Set your own. -せっちゅうあん-

八岐ロードショー

Q to A


Q.結婚は何年目ですか?


A.5年目になりました。


Q.交際期間はどれくらいだったんですか?


A.0ヶ月です。


Q.夫婦の仲は、どうですか


A.まずまず。


Q.最初の頃と変わったところはありますか?


A.ずっと、まずまず。なあなあ。


Q.プロポーズはどちらから?


A.いっせーの、で、同時に言いました。あんまり合わなくて八回やり直しました。九回目で諦めて、十回目にぴったり合いました。


Q.浮気をしたいと考えますか?


A.織姫と彦星にも、同じことが聞けるんですか?





AM 9:00


「遅刻だよ! 遅刻!」


背中を揺すられて目を覚ます。ぶわっと汗が吹き出る。遅刻か。確かにアラームはかけたつもりだったのに。


背後の声に急かされた颯太ふうたはベッドから飛び起きる。花那はなも、それに続いてベッドから起き上がる。


二人で洗面所へ向かい、歯ブラシを取り出す。颯太が歯ブラシを花那に渡し、その間に花那がコップに水を注ぐ。歯磨き粉は二つある。同時に歯ブラシへ粉を乗せる。無駄のない動きだった。


「しゃかしゃかしゃかしゃかしゃか」


今日は休日。土曜日である。颯太の出版社は休み。花那の広告代理店も休みだ。


「しゃかしゃかしゃかしゃかしゃか」


歯を磨き終え、口をゆすぎ、颯太は気が付いた。


今日は、休みの日だ。




「はやく、はやく」


急かす花那に背中を押され、颯太も急ぐ。花那が化粧をしている合わせ鏡に近づき、化粧品の一つを手に取る。リップだ。「この薄ピンクのやつ、いいよね」


「貸して」


花那は、開けて手に持っていた赤いリップを仕舞い、颯太のリップを奪い取る。




二人が向かったのはショッピングモールだった。何の予定も無く、何の相談もなく、助手席に座る花那のナビゲーションに従い続けて、隣の市にあるモールへ辿り着いた。


「何を買いに来たの」


「テレビでやってたやつ」


「あれか」


「そう、あれ」


颯太は、特に見当も付かずにあれかこれかと口にする。花那も、特にテレビでやってたあれやこれを見に来たわけではない。


二人は1階を周り、2階を周り、螺旋階段のように5階まで辿り着く。何も買わず、何も持たず、あれいいね、こっちのほうがいいよ、これ欲しいね、こういうのも欲しいけど。そんなことを言い合いながら、5階に設置されているゲームセンターへ辿り着く。


「このぬいぐるみ、部屋にあったら可愛くない?」


「絶対可愛い。というか、この子の目が部屋に来たがってるって感じだもん」


「だね」


颯太の日頃の行いもあってか、3回のクレジットでぬいぐるみのハートをがっしりとキャッチし、3人でゆるゆるとエスカレーターで一階へ降りて、そのまま帰路へついた。家に着いたのは、正午を回った頃合だった。




Q.奥さんのいいところはどこですか


A.可愛いところ。


Q.旦那さんのいいところはどこですか


A.可愛いところ。




PM 5:30


ちょっと昼寝でもしようか、が夕方になってしまうのはいつもの事だった。


颯太が目を覚ますと、隣に花那はいなかった。花那の姿を探し、新たな家族として迎えたぬいぐるみを脇に抱いて、リビングへ向かう。


花那はソファで、携帯ゲームに熱中していた。


「おはよう」


「おはよう。おはよー」


颯太はぬいぐるみの分も返事をしてから、ソファに近づく。寝転がっていた花那がゆっくりと起き上がり、颯太はその隣に座る。


「何のゲームしてんの」


「トゲモン」


「新しいやつ?」


「そう」


「見せて」


「ここのジムワッペンの仕掛けが、なかなか分からなくて苦戦しててさ」


「難しそう」


「難しいよ」


「頑張って」


「頑張ってるよ」


「君ならできるよ」


「だよね」




PM 7:50


携帯ゲーム機の電源を突然に切った花那が唸った。「飽きた」


「頑張ったね」


「映画みよ、映画」


花那がテレビをつけ、ストリーミングサービスのチャンネルに合わせる。


「映画観るなら、足りないものない?」


「あるかも」


「コーラとポテチ」


「あとグミ」


「「ウイスキー」」


二人は急いでシャワーを浴び、背中を流し合い、せかせかとお互いを蹴り合いながらコンビニへ向かった。




PM 10:20


映画を見終える頃には、二人の酔っ払いが完成している。


コークハイボールにまんまと酔わされた二人は、小突き合いを始める。


「お酒足りなーい」


「じゃんけんぽんしよ」


公平なじゃんけんぽんの結果、颯太が負けた。


「グーが一番強いんだからね」


「チョキを過信しすぎたよ」






Q.長続きの秘訣はあるんですか


A.相手に甘えること


Q.長続きの秘訣はあるんですか


A.相手を甘やかすこと






PM 10:50


缶チューハイを数本と、おつまみを袋に帰宅した颯太。そっとドアを閉じ、鍵を閉める。


「寝てるんかーい」


缶チューハイを冷蔵庫に仕舞い、ソファで寝息を立てる花那の身体を包み込むように抱きかかえる。


「お姫様みたい」


「お姫様でしょ」


不敵に、にやにやと笑い続ける花那を寝かしつけ、颯太は目を閉じる。


「……おやすみ」


花那は、先に寝てしまった颯太の額に息をふっとかける。デスクライトの電源が落ちる。


明日は日曜日だ。




Q.結婚とはなんですか?


A.二人の間を探ること


Q.結婚とはなんなんですか?


A.二人で一緒に考えること





-以上で質問を終わります-

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