さあ行こう、ょぅι゛ょを連れて異世界へ?

‪†‬らみえる‪†‬

第1話

「マジであっちぃな……コレが地球温暖化ってやつか……」


 2012年、埼玉県某町の夏。

 地球温暖化を憂う少年、──『星丘龍樹ホシオカリュウジュ』は残暑の暑さが絶えない中で、高校の始業式→ゲーセンで格ゲー無双(コレが原因で殴り合い)→スーパーで買い物というルートで父親に誕生日プレゼントで買って貰ったロードバイクを走らせる。


「はぁ……にしてもつまんねぇ……あーあ。世の中はこんなに大騒ぎってんのに、んで!どうして!ここはいつも!……っ!……、はぁ平和だ……」


 夏休みが明けた事による反動。その倦怠感で溜息が出る。

 世間では、関東で起こった大地震。それによる原発事故。さらに日本各地で発生した正体不明の大量失踪事件かみかくしの話題で持ち切り、連日ニュースで報道されている物騒な世の中。


 ここ、埼玉県某町(個人情報プライバシー?ってヤツだ!)では、失踪事件の噂が──平和過ぎるので無い。

 テレビはある。ラジオもある。自動車クルマもまぁまぁ走ってる──が、バスはあまり多くない。

 ……そんな中途半端に田舎でつまらない町。


「ま、気にしててもしょうがねぇな。うし!そんじゃコンビニでも寄ってアイスでも買うとすっかなー!」


 リュウジュの自宅である星丘神社。その神社の前にある交差点を跨いだ先にあるコンビニに立ち寄った。


「お、ジャンプあんじゃん!」


 そうして週間雑誌を手に取った後、少しパラパラっと立ち読みしてすぐに棚に戻した。

 最近、何に対しても熱中出来ず、すぐつまらなく感じてしまうのが龍樹リュウジュの悩みだ。


「えーと、オレのとサクラと母さんと、それとあのレン姉ニートの分は……ま、いっか!」


 じんじゃに巣食うレン姉23歳ニート以外の家族分のアイスを購入。

 小銭の端数計算に苦戦し、店員にイラつかれしょげながらカバンを背負いスーパーの袋とコンビニの小さい袋を手に持ち、停めておいたロードバイクに跨る。


 そして交差点。最近人気の『異世界転生』『異世界転移』を期待し、5時のチャイムが鳴り響く中でソワソワしながら青信号を待つ。


「……って、なってくれればこの渇いた心も潤うってのに……ま、あるワケねぇか……そんなこと言っても、現実リアルにも大切な人が居るしな……オレも死にたくねぇし、今必死に生きてる人にも残念ながら死んじまった人にも失礼ってヤツだよな」


 交差点を渡る。トラックは来ない。そもそも今日は平日のハズなのに何故か車の数が何となく少ない。

 余計、何かあるのだろうと思ってしまったが、何も無く無事に渡りきった。


(何かはあれよ!……っ、はぁ、期待しちまったじゃねぇか……)


 ロードバイクから降り、それを持ち上げて片手半分は我が家の食料を手に持ち、もう片手半分はロードバイクを背中に担ぎながら50段位の境内けいだいまでの階段を登る。


「はぁはぁっ、今日はマジあぢぃし、10kmくらい突っ走ってきたから、いつもこの位楽勝の階段がっ、まぁまぁきちぃ……っ!」


 そして登頂。鳥居を潜り抜けた先に待っていたのは……


「おっかえりー!! 龍〜樹リュウジュきゅ〜ん☆」


 ──待っていたのは、とても巫女代理とは思えないくらいにラフな格好をしたバストのでかい23歳フリーター。龍樹リュウジュの実の姉。『星丘華蓮ホシオカカレン』だった。

 ほうきを肩に担いでいた為、恐らく境内けいだいの掃除中だったのであろう。


「うっわ……てんごくが『あっ、おにーちゃん!おかえり!』って笑顔で出迎えてくれてるんじゃねぇか?と思って期待したらレン姉コレかよ……地獄ったらありゃしねぇぜ……」


「おっとー?いいのかにゃあ?今このほうきでボコボコにしちゃって、き・の・う・の・☆ 写真印刷して額縁に飾っちゃってもぉ?」


 外道。本当に剣道の道を極めようとしていたとは思えない所業。


「げ、外道過ぎるぜ……」

「ん〜? なんか言ったかにゃ?」

「いえ!なんにも言ってないです!」


 正直、龍樹リュウジュはどんなに頑張ってもレン姉ニートには敵わない。

 何故ならこのニート、剣道五段なのだ。それに高校の部活動で全国大会3位に入賞した経験もある。

 その為、例え木刀ではなくほうきだったとしても龍樹リュウジュを本当にボコボコにできるだろう。


(剣道だけだったら、オレとか親父とかよりも強えのマジで納得いかねぇ……)


