転生サンタは楽じゃない

ジュン・ガリアーノ

前夜 サンタ苦労す

 俺は山下一郎。

 名前もフツーだし、見た目もフツー。

 マジで何の取り柄もねぇ、フツーの男だ。


 ん? 彼女はいるかって?

 お前さん、話を聞いてなかったのかい?

 フツーなんだから、いる訳ねぇっつーの。

 彼女が出来るとか異常。

 世界がバグってるとしか思えない。

 相手が可愛けりゃ、そりゃその男の頭が◯カれてんだよ。

 幻覚幻覚ぅ♪

 ……ハアッ、俺の世界もバグんねーかな。


 けど、そんな俺もお前らに一つだけ誇れるもんがある。

 そいつは『転生』だ!

 どーでぃ、スゲーだろ。

 ん? 今さらフツー?

 ノンノン、んなこたぁ分かってる。

 異世界に転生すんのは、ラノベじゃ王道って言いたいんだろ。

 で、活躍しまくるのもそーだよな。


 けどよ、聞いて驚け。

 俺はよ、なんと……江戸時代で転生したんよ!

 江戸時代に、じゃなくて、江戸時代に生きてた時に転生したんだって。

 そう。ラノベの兄ちゃん達は大体が現代だろ。

 んで、大体が引きこもりのニートが交通事故にあって転生して、女の子達からモテまくりに。


 でも俺は江戸時代に転生をしたんだから、大先輩よ。

 敬え敬え♪

 しかも、俺はニートとかじゃなかったぜ!

 何してたか?

 そりゃアレよ……まあなんての……いいじゃねぇか!

 ん? モテまくりかって?

 あっ? あーーーそうな……なぁ? ああ、まあ、まあ……ハア〜〜〜〜〜ッ


 いいかお前ら、よーく聞け。

 転生も楽じゃねぇんだよ。

 俺がどんな目に会ったと思う?


