Scene6 See the glass half full
大人 おい、あったぞ、
少女 (鼻をすすっている)
大人 ……大丈夫か?風邪、ひいたんじゃ……?
少女 (目元を拭いながら)大丈夫………。
大人 …………。(少女にシーグラスを渡す)
少女 (懐中電灯を当て)……奇麗。
大人 それ、元々ガラスの破片なんだと。波に削られるだけで、そんなに綺麗になるなんて、不思議だよな。
大人 ……なぁ、お前は人に迷惑をかけないようにしようと思って、いつも大丈夫って言ってんだろ。
少女 (うなずく)
大人 お前は優しそうだもんな…。でもな、周りに迷惑かけんのも、大事だぞ。(煙草に火をつける)
少女 ……でも、妖精さんが、もうすぐ大人なんだから、迷惑かけないようにって。
大人 妖精さん?……よくわかんねぇけど、大人になるって、そういうことじゃないと俺は思うよ。
少女 じゃあ、どういうこと?
大人 確かに、周りに迷惑をかけないようなご立派な人間になることも、大人になる上できっと大事なんだろう。だけど、迷惑をかけないようにと思って、迷惑をかけることができないような人間になっちゃいけない。
少女 ……?
大人 その様子だと、あんまピンと来てないみたいだな。そうだな……。お前は、ずっと迷惑をかけるまいと、大丈夫、と言ってきた。でも、それによって自分を苦しめてしまう人がいるんだ。周りの人に迷惑をかけてしまうのは嫌だから、大丈夫じゃなきゃいけない……、そうやってさ……。
少女 ……私ね、ずっとこのシーグラスみたいに、自分の心をすりガラスにして、誰にも迷惑をかけないように、外から見えないようにしてたのかもしれない……。それが、大人になるってことだと思ってたから……でも、違うんだね。
少女 ……ねぇ、オトゥーナは、大人?
大人 さあな。でも、お前よりはきっと大人。お前は大人になりたくないと思ってる口だろ?
少女 ……なんでわかったの?
大人 なんとなく言ったみたら当たっただけ、特に根拠はないさ。
少女 だけど、オトゥーナの言ったことはちょっとはずれ。今までは、大人になりたくないって思ってた。……大人になるにつれて、大切なものを手放さなきゃいけなくなっていく感じがしてたから。
大人 確かに、俺もガキの頃は、大人なんてみんな空っぽだって思ってた。
少女 でもね、大切なものは無くなったわけじゃなくて、心の奥に大事にしまってあるだけなんだって気づいた。それが近くになくても、ちゃんと生きていけるって自分が思ったからなんだ、って……。だから、大人になるのも悪くないかなーって思い始めてる。
大人 大事なものは、心の奥に、か。じゃあ、あいつもまだ俺の中にいるんだろうな……。(煙草を地面に擦り付け)今の俺をあいつが見たら、なんて言うか…。
少女 きっと、前に進んで欲しいとか、長生きして欲しいとかって思ってるんじゃない?……その人のことよく知らないけど。(ココアシガレットをポケットから取り出し)いる?私、お腹すいちゃった。
大人 ……(少女に新卒の面影を感じる)。
少女 もしかして、ココアシガレット嫌い?
大人 いや……。(唐突に)煙草やめるか、って思って。
少女 ……いいんじゃない?
しばらく2人で海を眺める
少女 クシュンっ!(ブルブル)
大人 ……そろそろ車に戻った方が良さそうだな。
少女 そうだね
閉幕
See the Glass half Empty 野刈魁(ノガリヤス) @Tabuse-Kaoru
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