第3話 例え話は自分がバッチリだと感じても思ったより伝わらないことのほうが多い
――はい!完成!イチゴ!!
「おお、凄いトマトじゃ!」
はい!みかんー!!
「おお、凄い柿じゃ!」
ほい!バナナ!!
「おお、凄いティレポンじゃ!」
俺はスキルの有用性を証明する為に次々と果物を作った。
パチパチパチパチ!!
鳴り止まない拍手。
ペペロンはすっかり上機嫌なようだ。
そろそろここから出してほしい。
「なるほど、面白いスキルじゃの」
手ごたえアリ!
「……じゃあ?」
「うーん、でもこれでどうやって戦うんじゃ?」
ギクッ!確かに。
このスキルは戦いに向かない。
わざわざ紙粘土をコネて色塗って物を作る。
戦闘でこの行程は長すぎるし作ったところで、だから?といった感じだ……まずいか?
「勇者にはむかないなー」
オーマイガー!!
これは追放パターン?それともここから出られない?
いや、そこまでしなくていいよね。
勝手に呼び出されたわけですし。
あと、何で俺勇者になりたいみたいな空気になってるの?
などと考えてると目キラキラさせたダイジンが語り出した。
「王様!この能力は凄いですよ。世界を救える可能性があります!」
「何!?本当か?ダイジン」
まじ?
俺自身このスキルで全然戦える気がしないけど、取り敢えず続きを聞こう。
「これは言わば無から物を生み出せる能力です。何故人は戦うのか、それは物が有限だからです。土地や資源、必ず物には限りがある。そしてその奪い合いが起きてしまう……それが戦争です。魔王軍の要求もその例外ではなく土地や資源。つまりこの能力でそれらを大量に作れば戦う理由がなくなる。世界を救えるんです!!」
――少しの沈黙の後、真剣な顔をしたペペロンが口を開いた。
「なるほど!これでトマトが無限に作れるってわけじゃな」
――え?
「違うだろ!!話聞いてた?」
「んあ、いやわかってるよ。そうだね、確かにそれなら世界救えるかもね!柿も美味しいしね」
――ダメだこりゃ。
―――――――――――――――――――――――――――
俺のスキル万能粘土には世界を救える可能性がある。
確かにダイジンの言ったことは正しい。
例えば二人の子供を持つお母さんがいたとしよう。
おやつにチョコレートを一つだけ買っていく。
するとどうなる?
そんなの決まっている。
奪い合いだ。
言うならばこれが戦争。
だがチョコレートが二つだったら?
「お兄ちゃんが二つ食べる」
そんなこともあるだろう。
だが三つとか四つだったら……そう。
「お兄ちゃんが四つ食べる」
よく食べるお兄ちゃんだね。
だがチョコレートが無限なら。
そう、奪い合うことは無い。
俺のスキルが世界を救えると言ったのはつまりそういうことだ。
「わかった?王様」
――もう何度目の説明だろう。
だが流石にこれだけレベルを下げればこのアホなペペロンにも理解できるだろう。
「そんなにチョコレートを食べたら鼻血出ちゃうね」
あ、ダメだった。
えーと次の例えば――
「王様、とにかくコウサク様のスキルは非常に優秀なんです。確かに勇者としての適性は高いとは言えません。しかし、このまま元の世界に帰してしまうのはあまりにも勿体ないです。この国で暮らして頂くようお願いしてもらえないでしょうか」
ダ、ダイジン!
さっきは怒鳴ってごめんよ。
俺のことをこんなに評価してくれた人はお前が初めてだ。
あと、帰ろうと思えば元の世界に帰れるんだね。
「ふむ……しかし……」
それに比べてペペロン……。
全然スキル理解しないし、この後に及んでまだ悩む?
決断できない王。
ダメ王。
あんなに熱いダイジン言葉を聞いても動けず。
とても人の上に立つ器ではない。
「何を悩んでおられるのですか?」
「いや、それはわしらにとって、あまりにも虫が良すぎる話だと思ってな」
――へ?
「コウサクのスキル万能粘土は確かにこの世界の戦いを終わらせることが出来る。しかしそれはこの能力が正しく使われた場合じゃ。凄い能力が世に知れた時、必ずそれを悪用しようとする者が現れる。拘束、監禁、暴力……。コウサク自身に戦う力があれば跳ね除けることができるかもしれないが戦闘には向かない能力。わしだってコウサクにはこの世界に残って貰いたい!だがコウサクがあまりにも危険過ぎる……」
――。
「王……仰る通りワタクシは自分達のことしか考えておりませんでした。今日我々によって呼び出されたコウサク様にとってこの世界は縁もゆかりも無い土地。それを能力があるからといって危険に晒すのはあまりにも身勝手……。元の世界に帰還させるのがコウサク様にとって良いのかもしれませんね」
――――。
「……だけど!……身勝手を承知でお願いしたい!!」
――王様が土下座?
「この世界に……残ってくれないか」
……悩むまでもない。
「喜んで。俺なんかがお役に立てるなら」
俺は手を差し出した。
「……ありがとう」
――こうして俺の異世界生活が始まった。
「……言質取ったなダイジン」
「っは」
「宴じゃー!!城の者を集めろー!!!」
「うおぉぉー!!!」
そう言って二人はこの場を去った。
言質?まあいいか。
嬉しいね。
まさかここまで歓迎されるとは。
世界を救う……か。
何の取り柄もない不器用な俺だけどちょっと頑張ってみようかな。
――。
「っておい!!ここから出してくれぇぇー!!」
牢屋中に俺の声が響き渡った。
ナニコレ?〜万能粘土と不器用な俺の異世界生活〜 扇太郎 @spoken
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