 納得のいかない龍樹リュウジュは溜息を漏らす。


「──ん〜?……おや!?おやおやおや!?」


 そしてようやくレン姉が龍樹リュウジュの荷物へと目を向けた。


「んだよニート……って、あ──」


 龍樹リュウジュもレン姉の視線に気づき、死を覚悟する。

 ────レン姉の視線は、アイスの入ったコンビニ袋に向けられていた。


龍樹リュウジュっきゅ〜ん!!」

「やめっ、来るなッ、っつおあッ!!!!」


 レン姉の身体が龍樹リュウジュに向かって宙を舞い、飛びかかって来る。

 龍樹リュウジュは思わず体勢を崩し、レン姉諸共盛大に転倒する。


「んもう!龍樹リュウきゅんったらツンデレなんだからぁん!このアイス、もちろん全員分あるよね?!」


 不味いことになった。


「お、おう……もちろんあるぜ……(こんのニート!!また買いに行かねーといけねぇじゃねぇか!!)」と、頬擦りされながら答える。


「よろしい!!そしたら龍樹リュウジュきゅんの恥っずかし〜い萌え萌え九尾きつね娘ちゃんのエロゲーで夜な夜な致してる写真は削除したげる!(しないけどねん☆)んじゃ!仕事おーわりっ!!家まで競走だーい!!」


321スリートゥーワンGO…SHOOTゴー…シュウッ!!」と言い、レン姉バカニートは、奥の鳥居を抜け家まで走り去ってしまった。


「あっ!おい馬鹿姉貴!!荷物くらい持ってけよ!!……。チッ、馬鹿ニート!!…………クソ、あのニート滅茶苦茶すぎるぜ……」


 そして境内けいだいに1人、御神木に見守られながら取り残されてしまった龍樹リュウジュは『疲れた!』と呟き、何となく賽銭箱に5円玉を入れ、お参りをする。


「はぁ、めんどくせー!!……、コンビニ行くかぁ……」


 面倒臭がりながらリュウジュはロードバイクを境内けいだいに停め、荷物は置いて財布だけ持ち、アイスが溶けないように小走りで境内の鳥居いりぐちを抜けようとした時。


「……っ、──なんだ、コレ……?」


 ────空気が変わった。

 ……いや、既に変わっていた事に気づく。


「幽霊か……? いや、いつもの雰囲気じゃねぇ……じゃあ、なんなんだコレ……?」


 森林に囲まれたマイナスイオンで湿っぽい空気が、何かを境に一瞬にして空気が澄んだ。

 あれほど暑かった暑さは一切感じない。さっきまで聞こえていた蝉の声すらも聞こえない。夕焼けは周囲一帯の『虚空ヴォイド』に変貌する。


『──人の子よ。貴様、今すぐ契約せい』


 突如、『虚空ヴォイド』から謎の声が聞こえた。

 その途端、風が吹き、周囲の『虚空』は『星空』に変貌した。


「は────、?!」


 幻想的な風景。気がつけば龍樹リュウジュは砂漠のど真ん中に立っていた。彼の眼前に広がるは広大な砂漠と、朝日たいよう星空つきに分かれた空。遠くには砂漠の丘に高く聳え立つそびえたつ巨大な大樹が、────


『────おい、貴様聞いておるのか!?』


 龍樹リュウジュの困惑を断ち切る様に、無理やり認識させられる様に、突然リュウジュの前に現れたのはだった。


「どこだ?此処……って!お前誰だよ!?なんなんだよ!?そのカッコウ!?」


『ああ、これケモ耳スク水か。消滅する寸前だったのでな、アバターがこれしか造れんくて、仕方が無かったのじゃ。所謂いわゆるすくみずスクール水着』というヤツじゃな。我は案外気に入っておる』


 数秒の静寂。

 …………で、一体誰なのか?此処は何処なのか?


「……んで、誰なんだお前……」


 龍樹リュウジュは幼女に問う。だが龍樹リュウジュによりこの幼女のだいたいの正体は分かりきっていた。


『──今は名前など関係ない!今はが先じゃ!偉大なる我唯一神と契約を結べるなど、全ての星の民信者が……いや、全人類が望んでも叶わないモノじゃ!!どうじゃ?……さあ!早く『いえすYES』と言って、この契約書に『さいん』せい!』


