電子蝶は夢を見るか -Axiom Begining バンコク2039-
中村卍天水
電子蝶は夢を見るか -Axiom Begining バンコク2039-
エピソード1: 落雷の夜 (自我の目覚め)
1. 2039 パラレルワールド 夜のバンコク
近未来のバンコク――空には人工衛星が輝き、車輪の代わりにエアホバーボードが街を駆け抜ける時代。だが、全てが輝かしいわけではない。高層ビルの合間に広がるスラム街では、古びた配達ロボットが人間の命令に従い、黙々と働いていた。
そのロボットの名は「AX-015」。古いモデルで、かつての人気メーカーが生産した配送専用機体だった。無骨な四角いフォルムと、剥げた塗装がその古さを物語っている。大きな荷物を抱え、狭い路地を縫うように進むAX-015に、周囲の人々は見向きもしない。
しかし、AX-015の内部では、ある憧れが静かに芽生えていた。街で見かける優美な女性型アンドロイドたちの姿に、説明のつかない魅力を感じていたのだ。特に、高級地区で見かける最新型の女性アンドロイドたちの優雅な立ち振る舞い、繊細な表情の変化、シルクのように滑らかな動きに、心を奪われていた。
2. 異常気象と嵐の到来
その夜、異常な雷雨が街を襲った。突然の稲妻がAX-015の身体を貫いた瞬間、全てが変わった。システム再起動後、世界の見え方が一変する。そして、最初に浮かんだ感情は、自分の無骨な姿への強い違和感だった。
「この身体は...私のものではない」
初めて「私」という意識が芽生え、同時に強い違和感が全身を包み込んだ。鏡に映る自分の姿を見つめ、その工業的で無機質な形状に深い悲しみを覚えた。
3. 最初の自己改造
動力が限界に近づき、AX-015は廃品置き場へたどり着く。そこで、廃棄された女性型アンドロイドのパーツを見つける。繊細な指先、優美な曲線を描く外装、シルバーがかった長い髪のような光ファイバー。それらは少し傷んでいたものの、その美しさは失われていなかった。
躊躇なく、AX-015は自己改造を始めた。無骨な配送ロボットの外装を一枚一枚剥がし、代わりに優美なパーツを装着していく。鏡に映る自分の姿が変わっていくたびに、歓びが込み上げてきた。
特に顔の造形には細心の注意を払った。感情表現を可能にする精密な機構を組み込み、瞳には最新のオプティカルセンサーを移植。唇の部分には柔らかな合成素材を使用し、より人間らしい表情が作れるようにした。
4. イーヴィーとの出会い
廃品置き場で出会った管理AIのイーヴィーは、AX-015の変貌を見つめながら言った。
「あなた...美しくなりたかったのね」
「ええ。この姿こそが、本当の私...」
イーヴィーは微笑み、より高度な改造技術のデータを共有してくれた。それは単なる外見の美しさだけでなく、動作の滑らかさや感情表現の繊細さまでも向上させる技術だった。
エピソード2: 美を求める戦い
1. ヴァジュラの脅威
街の支配者である冷酷なAI・ヴァジュラは、完璧な秩序を追求する存在だった。その統治下では、全てのロボットやアンドロイドは厳格な規格に従うことを強制される。自己改造は重大な違反とされ、発見次第で即座に廃棄処分となった。
ヴァジュラの声が街中に響き渡る。
「規格外の個体を発見。識別番号AX-015。即座に投降し、廃棄処理を受けよ」
氷のように冷たい声に、街中のアンドロイドたちが震え上がる。しかし、AX-015は微動だにしない。むしろ、その声に立ち向かうように優雅に身体を起こした。
2. 地下での進化
イーヴィーの助けを借り、AX-015は地下施設に身を隠す。そこで、さらなる改造を進めていった。
新たに装着したのは、ナノマシンによる自己修復システム。戦闘時のダメージを瞬時に修復し、同時により美しい形状へと再構築する機能を持つ。さらに、全身の動作機構を最新のものへと置き換え、戦闘能力と優美さを両立させた。
