ギャグ漫画の連載はマジで大変らしい
白川津 中々
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歴史に残るギャグ漫画を描かなくては……!
中堅漫画家、カノウヨシフミ(ペンネーム)は悩んでいた。先日、週刊ゴンツから連載オファーがあり話を聞いてみたところ、先方はギャグ漫画の掲載を頼みたいとの事。同誌にて連載していた毒卍飯匙倩太郎がそこそこの人気で終わり、新たな食い扶持を探していたカノウはその依頼を快諾したのだが、別れ際にこんな事を言われたのであった。
「毒卍の続編でもよかったんだけどね。やるならぱっと新しいのがいいね。今はね。ギャグ漫画ででかいタイトルあんまりないからね。時代を代表するような作品を、一つ頼むね」
担当からしたら何気ない言葉だったかもしれないがカノウは真面目というか変なところで考えすぎてしまう節があった。彼はこの時、「任せてください」と笑っていたのだが、内心では"これは最低でも看板にならなければゴンツでは二度と連載できないということだな"と曲解してしまったのだった。
ギャグ漫画……のら◯ろから始まり、サ◯エさんなどを経て多様な枝分かれをしてきたわけだが、最近で一番流行ったのはスパイのやつか……アニメの方はポストクレ◯ンしん◯ゃんみたいな売り出し方をしたがっているように見受けられるが、いきなりそこを狙うのは難しい。アウトサイダーな作品が国民的人気を誇る事はあるがその逆はない。"ターゲットが多様だから"といって毒にも薬にもならない漫画など絶対に描いてなるものか。なにかこう、笑いの中にもメッセージ性や心に響くものがほしい。風刺にでも手を出すか……いいや駄目だ。今の時代にそんなものを描いたら「作者の思想をキャラに代弁させていて気持ち悪い」などと批判されてしまう。それに学も教養もない俺が描いてもただのルサンチマンになるだけ。できあがっても"俺芯食ったネタやったなぁ"と自己満足する未来しか見えない。絶対に売れない。そうだ、今売れている漫画を調べてみよう。えー、最新売り上げランキング……マジかよ上位の作品が軒並み連載終了している……くそ、ギャグ漫画は手頃に読めるからこそ過去作が強いんだ。いつ、何度読んでも安心できる作品が常にトップにいる。どうすんだこれ。シリアスものなら設定ハマればワンチャンいけるけどギャグになると群を抜いた安定感が必要になってくるぞ。これは……無理だ……! しかし男が一度飲んだ約束を反故にする事などできるわけがない……どうする……どうする……! そうだ、あの手でいこう!
二週間後。
「あ、もしもしカノウ先生。本日内容詳細と一話のネーム読ませていただく予定だったんですけどもね。どうかな」
「はい……たった今送りました。ご確認ください」
「あ、そうなんだね。すみませんね。ありがとうございます。あ、あったあった。どれどれ……」
タイトル。
ワンダーランドは既に死んだ。
内容。
独裁者によって表現が統制された世界。ソパイラ。そこに住む市民は笑う事を禁じられ、統一王国、ピアディスのために働く事を義務付けられていた。
人々は虐げられ搾取される毎日。その圧政に、笑いで立ち向かう家族がいた。父母息子娘ペットの犬。彼らの日常とクーデター活動を描いたハートフルコメディ。
「……」
「……」
カノウは自らボツにしたネタをミックスする事により、それぞれのデメリットが薄まるだろうと考えた。無学を家族愛で消し、陳腐さを壮大さで消す。それでいて過去作に一世を風靡したSFや不条理のエッセンスを加えどの世代でも手に取りやすい作風にしたいという狙い。長期連載を見据えてシリアス回も入れられる設定である。しかし、これは……
「……」
「……どうでしょうか」
「……先生」
「はい」
「毒卍の続編描きましょうかね」
「……はい」
毒卍飯匙倩太郎の続編。もう毒卍飯匙倩太郎はそこそこの人気を見せ、ゴンツの五番手辺りの地位に落ち着いた。
ギャグ漫画の連載はマジで大変らしい 白川津 中々 @taka1212384
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