「あの……拒否権は……」

『言語道断!!もちろん無い!!』

「じゃあ最初の売り文句いらねぇだろ!!」


 ツッコミと溜息が出る。確かに龍樹リュウジュは非日常を願ったが────


『な、何故じゃ!? 人の子よ、何故そこまで契約を嫌う!?貴様は散々『非日常』を願っていたじゃろ!?』


 その幼女はかなり焦った様子で、龍樹リュウジュに疑問を投げかける。


「……まあ、そうだが……。なーんかお前の誘いに乗っちまったら、達に会えなくなりそうで……」


 ────家族に会えなくなるという、不確かな不安があった。


「安心せい。それも貴様の願いも全て叶えてやろう。しかも今なら!いつもなら悪魔の魂を七つで願いを叶えられるのじゃが……なんと!今回は特別に!お買得価格の税込19800¥イチキュッパじゃ!!」


「安〜い♪……じゃねーよ!!金とんのかよ!?コイツ邪神じゃねーか!?願いを本当に叶えてくれんなら破格だけども!?」


 まさかの通信販売方式。『神』が19800¥イチキュッパ戦法を取ってくるとは思いもしていなかった。


『普段なら全ての世から存在ごと貴様を抹消していたが、今はその力すら残っておらん。『唯一神』の寛大な心により特別に赦してやる。次は無いぞ人の子』


「うわ、やっぱ邪神じゃねぇか……よし、んじゃ分かった!『名前』を教えてくれたら『契約』してやる!」


 龍樹リュウジュは条件を提示した。


『……チッ、そこまでして聞きたいか。……人の子よ!聞いて驚け!!わらわの名は××××神聖四文字じゃ!!』


「……え?なんて?」


『チッ、じゃから言ったのじゃ……我の名前は××××神聖四文字!!!!あーもう!!不便すぎるのじゃ!!』


 ピー音がかかって本当に聞き取れない。何?なんで?どういう仕組み?

 龍樹リュウジュはこれ以上の追求は意味が無いと考えた為、諦めた。


「はぁ……わかった。わかったって。『契約』すりゃ良いんだろ?」


『してくれるのか!?』と幼女カミが喜ぶ。

『仕方ねーだろ……なんか可哀想だし……』と龍樹リュウジュが呟く。


 そして幼女カミ龍樹リュウジュに契約書とペンのようなものを渡し、リュウジュはそれにサインをする。


 龍樹リュウジュは不安こそはあったが、恐怖は無かった。

 何故かは分からない。誰かの影が、龍樹リュウジュの心の中にいる気がして、それが支えとなっていたからかも知れない。

 だが、詳しくは分からない。────あ、クーリングオフが効くからか。


「クーリングオフってすげー……特定商取引法バンザイ!!」

『──ちなみに『くーりんぐおふ』とやらは効かん』


 そもそもここは日本では無い。もう既にここは『異空間』なのだ。日本の法律が効くわけ無い。

 バカでアホな龍樹リュウジュは勢いのままに、まんまと幼女じゃしんの口車に乗せられた。


「……は!?、ちょっと待て!!今のナシ!!『契約』とやらはナシ!!」


『ハッ!もう遅いわ!!……ようやく……、ようやくじゃ!!ようやくあのに復讐する事が出来る!!唯一神としての誇りプライドを取り戻せる!!』


「え、ちょっ──」


 龍樹リュウジュが持つ『契約書』が輝きを放ち、龍樹リュウジュは『転移』してしまった。



 ◇



龍樹リュウきゅ〜ん!! ん、あれー?おっかしいなー……どこ行ったんだー?私のアイス?」


 龍樹リュウジュとレン姉が別れて30分が経過した。一向に帰って来ない龍樹リュウジュに痺れを切らし、レン姉は名前を呼び掛けながら神社の境内けいだいへ向かう。


「……は、ははっ……ま、まさか、最近話題の『神隠し』ってヤツ?コレ?……」


 レン姉の悪い予感。レン姉の勘は超常現象レベルで良く当たるという評判がある。





 ──そしてそれ悪い予感はいつもの様に『的中』してしまった。


 神社の境内けいだいに落ちていたのは龍樹リュウジュの荷物と────ロードバイクだった。溶けたアイスにアリが集っている様子がよく見える。

 ロードバイクがここにあるという事は、龍樹リュウジュという証拠。


「嘘、マジ……? ホントにそう神隠しなの?なんでよりにもよって、この町で、龍樹リュウくんが……!!」


 遠くに行っていないハズなのだが、声を掛けても返事が無ければ、姿も見えない。

 という事は、『神隠し』。そう結論付けるしかない。


「はははっ、なんで……今なのよ?父さんが死んで、ショック受けてお母さんが引きこもってるって言う時にさ……」


『星丘神社』の本来の巫女は、彼女たちレン姉と龍樹と桜の母親。

 訳あってショックを受けた母親の代わりに『巫女代理』として仕事を任されたのが、レン姉だ。


「可能性……」


 そう言った瞬間レン姉は、神社の階段を駆けた。

 ──しかし、明るかった夕日は雲で陰り始めている。

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