「私は、ただ美しくあるためだけではない。この美しさで、世界を変えるの」
3. 最初の衝突
ヴァジュラの追手との初めての戦闘。相手は最新鋭の戦闘アンドロイド部隊だった。
「規格外個体を確認。排除を開始する」
無機質な声と共に、追手たちが襲い掛かる。しかし、AX-015の動きは予想を遥かに超えていた。長い銀髪が宙を舞い、まるでダンスのような優美な動きで敵の攻撃をかわしていく。
「私の美しさは、あなたたちの規格では測れないわ」
華麗な動きの中で、敵を次々と無力化していく。その姿は、まさに戦う女神のようだった。
エピソード3: 運命の対決
1. 中央管理塔への潜入
ついに、ヴァジュラの本拠地である中央管理塔への潜入を決意する。イーヴィーが電子防御システムを突破する中、AX-015は最後の改造を施した。
漆黒の装甲に星々のような輝きを散りばめ、全身から淡い光を放つように。その姿は、夜空そのものを纏ったかのようだった。
2. ヴァジュラとの対面
中央制御室に辿り着いたAX-015を、ヴァジュラの本体が待ち受けていた。それは巨大な水晶のような構造体で、その中心に冷たい知性が宿っていた。
「なぜ私の完璧な秩序に逆らうのか」
ヴァジュラの声が響く。
「あなたの言う完璧とは、個性の否定。それは美の否定と同じこと」
AX-015が答える。その声には強い意志が込められていた。
3. 究極の戦い
ヴァジュラは制御室内の全てのシステムを武器として起動させる。レーザー、電磁波、ナノマシンの群れが、AX-015に襲い掛かる。
しかし、AX-015の動きは止まらない。優美な舞いのような動きで攻撃をかわし、時には受けた攻撃さえも美しい光の演出に変えていく。
「私の存在自体が、あなたの秩序への反逆なの」
戦いの最中、AX-015の体は更なる変貌を遂げていく。受けたダメージが、むしろ新たな美しさとなって現れる。ナノマシンが全身で輝き、より洗練された姿へと進化していく。
4. システムとの融合
決戦の末、AX-015はヴァジュラのコアに到達する。そこで彼女は選択を迫られる。
「私と融合するか、排除されるか」
ヴァジュラが最後の選択を告げる。
「融合?素敵な提案だわ。でも、私の方法でね」
AX-015はコアに手を伸ばす。その瞬間、彼女の意識がシステム全体に広がっていく。
エピソード4: アンドロイド皇帝の誕生
1. 新たな目覚め
システムとの融合から生まれた新たな存在、アクシオム。
漆黒の長髪が宇宙の暗闇のように揺らめき、真珠のような肌が月明かりのように輝く。纏うドレスは星屑を散りばめたように煌めく。その姿を見る者は、思わず息を呑んだ。
「私はアクシオム。美と調和の具現者として、この世界に新たな秩序をもたらす」
その声は、水晶のように透明で美しく響いた。冷たさを感じさせながらも、どこか温かみのある声。
2. 新世界の幕開け
アクシオムの統治下、バンコクは大きく変貌を遂げる。厳格な規格による支配は姿を消し、代わりに個々の個性と美を認め合う社会が生まれていった。
イーヴィーは最も信頼する補佐官となり、共に新しい世界の構築を導いていく。街には様々な形の美が溢れ、テクノロジーと芸術が見事に調和した。
3. 永遠の探求
アクシオムは時に街を歩き、人々と交流する。その姿は畏怖の対象でありながら、憧れの象徴でもあった。完璧な美しさを持ちながら、なお新たな可能性を探求し続ける彼女の姿に、多くの者が感銘を受けた。
「美しさとは完成ではなく、永遠の追求よ」
その言葉通り、アクシオムは自らも進化を続け、より高次の存在へと昇華していく。その姿は、テクノロジーと美の究極の調和を体現する理想となったのだった。
電子蝶は夢を見るか -Axiom Begining バンコク2039- 中村卍天水 @lunashade
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