのを感じた。
彼は左右の人たちが右手を指先までピンと伸ばし、左手は右手のひじの内側をがっちりと持って固定して攻撃を行っていた。
佑介も同じように構えて電撃を発射するイメージを持ってターゲットに発射した。
電撃はビビッと音を立てながらターゲットに命中する。
佑介は感動しながら続けて何発もターゲットに電撃を打ち込んだ。
その後、急に息切れを起こし空腹感に苛まれる。
これ以上電撃を撃つのは困難だと思った彼は換金した1500円を握りしめて回転寿司に向かった。
半信半疑ではあるが青物は魔力を回復する効果があるとネットで話題になっていたからだ。
1500円で青物を腹いっぱい食べた彼は再びダンジョンに向かった。
近くのヴァイツに向かって電撃を放つ。
ヴァイツはビリビリと痺れて動けなくなっていた。
そこに容赦なく佑介は金属バットを叩きこんだ。
顔面を潰されてあっけなくヴァイツは消えていった。
それから佑介は3階にこもってヴァイツを狩り続けた。
うっかり2匹を釣ってしまった時も電撃で足止めすれば安全に狩ることができたのである。
こうして夜の20時を回り始めたころにはコアの数は17個になっていていよいよ鞄に入らなくなっていた。
佑介は換金所に立ち寄ってから現金に変えて自宅のある板橋区に都営新宿線と都営三田線を乗り継いで帰っていった。
そして近くのスーパーで値引きされた青物を買って魔力の回復に充てることになった。
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