 いや俺はよ、馬から落ちて死んだんよ。

 カワイイ子がいて見とれてたら、そのままズルッと落ちてそのまんま。

 あの子を落とそうと思ったら、俺が落ちてやんの。

 しかも馬から。

 こんな事ばっかだよ、チクショウ。

 で、まあ、江戸時代の暮らしも楽じゃなかったし、死んだ後はな、正直もういいかなと思ったんよ。

 なんか天国っぽいとこにもきたしさ。


───あ~〜ちょっと休も。


 って。

 けどそん時さ、俺の目の前にメッチャ可愛い女の子が現れたんよ。

 いや、マジで可愛い。

 少なくとも俺の超タイプ。

 なんていうか、キレ可愛いみたいな。

 いるじゃん、そういうヤツ。


 で、その超絶カワイイ子ちゃんが言ってきたんよ。


「ねぇ、転生しちゃおっか♪」

「はっ?」


 いやもう、そりゃビックリよ。

 俺としてはもう休みたかったから。

 マジで疲れたんよ。

 アレだ。

 週末ヘトヘトになって帰ると、もう寝たいってやつ。

 あれあれ。だから、俺言ったんよ。


「いや、マジでムリ。ちょっと天国で休ませて。頼むわ」


 したらさ、女の子それまで超ニコニコしてたのに、急にメッチャ悲しそうにしてきてさ。

 ホント、ズルい。

 しかもそのまま呟いたんよ。


「……一緒にいきたかったのに」

「え! ちょちょちょ、今なんつった?!」


 俺がバッとその子に身を乗り出した瞬間に、さらに言ってきたからもうダメだったわ。


「……待ってたのに。あ~ぁ……」


 今思えばここで、


「舐めんなコラッ! んなもんに騙される訳ねぇだろ! このビッチがぁっ!」


 って引っ叩きゃよかったんだけど、うん、出来ないよね。


「えっ? ま、待ってたって……俺を?」


 そしたらその子、上目遣いでコクン……と頷きやがったんよ。

 いやもうムリでしょ。

 こんなんに耐えられる男はいない。

 学会で発表してもいい。

 『上目遣いとコクンの関係性』とかさ。

 そんぐらいムリ。


 で、俺はポカポカした雰囲気の天国のルートを変更して着いてったんだ。

 すると、なんとね、なんか急にメッチャ恐い男が出てきたんよ。

 しかもあの世だから、現世とは比べもんになんねーよ。

 百、千、いやもう兆勝てないレベル。

 その男が言ってきたのさ。


「お前、次はサンタな」

「はい? 俺は一郎……」

「アホか。サンタちゅうのはな……」


 俺はそこからサンタが何なのかと、何をせんとアカンのかをコンコンと説かれた。

 ちなみにあの子は?

 ああ、もう分かってるだろ。

 俺を見て、可愛く舌をペロッて出してたよ。


 そう、そう、そーです。

 騙されたんよ。

 ねぇ、よく聞くでしょ。

 街中で可愛い子に声かけられて、着いていったら恐いお兄ちゃん達がいっぱいいてさ、契約するまで部屋から出れないとかさ。

 アレの天国バージョン。

 てか、天国じゃねーか。

 まあいいや。

 

 とにかく、そんなこんなで俺はサンタになったんよ。

 長くなったな。


 で、けど大変なのはこっからなんだよ。

 なんかさ、天国も、

 『時代を先取りする霊サービス』を!

 とか、言ってたんよ。

 正確に言えば『日本担当者』がさ。

 おるやん! そーゆーヤツ!

 なんかこう、いけ好かねぇっていうかさ、なんての、ああもう、上手く言えねぇけど、意識高ぇみたいなヤツよ。


 まあそりゃあさ、色々考えるのはいいよ。

 でも、やるのはコッチなんよ。

 現場。

 分かる? 現場の人間、まだ正確に言えば……ん? 俺は何だ?

 いいや。とにかく現場のヤツが割を食うんよ。


 ちょうどその頃西洋の方で『サンタクロース』っていうメッチャ新しいヤツらが現れてさ。

 いや、今までは願い叶えてもらうとかソートー大変だったんよ。

 物とかなんてマジで貰えん貰えん。

 ただ世も末で末法の世になると、なんか物を貰えんといい事せんくなっちゃったんよ。

 人がね。

 だからしゃーなく、そういうサービスを始めた訳よ。

 でもね、ぶっちゃけ大して変わんねぇのよ。

 年一だし、子供限定だしな。

 

 だから止めとけ言ったらしいんだけど、エラーい神さんがさ、やるって言って聞かなかったらしいんだ。

 で……って、うわっ!


「もー、いつまで愚痴言ってるの!」

「あっ、いや愚痴とかじゃなくてさ、ほら、なんつーの……」

「ここからは私『天城さくら』に任せてっ♪」


 一郎はさっき私の事を悪い女の子みたいに言ってたけど、ヘラヘラして着いてきたのは彼だから!

 私悪くないし!

 それにね、仕方ないじゃん。

 サンタ要員、必ず連れてこいって言われたんだもん。

 連れてこないと、彼が降格しちゃうとこだったから。  

 あっ、彼っていうのは一郎じゃなくて、私の上司。

 周りには内緒で付き合ってるの。

 もちろん、一郎には内緒ね♪


 で、今日はとりあえず今から準備して私と一郎で東京を回らなきゃいけないの。

 えっ? 付き合ってるのになんでイブに?

 ……ねぇ、そういうの尋くのってよくないよ。

 仕方ないじゃん。

 だって……


「ん? さくらちゃん、どーした?」

「ふんっ、別に……さっさと行くわよ!」

「なんで怒るん? 俺何かした? ねぇ、さくらちゃん。なあ、なあってば〜〜〜」


 ……まっ、とりあえずここからさくらちゃんと配達に行くんだけど、今年は何かヤバい。

 何か一軒、どーにも怪しい配達先がある。


「てかさくらちゃん、無幻町なんてあったっけ?」

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